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アングル〕コロナで岐路の「現地現物主義」、メーカーはAIに活路


[東京 31日 ロイター] - 愛知県豊橋市にある武蔵精密工業<7220.T>の自動車部品工場では、ロボットが品質管理のための検査作業の一端を担っている。トヨタ自動車<7203.T>が提唱し、20世紀の大量生産モデルに革命をもたらしたと賞賛される「現地現物主義(直接現場に足を運んで現物を目にすること)」が、新型コロナウイルスのパンデミックによって急速な変化を迫られている製造業界の今を物語る光景だ。

この工場内に置かれたロボットアームは、「ベベルギア(かさ歯車)」と呼ばれる重要部品を取り上げ、回転させて光に当てながら表面に欠損がないかどうか点検する。1つの部品に要する作業時間は約2秒と、シフト当たりおよそ1000個をチェックできるベテラン従業員並みの実力だ。

同社の大塚浩史社長は「同じ部品を毎日1000個検査する作業員がいる。熟練が必要だが、決してクリエーティブではない」と話す。「そういう仕事から人間を解放したい」という。

世界中のメーカーはこれまでも生産工程にロボットを活用してきたが、欠陥品を見つけ出す複雑な仕事は主に人間に任せていた。だが新型コロナ感染防止対策としての社会的距離の確保が至上命題となり、製造現場も考え方の軌道修正を迫られつつある。

そこで利用が拡大しているのがロボットや、品質管理のための他の技術だ。例えば遠隔監視システムなどは既にパンデミック前から導入されている。

日本においてそうした取り組みが意味するのは、トヨタが掲げてきた生産方式の1つで、国内の各メーカーがほとんど宗教的な熱意をもって何十年も取り入れてきた現地現物主義と、きっぱりたもとを分かつということだ。

トヨタ方式は、欠陥品発見のために生産ラインのあらゆる範囲を常に監視する任務を労働者に託す。つまり品質管理は、自動化が進んだ製造現場で最後まで人間の手に残った、数少ない仕事になった。

ただ、このやり方の「本家本元」であるトヨタでさえ、現地現物的な側面がより強い部門で自動化を推進するのかどうか聞かれたある広報担当者は「われわれは常に製造過程の改善方法に目を向けている。そうする方が妥当な分野での自動化プロセスも、そこに含まれる」と答えた。

<既存技術の応用>

人工知能(AI)の発達は、それを手頃に使える機器の進歩と歩調を合わせているだけでなく、顧客からの品質に関する要求水準の高まりという事態にも背中を押されている。

ジャパンディスプレイ<6740.T>の永岡 一孝チーフ・マニュファクチュアリング・オフィサーは「顧客からの品質要求が厳しくなってきている」と語り、人海戦術による生産ラインに比べて「自動化ラインで生産した製品の方が、品質レベルははるかに安定している」という。顧客は自動化の進展具合を気にしており「自動化でないと、顧客が心配するという状況になりつつある」という。

ただロボットに対しては、特定製品で発生し得る何万種類もの欠陥を教えて、即座に学習させる必要がある以上、品質検査の自動化は並大抵のことでは実現できない。

それでも武蔵精密工業の場合は、効率的なAIアルゴリズムの開発に際し、十分な欠陥の事例を用意することなく、部品5万個当たり1個という非常に低い不良率を達成している。

その秘密は、イスラエルの起業家ラン・ポリアキン氏がもたらした技術にある。同氏はAIと、以前に同氏が医療診断技術に用いていた光学技術を組み合わせ、生産ラインの検査に応用したのだ。検査装置には不良品の見分けではなく、完全ないし完全に近い部品の見分け方を覚え込ませようという考え方に基づいている。

<補完関係>

技術的な難関を突破した後、ポリアキン氏が率いる新興企業シックスアイと武蔵精密工業は、合弁会社「Musashi(ムサシ)AI」を設立し、史上初の品質検査ロボットの開発に取り組んだ。

ポリアキン氏によると、新型コロナの感染が世界中に広がった3月以降は、日本だけでなくインド、米国、欧州各地の自動車メーカーや部品会社などからの問い合わせが4倍に膨らんだ。

同氏は「新型コロナで動きが加速し、全面的に強まっている。なぜなら在宅勤務がテレワークの有効性を証明しつつあるからだ」と述べた。

日本とイタリアを事業の本拠としている自動車関連サプライヤーのマレリも、日本の工場でAI搭載の品質検査ロボットを導入。7月にロイターに対して、今後数年で品質管理分野でのAIの役割を増大させたい意向を明らかにした。

2023年3月までに、厚木工場でのドラムユニットとトナーカートリッジの生産のフル自動化を目指しているのはプリンターメーカーのリコー<7752.T>だ。既にロボットがほとんどの工程で活躍しており、4月以降は技術者が自宅から遠隔監視を行っている。

リコーインダストリー経営管理本部の菅野和浩本部長は、問題が生じた場合の対処は現場でする必要があるものの「監視は在宅でも可能になった」と説明した。

武蔵精密工業は、製造現場の完全自動化をいつ実現するか明らかにしていないが、大塚社長は、AIは現地現物主義を脅かす存在ではなく、補完してくれると話す。

大塚氏は「AIには不良品を見つけられても、それがなぜ生じたかが分からない。人間にしかできないことは、たくさん残る。トヨタ生産方式に代表されるような原因の追究や改善に、もっと人間が関われるようにしたい」と強調した。

*情報を追加して再送しました。

(記者:田実直美、山崎牧子 取材協力:白木真紀、平田紀之)

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