記事

成城石井のプレミアムチーズケーキは「却下寸前」の商品だった

1/2

成城石井の「プレミアムチーズケーキ」は年間120万本以上を売る看板商品だ。だが、商品会議では却下寸前の企画だった。なぜヒット商品になったのか。ブックライターの上阪徹氏が解説する——。

※本稿は、上阪徹『成城石井 世界の果てまで買い付けに。』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

提案したのは「マキシムドパリ」出身のパティシエ

成城石井自家製 プレミアムチーズケーキ
成城石井自家製 プレミアムチーズケーキ - 画像提供=成城石井

成城石井の看板商品、といっても過言ではない。年間120万本以上を売り上げる、ダントツの人気ナンバーワン商品が「プレミアムチーズケーキ」だ。

土台は素朴でナチュラルな甘さのスポンジ生地。その上にクリームチーズ層、最上部にサクサクしたシュトロイゼルがのせられ、ローストしたアーモンドとレーズンが味にアクセントをつける。

それぞれの味わいと食感のコントラストが絶妙で、ボリュームもたっぷりの大きさ。まさに、食べ始めたら止まらない、とリピーターになる人が今も続出している。

登場したのは、2003年。このプレミアムチーズケーキを開発したのが、セントラルキッチン菓子グループ長のパティシエ、光野正三だ。

「どのケーキ屋さんに行っても、レストランにしても、ここはこれだよ、という顔となるメニューがありますよね。スペシャリテと言いますが、入社したときから、それを作りたいとずっと思っていたんです」

父親もパティシエだった光野は10代からこの世界に入り、15年間、いろいろなところで働いていた。ウェディングケーキを専門で作っていた時期もあれば、卸の会社にいたこともある。あの有名店マキシムドパリで働いていた時期もある。そして1998年、前職のケーキ店から成城石井に転じた。

当時の成城石井は「デザートの黎明期」だった

「たいていできないものはないくらいの懐の深さだけはあったと思います。縁あって成城石井に行くことを決めたんですが、スーパーマーケットでお菓子を作るためにケーキ店を辞めるなんて、と驚かれましたね」

ちょうど近くに成城石井ができ、興味を持っていた。

「何より、お客さまの多さでした。それだけたくさんの人に買っていただけるチャンスがあるということ。それとやっぱり、本物の店だと思いましたよね。お店に並んでいる商品のアイテム数も圧倒的で。それこそ食材が足りないというと、成城石井のお店で買い足したりしていましたから」

だが、成城石井のデザートはまだ黎明期だった。そもそもスーパーである。ケーキを買うことを目的に、来客があるわけではない。必要なことは、成城石井のデザートを手に取ってもらう信頼のベースを作ることだと感じた。

「最初の1、2年は本当にオーソドックスなプリン類やカップのスイーツなど、徐々にアイテムを増やしていきました」

加えて、まだ店舗数も少なかっただけに、いろいろな企画を思い切ってやらせてもらったという。

「ホールのクリスマスケーキを作ったり、タルトを作ったり。遠慮せずに3000円、2000円という価格にしてもいいと言われて」

「もっと安くしろ」と言われたことはなかった

本当に自由にやらせてもらった、という。

「コストを意識して何かを削ったり、何かを妥協したり、どこかで流行っているからやってほしいと言われたり、もっと安い物にできないかとお願いされたり。こういうことは絶対にありませんでしたね。いい意味でのぶつかり合いはあっても、マイナスにするような動きはなかった」

成城石井のお菓子はこういう味だという骨格のようなものを、会社全体で作っていこうという空気があった。そんな中で「スフレチーズケーキ」などのヒット商品が生まれていく。

「やっぱりそういう時間が必要なんですよ。信頼を醸成するような時間。それがないところでまったく新しいものを出したとしても、埋もれてしまいかねない。その気持ちは最初から持っていましたね」

「3層のチーズケーキ」は誰も見たことがないはず

実は、プレミアムチーズケーキは、入社時から構想を温めていた。

「これはどこの職人もそうだと思うんですが、いろんなところで何か閃(ひらめ)いたらノートに書きためていったりして、これは絶対においしい組み合わせだ、いつかこういうものを作りたい、と考えていたりするんですよ」

それが3層のケーキだった。きび砂糖を使用した素朴でナチュラルな甘さのスポンジ生地があり、クリームチーズをベースにアーモンド、レーズンを加えたチーズケーキ生地があり、表面にはアーモンドプードルで作ったサクサクとしたシュトロイゼルという3層。

「一つひとつのパーツもおいしいんですが、3層になると食感の差が生まれるわけです。さらにチーズケーキの中に入っているレーズンのちょっとした酸味と甘み、アーモンドのスライスした歯ごたえ。クッキーとして食べてもおいしい表面。ただ、成城石井でこれだけ売れていなければ、こんな形のチーズケーキは誰も見たことがなかったんじゃないかと思うんです。実際、今は食べ慣れていますけど、けっこう重たいですしね(笑)」

あわせて読みたい

「成城石井」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    朝日新聞が月ぎめ4400円に 27年ぶりの購読料値上げは吉と出るか、凶と出るか 

    木村正人

    06月15日 18:26

  2. 2

    選手間の感染だけでなく熱中症の死亡リスクも 東京五輪は綱渡り状態

    諌山裕

    06月15日 11:52

  3. 3

    五輪強行開催 コーツが来たりて大量虐殺の笛を吹く

    田中龍作

    06月15日 08:39

  4. 4

    2021年のガンダムの見せ方、それとテロリズム──『閃光のハサウェイ』

    シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

    06月15日 08:36

  5. 5

    「外食産業の真実爆弾」ウハウハのマクドナルド、崖っぷちワタミの"笑えない格差"はどこでついたか

    PRESIDENT Online

    06月15日 13:40

  6. 6

    ワクチン接種は医療者として当然必要な条件 個人の自由を制限するのはダメなのか

    中村ゆきつぐ

    06月15日 08:23

  7. 7

    数字の水増しが常態化? 小池知事が招いた都庁の緊急事態

    文春オンライン

    06月15日 10:31

  8. 8

    二階俊博氏、コロナ対策で失策の指摘に「これ以上やりようありますか?」と逆質問

    ABEMA TIMES

    06月15日 19:26

  9. 9

    田中みな実、長澤まさみ問題で考える マネージャーの劣化か時代の変化か

    NEWSポストセブン

    06月15日 08:58

  10. 10

    内閣不信任案提出はいいが、趣旨説明の時間が無制限というルールは止めた方がいいな

    早川忠孝

    06月15日 16:04

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。