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どうなる?菅政権の安保政策 「ポスト安倍 何処へ行く日本」


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・新政権は安保政策で大変化を選択できない。

・中国懐柔による関係安定化は支持層の反発から不可能。

・選べる選択肢は日本側自制による緊張緩和のみ。

菅政権への交代が確実視されている。安倍首相の退陣にともない自民党の総裁選挙が実施される。そこにおいて菅義偉官房長官の勝利はほぼ間違いない。

菅新政権による政策変更は小規模と見られている。官房長官として安倍内閣の政策を進めてきた経緯がある。そのため大変化を選択できる立場ではない。

その小規模な政策変更とはどのようなものとなるか?

安全保障分野であれば緊張緩和の促進を図るか図らないか。具体的には尖閣正面での緊張緩和を選べるかどうかである。

■ 対中政策の4分類

安全保障政策とは何だろうか?

端的に述べれば力の均衡と敵対の抑制の2つである。現在の日本で示すなら中国軍事力との均衡改善と中国との緊張緩和だ。

その上で対象を自国と敵対国で分けると4分野にできる。

日本にあてはめれば次の形だ。軍事力の均衡改善は(A)「日本軍事力を強化」(B)「中国軍事力を弱体化」となる。緊張改善は(C)「日本側自制による緊張緩和」(D)「中国懐柔による関係安定化」となる。

このうち政策変更の可能性がある分野はとこか?

消去法から(C)の「日本側自制による緊張緩和」に限定される。本来は必要だが安倍政権ではできなかった政策であり同時に菅政権でも選べる選択肢だからだ。

▲図 安全保障の4分類 出典:著者作成

■ 軍事力の均衡追求は変わらない

菅政権でも軍事力の均衡追求は変わらない。変える必要もなく変える選択肢もないからだ。だから(A)「日本軍事力の強化」と(B)「中国軍事力の弱体化」は菅政権でも維持される。

日中軍事力の比率は急激に悪化している。中国軍事力の急成長により日本が比較劣位に陥っている。

この状況は改善しなければならない。絶対的劣勢に転落すれば全く対抗できなくなってしまうからだ。

だから(A)「日本軍事力の強化」が進められてきた。特に海空自衛隊が最優先で強化されている。

最近では(B)「中国軍事力の弱体化」も始まった。戦力を積み上げても中国には追いつかない。だから中国の力を削ごうとする努力である。

まずは同盟強化である。利益が共通する米豪越比との軍事的協力を進めている。

また南シナ海への関与も着手しつつある。現地は中国国益追求の焦点となっている。そこでの混乱と泥沼化を期待し中国の足を引っ張ろうとしている。

この(A)と(B)は菅政権でも変わらない。そもそも石破政権でもさらに政権党が交代しても変わる政策ではない。*1 軍事力の比率を改善する必要性は今後もなくならない。また改善の施策も(A)と(B)以外には存在しないからだ。

また日本国民もそれを求める。中国軍事力の成長に不安感を抱き改善を求めているからだ。*2

この点で(A)と(B)の政策変更はありえない。変えられるのは味付け程度だ。海空強化のために陸自をどこまで削るか。防衛産業都合の国産兵器開発をどこまではねつけるか。イージス・アショアをどうするか位の調節である。

▲写真 日本は中国の空母保有に衝撃を受けた。日本人は戦争の経験から海軍力を重視し中でも空母を主力艦とみなすためだ。 出典:侯融,陳国全「重磅発布!我国第二艘航母首次出海試験」『中国軍網』(2018.5.13)より。(撮影:李剛)

■ 歴史認識問題の直視はできない

変えたいが変えられない分野が(D)「中国懐柔による関係安定化」である。これは本来は変えるべき分野だ。だが菅政権では変更できない分野でもある。

中国懐柔とは中国感情への配慮あるいは妥協である。それにより中国側の対日敵対心を低下させ日本の安全保障環境を改善するやり方だ。

最大の案件は歴史認識問題だ。日本では「侵略戦争を引き起こした」歴史事実に対する認識は甘い。また得てしてその事実を否認する態度がとられる。

これは日中対立の要因となっている。尖閣問題とあわせて中国人の対日感情を悪化させる二大要素である。悪感情としては軍事的対立で生じる対日敵対心よりも大きい。

実際に日本は過剰に警戒されている。歴史認識問題により必要以上の敵対視を向けられているのだ。

逆に言えば改善により中国の敵対視も緩和できる。仮に歴史認識問題を解決できれば対日強硬態度の半分を除去できるのである。

だが、菅政権はこの選択肢は取れない。支持勢力がそれを許さないためだ。歴史認識問題の直視は安全保障環境も改善する妙手だが選べないのである。

▲写真 日本軍国主義はアジアを侵略し日本軍国主義はアジアを侵略した。その否認により日中関係は悪影響を受けている。日本は善行のために中国に軍隊を送ったのではない。それを認めるだけで安全保障や経済協力は改善する。写真は八百壮士で知られる激戦地四行倉庫の由緒である。 出典:著者撮影

■  選択できるのは緊張緩和だけ

つまり政策変更の可能性は(C)「日本側自制による緊張緩和」に限られる。政策変更が必要である。そして菅政権でもそれが実施できる唯一の分野だからだ。

具体的には尖閣における緊張水準の引き下げである。それができるかどうかだ。

尖閣は日中緊張の最前線である。現地では沿岸警備隊同士が対峙し外側では海軍同士が睨み合っている。また異常の逐一も報道される状態となっている。

▲写真 尖閣では政府公船の領海進入等の報道で国民感情が無駄に刺激されている。本来は逐一を報道すべき内容ではない。また公表も知る権利の尊重でもない。 出典:巡視船「みやこ」「巡視船『みやこ』の就役について」(第11管区海上保安本部,2020.1.20)より。

そこでのイベント発生は日中関係を悪化させている。一方の国の漁民が進入すればもう一方の国の世論は沸騰する。対応として漁民を排除すれば今度は漁民側の国で世論が沸騰する。何が起きても双方の国民感情を悪化増幅してしまうのだ。*3

この点で緊張改善の効果は大きい。自国漁民を入れない。自国活動家も近づけない。政府公船の領海等進入を逐日で報道しない。そうすれば両国世論の吹き上がりを防止できる。突発的な対立の発生と昂進を防げるのである。

これは政権の判断一つで実施できる。日本政府内で完結するからだ。政策変更を明示する必要もないので実施に際して支持層による反発を受けることはない。そして、それにより対中正面の不安定要素を減らせるのだ。*3

仮に菅政権が政策を変更するとする。それならば選択肢はこの(C)「日本側自制による緊張緩和」に限定されるのである。

(*1)民主党時代も同様に軍事力の均衡追求を進めていた。またその政策には社民党も同意していた。その点からすれば今後に政権交代があっても、仮に共産党が政権に参加しても概略方針はまずは変わらない。

(*2)なによりも日本は海空戦力の優越を喪失している。日清戦争以降に100年維持してきた周辺における絶対的な軍事的優位を失い制海権、制空権を確保できる見込みを失ったのである。国民はそれを不安とし中国軍事力を脅威視するようになっている。

(*3)もちろん日中同時にできるならなおよい。暗黙の合意あるいは密約である。おそらくは前者も難しくない。例えば漁業資源の保護のため尖閣から12マイル以内の航泊禁止を検討すると言えば中国も阿吽の呼吸で同様の検討を表明するだろう。

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