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「日本の方が“閉塞感”は強い」パリから帰国した雨宮塔子が感じた“自粛の空気” 雨宮塔子さんインタビュー - 内山 靖子

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 28歳でTBSを退職した1999年から、パリで生活をしている雨宮塔子さん(49)。『NEWS23』(TBS)のキャスターを務めていた約3年間(2016年7月〜19年5月)を除いては、子育ても仕事も、ずっとフランスを拠点に行ってきた。

 今年に入ってフランスは新型コロナウィルスの爆発的な感染拡大に見舞われ、約2ヵ月に及ぶロックダウンも経験した。そんななか、雨宮さんはジャーナリストとして、母として、パリでどのような日々を過ごしていたのか。一時帰国された機会にお話を伺った。


©山元茂樹/文藝春秋

◆◆◆

――目下、海外からの入国制限措置が取られていますが、この時期にフランスから日本へはスムーズに入国できたのでしょうか?

雨宮 やむを得ない事情があって7月下旬に帰国したのですが、それができたのも私に日本国籍があるからでした。日本国籍があれば、パリからの航空チケットも通常通りに買えますし、フランスを出国する際に何らかの検査を受ける必要もありません。

 ただ、羽田に着いてからは、まず空港内でPCR検査を受けます。私の場合、結果が出るまで指定された場所で約4時間待機しました。

 結果は陰性でしたが、たとえ陰性でも、公共の交通機関や一般のタクシーで移動することは禁止されているので、空港紹介の専用ハイヤーで都内の実家に帰りました。その後は2週間、実家で待機して、外出を控えていました。

――フランスでは新型コロナウィルスによる死者数が、既に3万人を超えています。コロナがヨーロッパ中に広がっていったとき、フランスはどんな雰囲気だったのでしょうか。

「え、アジア人?」「この中国人が!」

雨宮 当初は、アジア人に対する差別がすごかったですね。武漢で感染爆発が起こり、ダイヤモンド・プリンセス号が世界的なニュースになった頃は、特にひどかったです。

 タクシーに乗ろうとしても、運転手から「え、アジア人?」と敬遠されたり、メトロに乗ったら、向かいの席の女性が駅で降りるふりをして、こっそり他の車両に移っていったこともありました。街の様子をiPhoneで撮影していたときも、「撮影許可を取ったのか? この中国人が!」と、私を罵倒する人もいて。

――それは心が折れそうになりますね。

雨宮 でも、それほど落ち込んだりはしなかったんですよ。私のアジア系の友人たちの中には、「すれ違いざまに唾を吐きかけられた」といった、もっとひどい目にあっている人もいたので……。

 得体の知れないウィルスのせいでみんな余裕がなくなって、どこかにストレスのはけ口を求めているのかもしれないと思えたので、あまり気にしないように心がけました。3月以降になると、フランス国内の感染者も急激に増えたので、あからさまなアジア人差別は減っていきました。

――急激な感染拡大を受けて、3月中旬から5月中旬まで、マクロン大統領はロックダウンを発令しました。

罰金があったからみんなルールに従った

雨宮 ロックダウン中、基本的に外出を許されたのは自宅から1キロ以内の範囲だけで、買い物に行くにも政府が定めた外出許可書を必ず携帯する必要がありました。また、スーパーに入店するときや、バスやメトロなどの公共交通機関に乗るときには、マスク着用が義務づけられて。

 ただ、そうしたルールにみんな素直に従っていたのは、やはり罰金があったからだと思います。1回につき、135ユーロ(約1万7000円)と決して安くないですし、違反する回数が2回、3回と重なると、罰金の金額も上がっていくので。

 今でも、マスク着用が義務付けられている場所でノーマスクだと即罰金です。ただ、フランス人は抜け道を探すのも得意なので、ロックダウン中には買い物袋にわざと目立つように大根やネギを入れて、出かける人もいましたね。

 生活必需品の買い出しは許可されていたので、「買い物に行ったフリ」をして外出していたようです(笑)。

――もともと、フランスではマスクをする習慣がなかったと聞きますが……。

雨宮 フランス人にとってマスクは「病人がするもの」という認識だったので、街中でしている人を見かけたことはこれまで1度もありませんでした。

 コロナ前のことですが、私がTGV(フランス高速鉄道)の中でマスクをしていたら、フランス語がわからないアジア人だと思われたのか、向かいの座席の親子に「この人、普通の顔して当たり前のようにマスクを着けてる」と笑われました。それくらい、日常生活の中でマスクをしているのは異様なことだったんです。

 でも今は一変して、みんなマスクをしていますね。当初、使い捨てマスクは手に入りにくかったこともあって、フランスでは手作りの布マスクをしている人が多いです。私も、韓国好きの子供たちに、韓国っぽい真っ黒なマスクをリクエストされたので、外出できない時間を使って家族の分を作りました。

 マスクを作るときは、「マスクをつけて息を吹きかけても、ロウソクの火が消えないように」と言われています。火が消えてしまうようなスカスカのマスクでは、ウィルスも通してしまうから、と。

日本で感じた“閉塞感”の理由

――コロナで3万人超の死者を出したフランスと比べて、日本の死者数は1000人台と、感染拡大の規模にはかなり差があります。今回、日本に滞在されている間に、コロナに対するフランス人と日本人の意識の違いなどは感じましたか?

雨宮 フランスの場合、気をつけるべきところはきちんと気をつけるけど、長期戦に備えるには息抜きも必要だと考えている人が多いように感じます。私が出国する直前は、こんな状況でも、例年通りみんなバカンスの話に夢中でした。

 ロックダウン解除後に国内の移動は自由になったので、今年は国内旅行を計画する人がネット予約に殺到し、ホテルなどの料金が値上がりしました。

 また、感染予防にキャンピングカーでの旅行も人気で、キャンピングカーのレンタル予約は6月初旬にはいっぱいだったそうです。テラス席のみ営業を許可されたカフェやレストランも、やはり賑わっていました。

 もともとラテン気質ということもありますが、「コロナとはポジティブに付き合っていくしかない」という考え方なのかな、と思います。

 それと比べると、日本人のコロナとの向き合い方には、もっと「心の重さ」を感じますね。慎重に慎重を重ねて行動しているというか……。罰金があるわけでも、誰かに強制されているわけでもないのに、これだけきちんと自粛しているというのはやっぱり日本人の国民性もあると思います。

 それだけ慎重だからこそ、フランスより感染者数も死者数も少ないのだと思いますが、同時に社会全体の“閉塞感”のようなものも、日本の方が強いのではないでしょうか。

――日本では“自粛警察”による嫌がらせや、感染者がSNSで特定されて犯罪者扱いされる……といった問題も報じられています。

雨宮 仮に今、私がパリで感染しても、誰にも非難はされないと思います。どんなに気をつけていても、かかるときはかかるものだとみんな思っているので。そうした点は、日本とフランスの違いなのかもしれません。

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