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小国チェコが「中国からのカネ」より「台湾との友好」を選んだワケ

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大統領自らピアノ演奏を行う友好ぶりだったが…

中国では2018年以来、「一帯一路」沿線各国で作られた中国向け貿易品目を展示する「中国国際輸入博覧会(CIIE)」を毎年上海で開いている。これの第1回開幕に合わせ、チェコのゼマン大統領が訪中。その際、チェコのブースに展示されていたペトロフ製ピアノを使って、習近平国家主席を前に、同大統領が自ら記念の演奏を行った。曲は、ジャズのスタンダードナンバーとして有名な「センチメンタル・ジャーニー」。上海ジャズの歴史は世界に知られることから、それを意識しての選曲だったのかもしれない。こうした経緯から、ペトロフの中国での「行方」が、国際問題の場に持ち出されてしまったとも言えようか。

かようにチェコは「ある時点」まで、中国を友好国として捉えていた。ところが、「大統領の習主席へのピアノ演奏プレゼント」をよそに、徐々に中国のチェコにおけるプレゼンスの低下が露呈。今ではチェコにとって、「経済上では対中関係はあってもなくても良いレベル」となっている。(日経アジアンレビュー、9月7日)

EU圏最大の鴻海拠点をもつ国でもある

中国と明確に対峙する一方、チェコは台湾資本を積極的に受け入れている。

チェコに進出している外国法人で最大投資者は台湾に本社を持つ鴻海科技集団(フォックスコン)だ。同社は電子機器の生産を請け負う電子機器受託生産(EMS)では世界最大の企業グループで、あのアップル社のiPhoneの組み立て工程も引き受けている。

その他にも、ASUSやACERといった世界に知られるPCメーカーがチェコでビジネスを展開している。目下、米中関係が著しく悪化する中、鴻海はサプライチェーンを中国国内とそれ以外とを分断する構えを見せており、そうした流れを見てもチェコ拠点の重要性はさらに高まる。

ちなみに鴻海のチェコ拠点は、同社にとって欧州連合(EU)内に持つ最大規模。チェコにおける輸出品生産企業というポイントで見ると、同国を代表する自動車メーカー・シュコダ(SKODA)に次いで、鴻海は2番目の地位を占める。

これまで述べたように、チェコは自国の経済に対する対中依存度が相対的に低い一方、台湾からの投資が突出して大きかったという背景があり、最終的に今回のような「大決断」ができたとも考えられよう。

現地の経済アナリストは「チェコのマクロ経済は、外国からの投資を受けて安定している」とした上で、「チェコ経済が中国からの投資に依存しているという考え方は正しくない。中国からの投資を受けるために他のことを犠牲にしなければいけない状況にもない」と分析しており、「中国に対する忖度はチェコでは不要」とみるべきだろう。

各国も台湾との結びつきを重要視するのでは

チェコに牙をむく中国に対し、ドイツのマース外相は9月1日、欧州5カ国を歴訪した中国・王外相との共同会見の場で「われわれは国際的なパートナーには敬意をもって接する。相手にも同じことを期待する」と明確に中国側を牽制した他、フランス外務省やスロバキアのペレグリニ首相もEU加盟国であるチェコとの連帯を強調した。

アナリストの間ではこんな見解も聞かれる。

「独仏両国の発言が後押しとなり、各国の政治家は今後、『一つの中国の原則』を放棄しないまま、台湾との経済的な結びつきを重要視するのではないか」

世界が冷戦構造から脱する機会となった「ベルリンの壁崩壊」は、元はと言えば旧東ドイツ国民による同国からの脱出を、当時のチェコスロバキア国民が手助けしたことが発端となっている。その後、チェコスロバキアは「ビロード革命」と呼ばれる平和な形で共産党政権を倒し、ついには旧ソビエト連邦の崩壊にまで至った。ビストルチル議長は台湾訪問に当たり、ビロード革命の指導者だった「故バーツラフ・ハベル元大統領の遺志を継ぐ旅になる」とも述べている。

「平和と自由の獲得」を是とするチェコの人々の思いも後押しした、今回のチェコ代表団の台湾訪問。この出来事はやがてどんな形で世界史の上で評価されることになるだろうか。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。Facebook Twitter

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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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