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「平均費用231万円で世界一高い」だから日本人の"葬式離れ"が止まらない

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日本の葬式は世界一高い。宗教学者の島田裕巳氏は2010年の著書『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)でそう指摘した。それから10年。葬式をとりまく状況はどうなったか。島田氏は「葬式の簡素化はさらに進行している」と指摘する――。

※本稿は、島田裕巳『捨てられる宗教 葬式・戒名・墓を捨てた日本人の末路』(SB新書)の一部を再編集したものです。

葬式
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/akiyoko

『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーに

私は、2010年に『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)という本を出版した。事前には予想もしなかったことだが、この本は30万部のベストセラーになった。当時、私がこの本を書こうとしたのは、葬式をめぐる状況が大きく変わりつつあるのを感じていたからである。

たとえば、無縁社会のところでふれた直葬の存在を知ったのも、本を執筆する直前のことだった。そこまで葬式は簡略化できるのか、私は直葬の存在を知って驚いた。その頃にはまた、「家族葬」という葬式のやり方が広まりつつあった。

それ以前にも、近親者だけが集まって営む「密葬」という葬式のやり方はあった。ただ、密葬の場合には、その後に、参列者を招いて偲ぶ会を開くことを前提にしていることが多かった。密葬だけで終わるわけではなかったのだ。

ところが、家族葬の場合には、家族や近しい親族、故人の親友などが参列するだけで、規模は小さい。しかも、偲ぶ会の開催が前提にはなっていない。ほとんどは家族葬が葬式のすべてである。今や家族葬が当たり前になり、多くの参列者が集まる従来型の葬式は「一般葬」として、それとは区別されるようになった。有名人、著名人でも家族葬だけになってきた。

家族葬の場合には、参列者の数が少ないというだけではなく、費用がかからないというイメージが伴っている。参列者が少なければ、通夜ぶるまいなど飲食の費用はかからない。また、規模が小さければ、祭壇も小さくて済む。

「平均費用231万円」は世界一高い

家族葬や直葬が増えつつある。『葬式は、要らない』が刊行されたのは、そんな時代だった。葬式にかんして、多くの人が疑問を感じていたのは、費用が高いということだった。あわせて、費用の明細が明らかではないということにも多くの人たちが疑問を持っていた。

私は本のなかで、当時葬式費用の平均とされる231万円という額が、諸外国での葬式の費用に比べて相当に高いものであることを指摘した。

具体的には、アメリカは44万4000円、韓国は37万3000円、ドイツは19万8000円、イギリスは12万3000円という数字を紹介した(冠婚葬祭業の株式会社サン・ライフの資料による)。本の小見出しには「葬式費用231万円は世界一」と書いた。

「そんなにも日本の葬式は高いのか」

本を読んで、そう思った人たちも少なくなかったようだ。葬式に多額の費用がかけられたのは、バブルの時代である。その時代には、金をかけた派手な葬式が社会的な話題にもなった。とくに昭和を代表するトップスターだった、美空ひばりと石原裕次郎の葬式では、ともにビッグバンドが入り、故人のヒット曲が演奏された。どちらの葬式にも多くのファンが殺到した。経済人では、松下幸之助の葬式が、松下電器産業(現・パナソニック)の社葬として営まれたのもバブルの時代で、参列者は2万人にも及んだ。

バブルの時代には、地価が高騰したため、生きているあいだに住む住宅を買い求めることは諦めたものの、死後の住まいは確保したいと、郊外に墓地を求める人たちが急増した。

それはちょうど、高度経済成長で都会に出てきた人たちが亡くなり、親の葬式を出す時期にあたっていたのである。

「200万円の戒名料」を支払ったテレビ局社員

バブルの時代には、葬式にかかる費用も相当に高くなり、高額な戒名料や布施のことも社会問題になった。院号のついた戒名になると、100万円以上を出すようなケースも少なくなかった。私の周囲にも、200万円の戒名料を支払ったと言った人がいた。バブルで潤ったテレビ局の社員である。

バブルがはじけても、いったん上昇した葬式の費用はなかなか下がらなかった。それが、家族葬や直葬が広がることによって、葬式に費用をかけないでも済むようになってきたのである。

直葬だと、10万円台の費用を広告している業者が多い。そこには、棺、骨壺、寝台車の搬送費用、火葬までの安置の費用などが含まれる。火葬自体の料金は、火葬場によって異なるため、そこには含まれない。火葬料金は、自治体によって異なるが、住民なら無料、あるいは1万円程度のところが多い。ただそれは、火葬場を自治体が運営している場合で、東京都のように、ほとんどが民営の火葬場というところでは、6万円程度かかる。

自前なら「0円で葬式」が可能なはずだ

通販のサイトを見てみると、棺や骨壺が売られている。棺だと3万円、骨壺だと3000円程度である。そうしたものを購入し、自家用車で遺体を火葬場に運べば、火葬費用だけで直葬ができる。遺体を運ぶのには許可は要らない。そうなれば、費用などはほとんどかからない。健康保険では、5万円が埋葬料として支給されるので、それでまかなうこともできる。つまり自前の直葬なら、0円で葬式ができるのだ。

ただ、民間の火葬場だと、特定の葬儀業者と契約を結んでいて、その業者を通さないと、火葬してくれないところがある。東京都などはそうだ。私は、葬送の自由をすすめる会の会長をつとめていた時代に、「0葬」というものを提唱した。

0葬とは、火葬したとき遺骨は火葬場に引き取ってもらい、持ち帰られないというやり方のことをさす。これなら、墓を造る必要はない。散骨による自然葬の必要さえない。もっとも、0葬が可能なのは、もともと遺骨を引き取る量が少ない西日本の火葬場である。東日本では、かなり難しい。

直葬で0葬にすれば、葬式の費用は限りなく0に近くなる。少なくとも、葬式には金をかけない。そうした時代になっていることは間違いない。

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