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「半沢直樹」第二部は悪役が主役の歌舞伎

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趣向重視が功を奏した「半沢」第二部

「半沢直樹」第二部も、視聴者の関心はもっぱら悪役にある。しかも、水戸黄門ではなくディズニーのヴィランズ的な個性あるキャラクターにその焦点が向けられる。どれだけ悪行の限りを繰り返し、そして、最後にはどうやって半沢に叩き潰されるのか。だから、実は「やられたらやり返す、しかも倍返しだ!」という半沢のセリフは、実は倍返しではなく、ただの仕返しにすぎない。「倍返し」に思えるのは、悪役が思いっきり悪行の限りを尽くし、半沢に向かって悪態をつきまくるからだ。いわば「悪ければ悪いほど、この悪役が倒されたときには究極の仕返し=倍返し」に見えるという趣向なのだ。個性ある悪役に視聴者はネガティブな意味での感情移入(つまり「憎たらしいヤツ」)を行う。だからこれが、いわば「成敗」された瞬間、カタルシスを覚えないではいられない。憎たらしければ憎たらしいほど悪役=ヴィランとしての魅力は高まる。

ただし「半沢」はディズニーよりも、もう一歩先を行く。それが歌舞伎役者に期待される「役割に対する役者の趣向=パフォーマンス」に他ならない。水戸黄門の悪代官・越後屋的な定型に、ディズニーヴィランズ的キャラクターを配置した役割を割り振られた役者たちが、これをどう演じるのか。最終的に、最も関心が向かうのはここになる。とりわけ第二部がそうだ。だから、二部の主役は半沢というよりも、むしろ悪役なのだ(二部の半沢=堺雅人の役割は刑事コロンボや古畑任三郎に近く、悪役を引き立てる役所になっている。半沢が悪役をもり立てる決め顔は、言うまでもなく、追い詰められたときの「苦虫を噛みつぶしたような表情」だ)。だから、ここで視聴者は悪役たちが見事に「悪」を決めて見せたとき、思わず「成田屋!」「音羽屋!」的な声を心の中でかけたくなるのだ(そしてこれはSNS上で実際に繰り広げられている)。

ネット上で話題になっている台詞を取り上げてみると、これはよくわかる。大和田暁役=香川照之の「お・し・ま・いdeath」「施されたら施し返す、恩返しです」(「やられたらやり返す、しかも倍返しだ」と対)「詫びろ、詫びろ、詫びろ」「銀行沈没」、伊佐山泰二役=市川猿之助の「土下座野郎」「オマエの、負けぇーっ!」、黒崎駿一役=片岡愛之助の「あ~ら直樹、お久しぶりね。ここでも随分と『おいた』しているんじゃないの?」(オネエ言葉)と、盛り上がっているのはもっぱら悪役たちの台詞なのだ。しかも、ものすごいイントネーション、形相、つまり極端な「わざとらしい」演技で。そして、ここには役者たちのアドリブもふんだんに盛り込まれている。ということは……これって歌舞伎のそれ以外の何物でもない(実際、歌舞伎役者が登場するのは「何をか言わんや」でもある)。その他、悪役を演じた南野陽子や江口のりこの憎たらしい演技もやはり話題となった。

やりたい放題をはじめた悪役たちの痛快さを楽しむ

これがまだ視聴者のメディア・リテラシーが未熟なかつてであったならば役割=役者本人の性格とみなされるのがもっぱらだったので、こんな酷い悪役を任されたらイメージが固定してしまい、仕事がもう来ない恐れもあった。だが、今や時代が違う。現代の視聴者は「役割」と演じる「役者の人格」を明確に区別している。だから視聴者は、役者の趣向に注目する。それゆえ、こうした悪役を役者たちは快く引き受けているのだ。「どれだけ憎らしい、どれだけ倒してやりたい、つまり、どれだけ倍返しにみせるように演技するか?」、役者たちはここに演技を集中する。

とりわけ香川照之などは完全に「やりたい放題」の状態。第一部で視聴者は大和田=香川のキャラクターを熟知しているので、よい意味で香川はそれを十分知りつつ、さらにこれをデフォルメしていく。その奔放さに視聴者は憎らしさを爆発させるとともに狂喜する。しかもこれを「香川照之」という役者が嬉々として演じていることも十分承知していて、だから憎らしいと思うと同時に「今度は、香川=大和田はどんなふうに悪態をついてくれるだろうか?」とワクワクしながら次の台詞と演技を待ちわびるのだ(ちなみに、これと同様の図式が黒崎=片岡愛之助にも該当する。片岡は第一部で注目を浴びその後TVやCMに引っ張りだことなったが、今や視聴者は片岡が半沢の中で「オネエ」を演じていることを熟知している。だから「今度の片岡=黒崎オネエはどんなふうに半沢に『逆おいた』をするのかな?」となる)。そして、演技はますます極端で仰々しくなっていくのだが……これは要するにデフォルメと省略を基調とする歌舞伎のスタイルにどんどんと近づいていくことに他ならない。

実際、ソーシャルメディアをチェックしてみると「半沢直樹」に関する話題は、もっぱら悪役たちの演技に向けられている。言い換えると(繰り返しになるが)半沢は悪役たちを引き出すメディア的な役割に今回は引き下がっているようにも見える。さながら「ドラえもん」という作品の主人公が、実は野比のび太であるように。そう、今回の「半沢直樹」、その主人公は悪役たちなのだ(ということは、ここで悪役を演じた役者たちは、その評価によって第一部の片岡愛之助同様、仕事のオファーがどっとやってくることになるだろう。さしあたり江口のりこあたりが起用される可能性大と見た)。

半沢直樹は現代版の歌舞伎

第二部はある意味で一話完結的な側面が強い。第四回以降、毎回悪役が殲滅されている。この辺は水戸黄門的な展開で、視聴者としても単純で判りやすい。ただし、制作側はこれだけでは飽き足らず、今回はこれに変奏を加えている。しかも、その典型例が、これまた大和田=香川の役回りだ。大和田は半沢の天敵だが伊佐山打倒の際に二人は共闘している。しかも、互いの憎しみはそのままに。また第七回の際も大和田は江口のりこ演じる白井政務次官打倒にも加担している。そう、大和田は敵なのか味方なのか判らない。これは段田安則演じる紀本平八も同様だ。こうした狂言交わし的でミステリアスな存在が、ややもすると一本調子に陥る恐れのある世界=設定=物語にスパイスを加え、第一部からの半沢ファンを混乱に陥れることで、却って魅力を牽引することに一役買っている。

こうなると、もはや「半沢直樹」は完全に歌舞伎と言っても過言ではないだろう。もちろん現代版のそれとして。いっそのこと、これを歌舞伎にしてみたらどうだろう?大ウケまちがいなしだと思うのだけれど(笑)

さて、今週もこの「究極荒唐無稽歌舞伎悪役ドラマ」を楽しむこととしよう。

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