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新型コロナウイルスによって大きな打撃を受けた日本のエンターテインメント業界。この状況をいかに切り抜けるか、業界のリーダー達は知恵を絞っている。一方で、人が集まれないというハンディを背負いながらも、ピンチをチャンスに変えるための様々な取り組みも始まった。進化するエンタメビジネスの「今」を切り取る。

コロナ禍であつ森は出会いの場・集会の場・そして政治運動の場へ - 木下拓海

  • 2020年09月08日 07:04
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BLOGOS編集部

SEVERAL WEEKS LATER:点から面へ、通信でつながった島々

この企画では『あつまれ どうぶつの森(あつ森)』に関する過去のツイートを日本語と英語で遡ることで、これからのエンタメのヒントを探っている。

3/20の発売当初はまっさらな無人島だったそれぞれのプレイヤーの島は、順調に発展を遂げていき、それから数週間も経つと通信プレイ機能によって島同士の往来が盛んになっていく。そして多岐にわたるグループや団体によって、様々な活動プラットフォームとしてあつ森は利用されるようになる。

つい先週の9/1には、アメリカ大統領選民主党候補者のバイデン氏陣営があつ森で自らのプラカードを作って配布するという選挙活動を始めたと報じられ話題になった。

それに立て続いて9/6には、自民党総裁選に出馬する石破茂氏陣営もあつ森を使った選挙活動を展開すると発表。

しかし政治利用は任天堂の利用規約違反ではないかとネット上で指摘され、石破氏陣営は一旦計画を停止すると前言撤回。さらに注目を集める結果となった。

なぜこうも政治家はあつ森を選挙活動に利用したがるのか? そもそも一体あつ森には、どれほどの可能性が秘められているのか? 発売から数週間で展開された様々な活動や取り組みと、その経緯を改めてご紹介しよう。

行けなくなった会場を再現

あつ森が発売された3/20は、社会がコロナ禍へと巻き込まれていくまさにその最中にあった。3/25には感染爆発の重大局面として小池都知事から外出自粛が要請され、多くのイベントは開催中止に。そして店舗も営業自粛となった。

そんな状況の中、あつ森ではゲーム内のアイテムや自分でデザインできる機能「マイデザイン(マイデザ)」を駆使して、アリーナやコミケ、ライブハウス、アイドル握手会など、コロナによって行けなくなった会場を再現する人たちが現れた。

さらにイベント会場のみならず、営業自粛が強く求められたパチンコ店やホストクラブまで再現。もちろんこれらのアイテムを揃えるにはただならぬ努力が必要とされるわけであり、再開の日を待ちわびる熱意が伝わってくる。

実際にライブ会場ひとつをとってみても実に興味深い。例えばこちらは、最初はマイデザを使ってアイドルの衣装を作っていたが、やがてその周辺まで作るようになった結果、ライブ会場そのものに発展していったという会場だ。

対してこちらは、音響を司るPA卓からステージ上のバミリ(楽器や出演者の位置を示した印)、果てはバックステージの自動販売機コーナーまでをも再現した、まさにプロ仕様の会場。ライブ会場を再現するにしても、作り手の立場や目線によってまったく違うものができるのだ。

しかしながら残念なことに、あつ森ではこれらライブ会場に満杯のお客さんを入れたバーチャルライブをすることは基本的にできない。あつ森の通信プレイは、本人を含めて最大8人までしか同時プレイできないのだ。

さらにゲーム外の音楽をあつ森内で流すこともできないため、例えばYouTubeでの配信などを使って音楽を流しながら実況プレイするなど、あつ森とは別にオーディオシステムを仕立てる必要がある。かつ、それにシンクロさせるようにアバター(出演者)も操作せねばならない。

このようにあつ森でライブをするのはいささか困難がつきまとうのだが、それにもかかわらず日本では少人数の観客ながらもお笑いライブを開催したり、

海外ではDJがレイヴパーティーを開催してTwitchで配信したり、あつ森の中にスタジオを作って有名人を招いてトークショーを配信する人たちまで現れている。その熱意には脱帽するばかりだ。

Tinderとあつ森の親和性

Getty Images

大人数を同時に動員してのライブはできないにしても、あつ森の通信プレイによってそれぞれの孤立した島はつながるようになり、より複雑で多彩な楽しみ方ができるようになった。折しもコロナ禍真っ只中。あつ森の通信プレイは“会いたいけど会えない人たち”にとても重宝されたようだ。

例えばこのカップルはアメリカとカナダの国境が封鎖されたため、夜の博物館デートをしたとツイートしている。片や「SNSで彼女をブロックしたら、あつ森の島まで押しかけられた」という彼氏のツイートも見られ、島と島がつながることで様々なドラマが生まれたことが伺える。

会いたい人同士があつ森に集い、誕生会や結婚式、卒業式、入学式、椅子取りゲーム、障害物競走など、様々なイベントがゲーム内で催されるようになったのはごく自然の流れと言えるだろう。同時接続できる人数にこそ限りはあるものの、こうして通信プレイは“点から面へ”とあつ森の世界を押し広げていく。

発売からわずか2日後の3/22には、マイデザを使って自分の作品を再現し、個展を開催した人が現れた。島のパスワードをTwitterで公開することで誰でもアクセスできるようにした、まさに展覧会である。

また、あつ森には画面をスクリーンショットできる機能があるのだが、通信プレイでファンを島に呼び、そのスクショ機能を使ってチェキ会をするアイドルまで登場。

さらに、とある職場ではあつ森でテレワークができるのかを実験し、この取り組みは英語圏のTwitterでも大いに話題となる。こうして多くの人々がコロナ禍によってできなくなったことをあつ森でなんとか実現しようとしたり、あるいは普段以上の可能性を切り開こうとした。

実際に、単なるコロナ禍での代替手段としてではなく、新たな価値を垣間見せてくれた例として、出会いの殿堂として著名なアプリ「Tinder」が挙げられるだろう。

上のツイート内の記事によると、Tinderのプロフィール欄に「あつ森をやっている」と書いている人が増えたのだそうで、そう書いておくほうが右スワイプ(LIKE)されて、出会える確率が高くなるのだという。

まったく見知らぬ相手と出会えるマッチングアプリでは、従来のようにいきなりデートをするのではなく、まずはあつ森で相手を吟味できたほうが安心だ。さらにこの記事では、たとえバーチャルであってもドレスアップができたり、デートで何を話すのかについて思いを巡らせたりといった、リアルなデートに近いドキドキもあつ森では体験することができると指摘している。

そういったバーチャルデートの可能性に注目したためか、名古屋ではその発展系として結婚相談所があつ森婚活を企画。実際にそれで結婚まで至った人がいるのかどうかまでは把握していないが、こうしてあつ森は各方面で外出自粛でも会える場として活用されていった。

中国あつ森の恐るべきスピード感

そんなあつ森の特性は、中でもとある“外出自粛によって集えなくなった人たち”によって着目されることとなる。デモ隊だ。例えば在外フィリピン人たちはあつ森を使って、ドゥテルテ大統領の強権主義に対する反対運動を展開。

さらに香港民主化のデモ隊たちも、あつ森を活用することで大きな注目を集めることに成功する。

この動画ではマイデザを使って描いた香港の行政長官の顔を、デモ隊が網で叩き、足で踏み消している。「これは僕の島」として紹介するのは黄之鋒氏だ。先日中国当局に逮捕された周庭氏の横で、たびたび写真に写り込んでいる姿を目にする活動家である。

このニュースは瞬く間に世界を駆け巡り、普段はゲームの話題を取り扱わない大手メディアによって報じられた。しかしそれを受けてか、上記の黄氏のツイートから8日後の4/10、今度は中国国内でのあつ森の販売が禁止されたというニュースが世界中を駆け巡る。

さらにそのニュースを受けて、同日の4/10に台湾の行政院長がすかさず「台湾は自由にあつ森で遊べるよ」「なんなら私をネタにしてもいいよ」とSNSに投稿。台湾海峡に火花を散らした。

基本的に中国で正規販売をするには当局による検閲が必要なのだが、あつ森はそれを受けておらず、海外版の輸入という形で「タオバオ」などでのネット販売や街のゲーム屋などで売られていたらしい。しかしこの騒動を受けて当局が動いたためか、それらネット販売の商品リストからあつ森が消されたのだそうだ。

しかしながらその一方で、早くも発売当日の3/20に中国消防があつ森を使って防火対策の啓蒙をしたり、3/27には上海消防が消防訓練、また4/1には上海公安(警察)が感染症対策の周知活動を行うなど、中国当局そのものが正規販売品ではないあつ森を使って様々な展開をしているところがなんとも皮肉というべきか、おおらかというべきかといった具合で面白い。

ちなみに東京消防庁があつ森を活用するようになったのは、中国にはるか遅れる7/16のことだ。政治的な問題は差し置いて、中国のこのスピード感や新しい取り組みへのチャレンジ精神は見るべきものがあるだろう。実際に中国では物理のオンライン授業としてあつ森が用いられた。

また、北京の木木美術館は、後に収蔵作品のマイデザ配布で注目を集めたニューヨークのメトロポリタン美術館に先駆けてバーチャル美術館をオープンし、過去に当館で催されたデイヴィッド・ホックニーやアンディ・ウォーホールなどの展覧会を再現するなど、先駆的な取り組みを展開している。

さらに、マイデザで自分のWeChat PayとAliPayのQRコードを作り、それを自分の島に貼っておくことで、あつ森内でのアイテム取引に電子マネー決済を導入する強者(もちろん規約違反)が現れたのも、まさに中国といったところだろう。

このように、コロナ禍においても会える場として重宝され、さらにゲーム人口の増大や注目度の上昇といったメディアとしての価値も高めたあつ森は、政治利用されるまでの存在となった。

ちなみに現在、米大統領選の民主党候補者のバイデン氏陣営が、選挙活動にあつ森を使うことで注目を浴びているが、彼よりもはるか以前にあつ森を政治に活用しようとした大統領選候補者がいる。アメリカ史上初のゲーマーによる政党、その名もゲーマー党党首のエース・ワトキンス氏だ。

彼はツイートで「誰であっても投票によって命を危険に晒してはいけない。私は1ベル(あつ森内通貨単位)もかけることなく、どのあつ森の島にも投票所を設ける」「国防生産法によって、すべてのアメリカ国民にNintendo Switchを確保させる」とまで公約しているが、実は残念ながらSNS上でのみ活動を展開している“架空の候補者”。とはいえジョークのつもりがバイデン氏によって実際の大統領選に用いられ、さらに未遂ながらも石破茂氏の自民党総裁選にまで用いられそうになったのだから、あつ森がすごいと言うほかないだろう。

そんなバイデン氏に対する共和党候補者、トランプ大統領も実はメラニア夫人とあつ森みたいなことをすでにやっている。

アースデイにおける植樹イベントの一コマだが、それを見てある人は「今まで目にした中で最悪の島だ」と批判した。一方、そんな歯に衣を着せぬTwitterのせいで、こんなツイートをした人も見かけられた。

「Tom Nook(たぬきち)の文句を言ってる人がいるから、Tom Nookはアメリカの政治家だと思っていた」。

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