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1人殺害で死刑になるのは異例?死刑判決の基準とは - 森炎

ヨーロッパやアメリカの一部の州では、すでに廃止されている死刑制度。一方、日本はその流れに逆行するかのように、いまだ死刑制度が適用されている。なぜ日本人は死刑を「是」とするのか? 戦後のおもな死刑判決事件を振り返りながら、時代によって大きく変わる「死刑基準」について考察した『なぜ日本人は世界の中で死刑を是とするのか』から一部をご紹介しよう。

*   *   *

「光市母子殺害事件」の異例判決

現在の日本の死刑適用の基準は、実際のところはどうなっているのか大まかに言うと、被害者(殺された者)の数によっています。

つまり、「死刑になるのは3人以上殺害した場合で、2人殺害では死刑になる場合とならない場合がケースごとに判断され、1人殺害では原則的には死刑にはならない」といった大枠があります。

(写真:iStock.com/PsychoBeard)

光市の母子殺害事件では、よく知られているように、殺害された女性の夫であり、赤ん坊の父親でもある被害者遺族が、被害者側の心情を切々と訴え、死刑を求めていました。

この男性の訴えに共感した市民が多かったのは、「もし自分の家族が被害者だったら」と考えたとき、同じ思いになるに違いないと感じられたからでしょう。こういう市民の共感は自然で人間的なものと言えます。

そういう自然な市民感情に影響されたものなのか、近年では、先ほど見たような伝統的な考え方とは明らかに傾向の違った新しい判決例も現れてきています

まず、今触れた光市母子殺害事件の最高裁判決があります。

この事件は、少年が婦女暴行目的で社宅に侵入して若い主婦を襲い、主婦から抵抗されると相手を絞め殺し、そのうえ、傍らで泣いていた赤ん坊まで床に叩きつけて殺害したという事案でしたから、犯罪被害という点では尋常ならざるものがありました。

被害者遺族からすれば、被害者の尊厳を極限まで踏みにじったものということになるでしょう。その意味では、その悪質性は死刑に値すると言えるかもしれません。

けれども、前述の「抜きがたい犯罪傾向」という点では、被告人はまだ18歳の少年で、計画性自体も認められませんでしたから、死刑にすることには大きな疑問が出てきます(計画性が認められないというのは、抵抗されたために殺意を生じており、最初から殺害を考えて侵入したわけではないことを指します)。

また、2人殺害の事案に関する「同時型」「連続型」の区別で言えば、同時型殺人でした。被告人には前科もありませんでした。

少年法では、18歳未満の少年の場合は、何人殺害しようとも、また、どのようなひどい方法で殺害しようとも、死刑を科すことはできないと定められていますが、これは18歳未満なら誰にでも更生の可能性があるという考え方にほかなりません。

言い換えれば、18歳未満の者については、「抜きがたい犯罪傾向」があるとは絶対に言えないということです。こういう法の精神に照らしてみても、光市の事件の被告人を評して「抜きがたい犯罪傾向」があると断ずることはできないでしょう。

ですから、この事件は、従来の考え方では死刑になりようがないものだったとも言えます。一審、二審ともに無期懲役の結論となったのは、ある意味では当然だったのです。

最高裁ではその無期懲役の判決は破棄されて差し戻しとなり、差戻審では死刑判決が出ましたが、これは、死刑判断の基礎として、今までとは違う考え方を取ったということです。死刑判断の観点が今までとは変化したということを意味します。

悪質性・残虐性が考慮されている

また、書籍の第1章では、三島・女子短大生暴行焼殺事件(平成14年)というのが出てきましたが、この事件の最高裁判決もそうです。

これは、帰宅途中の女子短大生を車に押し込んで暴行し、最後には被害者に頭から灯油を浴びせて火をつけたという残虐な事件でしたが、計画性は認められない事案でした(殺害に至るまでのかなりの間、殺害するか解放するか迷い、躊躇していました)。

この事件では、一審は無期懲役でしたが、二審では死刑となり、その死刑判決は最高裁でも支持されました(最高裁判所平成20年2月29日判決)。

(写真:iStock.com/Wavebreakmedia)

すでに見てきたとおり、1人殺害で死刑判決というのは異例です。一審判決が無期懲役としたのは、もともと1人殺害での死刑判決は異例のうえ、計画性の点では十分なものは認められませんでしたから、これまでの「抜きがたい犯罪傾向」という観点からは、むしろ当然だったのです。

この事件の二審判決や最高裁判決は、犯行の残虐性という観点から死刑としたものですが、その判断の基礎には従来の考え方とは違うものが窺えます。

さらに、奈良・小学女子児童誘拐殺人事件(平成16年)の判決があります。

これは、小学女子児童をわいせつ目的で誘拐して殺害した事件でしたが、やはり計画性は認められない事案でした(はじめから殺すつもりで誘拐したわけではなく、誘拐した後犯行が発覚することをおそれて殺意を生じています)。

しかし、この事件では、よく知られているように、犯人は殺害後、ケータイで女子児童の遺体を写して児童の親に送信したり、次は女子児童の妹を誘拐するというメールを送信したり、わいせつ目的で被害者の遺体を損壊したりといった異常な行為を繰り返していました。そのため、死刑が言い渡されました(奈良地裁平成18年9月26日判決)。

これも、1人殺害で死刑になったという点では異例です。

この事件は、動機や行動に異常な猟奇性が認められるうえに被害者が小さな子供ということがあり、いわば、そうした特殊な悪質性から死刑判断に至ったものと言えるでしょう。ここでも、従来とは違う考え方が窺えます。

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