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ひとり暮らしでも大丈夫。介護保険制度がある今はお家で最期を迎えられます -「賢人論。」第120回(後編)小笠原文雄氏

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超高齢社会の急激な進展とともに、高齢者の独居世帯が増えている。これから本格的な多死社会を迎えるにあたって、私たちはひとり暮らしの人たちの看取りをどのように考えていけばいいのか。これまで95人の独居看取りを経験してきた、名古屋大学医学部特任准教授・日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄氏に、「ひとり暮らしでも安心して在宅医療を受けられる秘訣」を伺った。

取材・文/盛田栄一

医療と介護のスペシャルチームで患者をサポート

みんなの介護 小笠原さんは、ひとり暮らしの患者さんの在宅看取りを実践されていますね。難しくないのですか。

小笠原 それほど難しくないですよ。ひとり暮らしの患者さんの在宅看取りが難しいと思われる理由に、「夜中に急変したら不安」とか「離れて暮らす家族の反対」、「お金の心配」、「孤独死ではないか」、「介護は大丈夫なのか」などが挙げられます。これらがすべて解決されたら安心ですよね。

在宅ホスピス緩和ケアなら解決できます。具体的な方法は、1)モルヒネで痛みの不安を取り除く、2)夜間セデーションで夜はぐっすり眠れる、3)離れたご家族とサポートチームが情報共有アプリを使うことで、医療・看護・介護すべての情報がリアルタイムに把握、4)介護保険で生活を支援、5)緊急時用に、電話の近くに注意事項と訪問看護ステーションの電話番号を記載、6)ご本人の気持ちを何度も確認できるように「アドバンス・ケア・プランニング(ACP:人生会議)」を行う、などです。

小笠原内科で看取ったひとり暮らしの患者さんは約100人ですが、約9割の方が誰かがいるときに旅立たれています。大好きなヘルパーさんが来た日や妹が遊びに来た日、遠方の孫が見舞いに来てくれた日など、喜びの中で旅立たれる方が多いです。反対に「ひとりで死にたい」と希望された方は、全員願いが叶っています。“人は死ぬときを選ぶ”と思わずにはいられません。

みんなの介護 それはとても不思議ですね。

小笠原 はい、私はこれを“いのちの不思議さ”と呼んでいます。ひとり暮らしの患者さんの在宅ホスピス緩和ケアで欠かせないのがチームの存在と、医療・看護・介護などの多職種連携です。他の専門医の協力やボランティア、地域との関わりまで含めて進めていきます。小笠原内科には、これら全ての司令塔となる「トータルヘルスプランナー(THP)」という専門職がいることも、ひとり暮らしの方の看取りを成功させている要因ですね。

独居の在宅看取りで自費負担があったのは1割未満

みんなの介護 独居の方を支援するのにこれだけ対策すると、相応のお金がかかるのではないでしょうか。

小笠原 2000年に介護保険ができたおかげで、あまりお金がかからなくなりました。小笠原内科が2017年7月から2020年6月までの3年間で独居の在宅看取りをした患者数は37人(うち、26人はがん患者)、うち自費ヘルパーの負担があったのはたった2人で、1割未満でした。自費ヘルパー代を除くと、かかった費用の平均は死亡月で約4万5,000円、その1ヵ月前は約3万5,000円、2ヵ月前は約2万5,000円だったので、皆さんが思っていらっしゃるよりも安いなという印象ではないでしょうか。

みんなの介護 先ほど、「在宅ホスピス緩和ケアはチームプレイ」だというお話を伺いました。日頃から何か実践していることはありますか。

小笠原 「とにかく、人の話をよく聞く」ということですね。地域の特性や家族関係のことなど、わからないことは看護師に聞いています。

医療についても、特に自分の専門外の分野でわからないことがあれば、その分野の医師に「すみません、教えてください」と頭を下げます。また、家族や、ケアマネージャー、介護職、ボランティアの方たちからも、いろいろ教えてもらうことがあります。人の話を聞くことは「こころのケア」にもつながる、とても重要な作業だと認識しています。

「あんまり悔しいので、夫を3日待たせることにしました。」

みんなの介護 小笠原さんのご著書『なんとめでたいご臨終』で、「明日旅立つから、鞄と靴を用意してくれ」と奥さんに告げて亡くなられた方のお話がありました。聞くところによると、その後にその方の奥さんも看取られたそうですね。

小笠原 そうなんですよ。最後にそのNさんの奥さんのケースをご紹介しましょうか。Nさんが1992年に笑って旅立った後、奥さんは元気にひとり暮らしを続けていました。間質性肺炎を患った彼女が寝たきりになったのは、2017年6月のことです。

奥さんが寝たきりになって1週間ほど経った頃のことです。訪問看護を終えて戻ってきた若い看護師が、不思議そうな顔で私に「奥さんが『昨晩、主人が私を迎えにきて、そこに立っていました』と、部屋の隅を指差すんです。奥さんにはせん妄(意識障がいの一種。妄想や幻覚、幻聴を体験する現象のこと)の症状が出ているみたいです。先生、ちょっと奥さんの様子を見にいっていただけませんか」と報告してきました。報告してくれた看護師は、訪問看護の仕事に就いてまだ日が浅かったので「せん妄」と言いましたが、私たちは、空気が和むので「お迎え現象」と呼んでいます。死期の近づいた患者さんにはよくある現象で、特別珍しいものではありません。

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