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ガードンの研究のオリジナリティ

東京で某新聞を見たら、山中さん関連記事が多数。
1面:山中教授ノーベル賞
2面:大胆着想扉開く
3面:世界で応用競う
4面:偉業に喜び
7面:製薬業界も活況
12面:社説 山中さんを励みに
29面:ベール1枚ずつ
36面:愚直にトライ
37面:挫折を力に


うーん、ちょっとやりすぎじゃないでしょうか?ww
平和な日だったということか、予め準備したものを全部つぎ込めたというか。
というよりも、ガードン卿の扱いが少なすぎで、バランスが悪いことおびただしい。
もうちょっと理性と品性をもって報道してほしいですね。

なので、個人的にガードン卿の研究のご紹介を。
画像を見る

アップした画像は普段、発生学の授業で使っているものです。
元の画像は翻訳したJonathan SlackのEssential Developmental Biologyから引用しています。
山中さんがちょうど生まれた1962年にガードン先生が(当時29歳!)行った実験です。
このときの元々の「問い」は、「遺伝情報は核の中にあるのか、細胞質にあるのか?」でした。
1926年のグリフィスに端を発する肺炎双球菌の研究が、エイブリーによって発展し「DNAが遺伝情報かも!?」ということになって、1953年のワトソン・クリックの二重らせんモデルが堤出されて「本当にそうかも!」と業界が動いた訳ですが、ガードン先生は「じゃぁ、卵から個体が発生するときの遺伝情報は、本当に核の中にあるのか、それともタンパク質などが多い細胞質にあるのか、カエルで調べてみよう」と思い立った訳です。

そこで、カエルの受精卵に紫外線照射を行なって、そのDNAは壊しておいて、そこに別のカエルの「胞胚」という段階の初期胚をばらばらにして、その細胞の核を細いピペットで吸って、卵の方に入れてから発生を進ませたのでした。
カエルの卵は直径が1ミリ程度で大きいので、このような微細な手術が容易にできるのです。

ここで一つ工夫がありました。
それは、元々の卵は普通の黒いカエルから得て、移植する核を得る方のカエルは「アルビノ」といって、白いカエルを用いたのです。
できがったカエルは……白いカエル、つまり、核が由来した方だったことから、「核の中に遺伝情報がある」という答えが得られた、という訳です。

この論文はDevelopmental Biologyという米国発生生物学会のオフィシャル・ジャーナル(商業誌ではない)に「単名で」掲載されました。
The transplantation of nuclei between two species of Xenopus.
(今のところ、この論文はオープン・アクセスではありませんね……)

その後、ガードン先生は、もう少し発生が進んだオタマジャクシ由来の細胞の核でも、同様のことができるか、大人のカエルの細胞の核ならどうなるか、という実験を1980年代に行いました(下図)。
ただし、その結果は、最初の実験で用いた胞胚のときと異なって、大人のカエルにまで育ったものはありませんでした。
画像を見る
(図はLuis Wolpertの教科書Principle of Developmental Biologyより引用)

こうして「核移植」を行えば「クローン個体」が得られるということがわかり、これを哺乳類で行ったのが1996年にウィルムートによって作製されたクローン羊のドリーという訳です。
(授業ではここまでをまとめて話をします)

つまり、山中さんと抱き合わせのノーベル生理学医学賞では「初期化(リプログラミング)」を受賞対象としているのですが、厳密に言えば、これは微妙に重要な点をずらしているのです。

ここからは勝手な憶測にすぎませんが、「クローン技術」自体は画期的なことではありますが、誰もが直感的にわかるように、倫理的な問題が大きすぎます。
(ローマ法王のご意向もあったかも)
それを、山中さんの確信犯的「初期化技術」と抱き合わせることによって、ガードン先生にノーベル賞を出すことができて、メデタシめでたし、という風に見えなくもないのですね。
山中さん自身は「狙って」、普通の体細胞を初期化する方法を(メカニズムはまだ不明だけど)見つけたいと思った訳です。

ですので、どなたかが仰ってましたが、ガードン先生の研究は元々Whyで始まり、山中さんはHowから始まったものと言っても良いのかもしれません。
今のところ、iPS細胞そのものを用いて、再生医療を実現化したという段階ではありません。
でも、その先に希望を見出したいと思う方々は世界中にたくさんいると思います。

ただし、今後の研究資金の投資先が「応用研究」のみになっては、次のノーベル賞は出てこないでしょう。
ガードンがコツコツと行なってきた研究そのものは、さほどお金のかかることではありません。
まだ20代のガードンが自由な発想で行ったような基礎研究に、きちんと資金が投じられることを強く望みます。
また、ガードンの最初の論文が商業誌ではなく、学会のオフィシャル・ジャーナルであったことも、昨今の商業誌偏重モードを考え直すきっかけになれば良いなぁと、現場の研究者として思っています。

【関連リンク】
拙翻訳本『エッセンシャル発生生物学第二版』(Jonathan Slack著)

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