記事

追悼チャドウィック・ボーズマン、キングよ永遠なれ

2/2

だが、結果的に『ブラックパンサー』は世界的ヒット作となった。

『ブラックパンサー』の成功においてどれほどボーズマンの演技が重要だったかをセンセーショナルに述べるのが難しいのと同様に、アカデミー賞にノミネートされた同作に対するボーズマンのリアクションがいかにドラマチックだったかを見過ごすことも困難だ。

クーグラー監督は、近未来的なアフリカ国家というユニークで壮大なビジョンを私たちに与え、ボーズマンは主人公にふさわしいロイヤル・ヒーローというひとりの人間を演じた。

主人公の妹シュリ役を演じたレティーシャ・ライトとの信頼関係はもとより、マイケル・B・モンガー扮するキルモンガーとのにらみ合いは見事だ。

ボーズマンのキャラクターには、国を守るという責任感と、新国王にふさわしくないかもしれないという不安に揺らぐ心、ユーモア、哀愁、疑い、シェークスピアばりの厳粛さが埋め込まれている。

ボーズマンが演じるティ・チャラ王は、俳優の見事な演技のおかげで神秘的であると同時に、必要なときは人間らしい一面を見せる。

『ブラックパンサー』は、ルピタ・ニョンゴ、ダニエル・カルーヤ、ウィンストン・デューク、フォレスト・ウィテカー、アンジェラ・バセット、ダナイ・グリラといった夢のようなキャストが織りなすアンサンブル作品であるのはたしかだが、そのなかでも主役のボーズマンの演技は一際輝いており、誰が主役かは一目瞭然だ。

それだけでなくボーズマンのブラックパンサーは、彼がキャラクターにもたらした尊厳を見抜いた世界中のオーディエンスや、自分たちとまったく同じ外見の漫画のヒーローの姿を見た世界中の子どもたちに多大なるインパクトを与えたことは言うまでもない。

「ワカンダよ、永遠なれ!」は、架空の国における闘いの雄叫びにとどまらず、映画館の外の世界でもスローガンとして叫ばれた。

【関連記事】『ブラックパンサー』監督とチャドウィック・ボーズマンが明かした「ブラックムービー革命」の知られざる背景

『ブラックパンサー』の公開当初、試写会で熱狂する人々や映画の公開をいまかいまかと待ち望んでいた人々にサプライズを仕掛けるボーズマンの動画はネット上に広まり、こうした動画を見ずにSNSをチェックするのは不可能だった。

同作屈指のアンバサダーとなったことで、彼自身も伝説的な人物とみなされるようになった。もちろんボーズマンは、このキャラクターが人々にとって何を意味し、ティ・チャラ王の物語がそれにふさわしく壮大なものとして描かれたことの重要性を十分に理解していた。

いまでこそ私たちは、ボーズマンが『ブラックパンサー』という革新的な映画とポスト・ブラックパンサーのアベンジャーズ作品に携わり、レッドカーペットの上を歩き、手術の治療の合間を縫って公共の場に姿を見せていたあいだもずっとがんと闘っていた(2016年にがんと診断)ことを知り、彼のさらなる偉大さを痛感しているのだ。

数ある”ドッキリ企画”のなかでも筆者のお気に入りは、ジミー・ファロンが司会を務めるトーク番組『ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン』の場面だ。番組のなかでは、『ブラックパンサー』のポスターの前でファンたちが映画に感動した理由を語るかたわら、カーテンの後ろにファロンとボーズマンが隠れている。

そこでボーズマンが登場し、ファンたちは予想通り、我を忘れて熱狂するのだ。動画のある場面では、母親が息子のとなりで、息子にはバラク・オバマやブラックパンサーといった尊敬できる存在がいるのは幸せだと語り、そこにボーズマンが登場して母親をハグする。

そのときの少年は、驚きで絶句状態だ。大好きなヒーローが目の前にいるなんて信じられないと言わんばかりに、かすかに微笑んでいる。2018年当時、この動画を観るとどうしても目頭が熱くなった。いまでは、涙なしに観るのは不可能だ。

ボーズマンには俳優としての限りない可能性があり、私たちはまだまだ彼の演技を観ていたかった。

ティ・チャラ王(『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のクライマックスで姿を消したティ・チャラが『アベンジャーズ/エンドゲーム』の壮大なバトルの前に再登場したときの観客の熱狂ぶりを思い出してほしい)のその後も観たいし、スパイク・リー監督の最新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020)で黒人のベトナム帰還兵たちにインスピレーションを与えた故”ストーミン”・ノーマン隊長のような役をもっとたくさん演じてほしかった。

数カ月後に公開を控えた、ジョージ・C・ウルフが手がけた米劇作家オーガスト・ウィルソンの戯曲『Ma Raineys Black Bottom』の同名の実写版映画で、ボーズマンはレヴィー役を演じている。戯曲を読んだことがある人はご存知のとおり、これはなかなかの役どころである。

それに、愚か者、工場労働者、ヒーロー、悪役、弁護士、医師、兵士、芸術家、活動家、犯罪者、大統領の役をもっともっと演じてほしかった。ボーズマンは見事なレガシーを私たちに遺してくれたが、彼の不在によってその偉業はまだ未完成のように感じられる。

たしかに映画は残るが、それだけでは足りない気がしてしまうのだ。だが、作品こそがボーズマンのレガシーなのだ。キングは死んだが、その功績は永遠だ。

Translated by Shoko Natori

あわせて読みたい

「映画」の記事一覧へ

トピックス

議論福島第一原発処理水の海洋放出は許容できるリスクか?

ランキング

  1. 1

    田原氏「菅首相は地雷を踏んだ」

    田原総一朗

  2. 2

    ひろゆき氏が日本の日付管理評価

    西村博之/ひろゆき

  3. 3

    北野武 死の「理由」憶測に持論

    NEWSポストセブン

  4. 4

    東京五輪中止の噂に組織委真っ青

    WEDGE Infinity

  5. 5

    大阪都構想 橋下氏が悪目立ちか

    早川忠孝

  6. 6

    岡村隆史の結婚でNHKは一安心?

    渡邉裕二

  7. 7

    白昼堂々万引きも放置? 米の現状

    後藤文俊

  8. 8

    ヒトの善意で生物が死滅する恐れ

    fujipon

  9. 9

    日本を利用し中国に媚売る文政権

    PRESIDENT Online

  10. 10

    よしのり氏 マスク報道は不正確

    小林よしのり

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。