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「昔はよかった」自慰はひとりで - 花房観音

私はもともと酒もあまり飲まないし、夜出かけるのも好きじゃないので、仕事関係以外で、誰かと酒場に行くことは、近年はほぼ無い。

けれど小説家デビューしてしばらくは、仕事を絶やさないために人脈を広げようと考え、あちこちの会合やパーティに積極的に顔を出していた時期もあった。

その流れで、何度か「ある種の業界人が集う酒場」に連れていってもらったことがあるのだが、見事にハマらなかった。

ある程度以上の年齢の「業界人」たちの飲む場所での会話は、だいたい「昔はよかった」という話で、本人たちは楽しそうだけど、聞いているうちになんだかモヤモヤしてしまうのだ。

で、あなた、今はどうなの?今は何してるの?と、問いかけたい衝動を堪えていた。

昔はよかった族

自分より年齢が上で、「昔はよかった話」しかしない人は、結構いる。それだけでもなんだかなと思うのだが、その延長で、「今」を否定したがる人が、めんどくさい。

「今の映画は」「今の音楽は」「今のアイドルは」「今のAVは」「今の小説は」「今のストリップは」と、「今はダメだ」と言いたがる人たちで、ちゃんと「今の〇〇」を見ている人には出会ったことはない。

私が、「でも、最近の〇〇もいいですよ」と言っても、君は知らないんだよ、とばかりに、こじつけに近い欠点をあげ連ね必ず反論されると、二度とこいつとは会話せんとこと思う。

で、今は何してんの?

SNSのプロフィールに、十年、二十年以上前の自分の過去の栄光を書き連ね、そのことばかりつぶやいて、「じゃあ、あなた、今は何をしているの?」と疑問を抱いてしまう人も、よく見かけるし、正直、知り合いにもいる。自分は何もしていないくせに、批評家気取りになって、他者の作品の欠点を探して得意げになっている。

その人が、ときどき、「昔のすごかった頃の俺」を語るのは、自分だけが気持ちよくなっているオナニーであるのにも気づかない姿は、見ていて悲しくなる。

それに加え、現在の自分が浮かばれないのは社会のせいだと信じていて、愚痴が攻撃性を帯びると、もう本当につき合いきれない。

昔なんかろくでもない

私は全く「昔はよかった」と思っていない。

私自身の話をすると、子どもの頃は、変わった子だったからいじめられもしたし、10代、20代と過剰な自意識に振り回され悶々とし続け、「女の子」になれない自分を嫌悪し、性的なことに興味は強いのに全くモテず、男に相手にされず、「女同士」にも入れず、結果「私みたいなクズを相手してくれるのはこの人しかいない」「自分はどうせ一生、男とつきあうことなんかできない」と、22歳上の男と初体験をして、言われるがままに消費者金融数社で借金をした。

20代半ばから30代前半にかけては、借金返済のためのハードな日常と、ひたすら責められ否定され精神的なDVを受け、言葉を発することもできず、毎日「死にたい」と唱える日々を送り、何もかもが親にバレて実家に戻ってからは、ひたすら朝から晩まで工場で働き……と、私の「若い頃」「昔」は、黒歴史しかない。

自由に物を買えたり、旅行をしたりできるようになったのなんて、30代後半だ。無軌道で暴力的、破滅的な性体験は重ねたけれど、恋愛経験は乏しい。貧乏時代が長かったので、海外旅行だって未だに未経験だ。

だから「昔はよかった」「若い時代に戻りたい」なんて話に、乗れるわけがない。

不満はあるけれど、今が一番幸せ!今が最高!なのは、間違いない。

月末に借金の返済で死にたくならないだけでも、今は恵まれている!

仕事だって、もっと売れたいとは思うし、不安は抱えているが、好きなことをやっている。

今が好きな自分になれて良かった

過去が黒歴史のあまり、今でも映画館で青春胸キュンラブストーリーの予告を見ると、心の中で嫉妬と怨嗟の傷が疼くし、自分は男に愛されて当たり前な女の人と対峙すると「別の人種だ」と思い、人生を呪いたくもなる。

そんな時代があったから、今のあなたがあるのだと言われるし、確かにそうかもしれないけれど、二度と同じ目には遭いたくないし、自分の前半生がダメであることは疑いようがない。若い頃は楽しかったなんて、死んでも口にできない、できるわけがない。

けれど、少なくとも「昔の輝いていた自分」のままで止まっている人たちや、「昔はよかった、今の〇〇はダメだ」という話しかしない族を見ていると、「昔は最悪だったから、今が一番幸せ」な私でよかったと思ってしまう。

ハラスメントバブルに戻りたくない

「昔」(というか、バブル時代)は、確かに、経済が潤い、人々はお金を持っていた。

バブル以前の昭和の時代も活気があったのは間違いない。

「昭和レトロ」なんて言葉があるし、私もそういった場所やお店、昭和の文化は好きだ。

でもちょっと冷静に考えれば、豊かではあっても、セクハラ、パワハラという言葉もなく、強者のふるまいが何でも許された時代を、単純に称賛などできない。

私がバスガイドになった頃は、まさにバブルがはじけた直後だったけれど、客や運転手によるセクハラは、当たり前のようにあったし、泣き寝入り、我慢を強いられた。

何より、女性は20代後半から「お局様」などと呼ばれ、「結婚できない欠陥品」レッテルを貼られ、仕事で活躍する場も限られていた。結婚すればしたで労働力とみなされ自由はない。

そんな時代に、戻りたいわけがない。

オナニーは一人で

とはいえ、私も十年後ぐらいに、「昔、小説を書いていて、本も出したのよ」と過去語りをして、若い人たちの前で、「今の小説は全部つまんないから、私の居場所も無くなったの」なんて、「昔はよかった族」になっているかもしれないという不安はある。

SNSで、一日中「すごかった私」について呟いているかもしれない。

上手に年を取るというのは、容姿を保つとかの外見上のこと以上に、他人を「自分のオナニーの道具にしない」のを心掛けることも大切だと、「昔はよかった族」を見て、自分に言い聞かせている。

(京都市内のホテルの府民限定割引を使って……アフタヌーンティーのような朝食)

(打ち合わせで行った、ホテルオークラ京都の消毒液が京都っぽかった)

(鴨川)

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