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自衛隊がいまだに突撃訓練をやめられない「日本人ならでは」の理由

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陸上自衛隊は、日々どのような訓練をしているのか。元陸将補の二見龍氏は「サイバーや宇宙、市街地が主戦場になる中、陸自は原野で「突撃」を前提とした陣地防御や陣地攻撃訓練を続けている。日露戦争以来の悪弊が今も残っている」という——。

※本稿は、二見龍『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

愛知県半田市での日本陸軍の演習を描いたビンテージカラーのエングレーヴィング。野原を進む歩兵。グラフィック、1891年※写真はイメージです - 写真=iStock.com/duncan1890

根強い「消耗戦型」の戦争イメージ

一般の人がもつ陸上自衛隊の訓練のイメージは、何もない原野で戦車や装甲車が走り回り、大砲(特科部隊)が遠くの目標へ大量の砲弾を撃ち込んでいる「富士総合火力演習」ではないでしょうか。両軍が塹壕を掘り、どちらかが戦争を継続できなくなるまで長期間にわたって塹壕戦で対峙する第二次世界大戦のような「消耗戦型の戦争」の印象はいまだに根強いものがあるでしょう。

しかし、考えてもらえばわかると思いますが、そんな原野に敵が攻めてくることが現代にあるでしょうか。日本で戦いが起こるとすれば国家中枢、都市中枢などの市街地になると捉えることが現実的です。

「そんなことはあり得ない」、「そんなふうになったらおしまいだ」と思っている人が多いかもしれません。「日本で市街戦が起こる」=「本土決戦」=「焼け野原」というような太平洋戦争で敗戦したイメージで戦争を捉えている人が多いからだと思います。

しかし、国外の紛争でも、いまや主な戦場となるのは人々が生活を営む市街地です。現在のハイブリッド戦争(正規、非正規軍の他、サイバー戦や情報戦を組み合わせる戦い方)では、住民に極力損害を与えないように都市部の主要施設を占拠することで、戦争に勝利するという目的を達成します。

多くの兵士が消耗し、住民に被害が生じるような戦いは、国際的にも国内的にも許容できないものになってきました。第二次世界大戦において繰り広げられていたような戦車を主体にした機動戦や火力戦、大規模な上陸作戦を伴う戦いのイメージは、大きく変化しているのです(これらの実態については、新著『自衛隊は市街戦を戦えるか』で詳述しています)。

「ハイブリッド戦争」の時代でも陸自は陣地防御と陣地攻撃訓練を実施

しかし、陸上自衛隊において部隊同士が戦う訓練のメインは今でも、演習場で行う陣地攻撃と陣地防御の訓練なのです。陣地攻撃訓練が行われる度に私がイメージしてしまうのは日露戦争における203高地の攻撃です。

当時は、兵士は突撃を繰り返すだけの消耗品として扱われ、損耗したら新たな兵士が投入され続けました。そのためには、短期間で新たな兵士を作り上げなければなりません。となると、兵士に過大な期待はできません。速成するためには、兵士の期待値を限定して訓練を行うことになるのです。

そうやって、前線へ兵士を投入し続けていた消耗戦型の軍隊のイメージと、自衛隊の陣地攻撃訓練における突入の様子とが、私の中では重なるのです。

実際の自衛隊の陣地攻撃訓練では、まず特科部隊が敵の陣地への「突撃支援射撃」を行います。その間、普通科連隊の隊員が匍匐(ほふく)をしながら、敵が設置した地雷原の手前まで接近します。味方の砲弾を避けるためにもできるだけ低い姿勢で近づきます。

大砲や機関銃など多くの火器が配置されている敵陣地の手前には、地雷原や鉄条網が構築されています。突入するためにはこれを迅速に処理しなければなりません。その処理を施設科(工兵)が行います。敵の火力が待ち受けている危険な場所での作業です。

日露戦争以来の突撃の伝統……陣地攻撃訓練の中身

普通科部隊は、地雷原の近くに到達したところで、銃剣を銃に取り付けます。これを「着剣(ちゃっけん)」といいます。

「突撃支援射撃」の最終弾落下の時間になると、そのタイミングが無線で連絡されます。連絡を受けた小隊長は、「突撃にーー」と小隊へ指示を出し、最終弾落下とともに「進めーー」と号令をかけます。

それを受けた隊員たちは、施設部隊によって地雷原の中に作られた安全な空間を1列縦隊で全速力で走り抜けなければなりません。砲撃対応をしていた敵が「相手は突撃の態勢に入った」と判断し、戦闘の態勢につくまでに通過しなければならないからです。

地雷原を通過した小隊員は、地雷原がなくなったところで横1列に展開、陣地からこちらを確認するために顔を出そうとしている敵への射撃を行うためです。その後、登り斜面を50~100メートル、敵の陣地目指して突入し、敵を倒して陣地を奪取、息を整える間もなく「逆襲」に対処するため敵の陣地を確保する態勢をとる――これが陣地攻撃訓練です。

ここまで読んで、読者の頭にもいろいろと疑問が浮かんだことだろうと思います。「これではかなりの損害が発生して当然ではないか」と。しかし、これらは自衛隊の「教範」に書かれている通りのことで、参考とされているのは、日露戦争から太平洋戦争まで行われてきたことです。それをいまだに頑なに守っているのです。

「突撃」を支える銃剣道

「陸上自衛隊はいまだ突撃をしているのか」と驚かれた方も多いのではないかと思いますが、この「突撃」と切っても切れない競技が陸上自衛隊では立派に生き残っています。「銃剣道」です。

知らない方もいるかもしれないので少し説明しておきますと、「銃剣道」とは剣道のような防具をつけて竹刀の代わりに木製の銃(木銃)で相手と突き合う競技です。もともと明治時代にフランスから伝来した西洋式銃剣術(銃の先に剣をつけた状態で戦う戦闘技術)に日本の剣道や槍術の技術を取り入れてスポーツ化したものです。

第二次世界大戦後一時期中断されましたが、その後、復興しました。大学や実業団でも行われていますが、競技人口の大半は陸上自衛隊関係者です。武道としての魅力はともかく、装備も戦い方も変化した現代の戦闘において銃剣道が必要な状況は稀(まれ)と言ってよいでしょう。

しかし、それがいまだに自衛隊内では続いています。2000年頃、今の時代に銃剣道の訓練を行う必要があるのかが議論されたことはあります。しかし、銃剣道がなくなることはありませんでした。「銃剣道継続支持」派の人たちは陸上自衛隊内に定着し、部外で応援するOBや関係者も多く、全国規模で支援されてきたからです。

銃剣道一筋で生きていた隊員もいれば、部隊同士で競う銃剣道競技会も毎年行われ、競技会の選手に選ばれるだけで一目置かれるのが現実です。「銃剣道が強い」=「自衛隊生活が有利になる」のです。

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