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監査人の指導的機能の発揮による決算早期化と監査効率化

先日、某監査法人の社内研修の講師をさせて頂く機会がありました。

テーマは「指導的機能の発揮による決算早期化と監査効率化」

「指導的機能」とは、(教科書的には)監査人(公認会計士)が財務諸表監査の際、財務諸表上の問題点や財務諸表作成プロセスの欠陥などを発見した場合に、適切に助言・勧告を行い、適正な財務諸表を作成するように指導しなさいよ、ということを意味します。ただ、ここで私のいう「指導的機能」とは、財務諸表上の問題点や財務諸表作成プロセスの欠陥などを発見した場合に限らす、もう少し広義の意味で捉えてもらえればと思います。

会社の経理担当者は、決算業務中に日常業務にも追われ、監査の対応もしなければなりません。忙殺されます。監査人も、限られた時間の中で監査意見を表明するに足る合理的な基礎を得なえればなりません。双方とも、合理的、効率的に業務を行なっていかなければなりません。もちろん、双方が協力しながら決算・監査をタスキリレーのように実施していくことが理想的であるといえます。

しかしながら、会社の経理担当者は、監査人が会議室にこもって何をしているのか分かっていないと思います。ムダに居座っているだけではないかと疑いをもっている経理担当者もいます。また、次から次へと監査人から質問攻撃を受けることに苛立ちを感じている経理担当者も少なからずおります。

監査人の立場からしても、クライアントからの資料の提出が遅い、提出された資料の精度が低い、質問してもまともな回答がかえってこない、監査修正が多い、対応が悪い・・・など、不満を持つこともあるでしょう。

こういう時に、監査人としては、どうすべきなのでしょうか。
「このクライアントは✕✕✕だ!」と愚痴を言っても何も変わりませんし、時間的制約がありますので「手待ち状態」になっている場合でもないと思います。

私は、こういう時こそ、指導的機能を発揮し、きちんと経理担当者へ助言すべきだと考えています。

例えば、クライアントから提出された資料の精度が低いということは多々あります。記載された数値のリファレンスが不明であったり、そもそも作成の趣旨が不明であったり、体裁が悪かったり・・・と、監査調書になり得ないものを提出されることがあります。そういったものの中には、クライアントから受け取っても、監査法人に持ち帰ってシュレッダーにかけている資料も多いと思います。

しかし、経理担当者は、監査法人が受け取った資料は、監査調書になり得るものだと思っています。だから、翌年も翌々年も、同じような資料を監査法人に提出します。

このようなクライアントを監査する監査人は、会議室で監査調書を作成する工数が(他のクライアントに比べ)大幅に増えます。経理担当者も(監査への有用性が乏しい)資料作成の時間が大幅に増えることになります。

ここで、監査人から「決算資料・監査資料はこうやって作成すべきですよ」とか、「こういう資料を提出してくれたら監査も効率化できるのですよ」といったアドバイスができないものでしょうか。多くの経理担当者は監査に協力的です。きちんとアドバイスしてくれたら、経理担当者はそのとおりの資料を作ってくれると思うのです。

他にも、連結決算が遅延する原因の一つに、「子会社からの連結パッケージの提出が遅れる」というケースがあります。拙著「決算早期化の実務マニュアル」(中央経済社)にも書きましたが、こういう会社は、「連結パッケージが複雑すぎる」という場合があります。通常子会社経理担当者は連結決算に精通していませんので、複雑すぎる連結パッケージの入力に時間がかかるわけです。中には、連結決算に必要ではないような情報も、「保守的に」「なんとなく」連結パッケージに入力させているケースもあります。監査人としては、クライアントの連結パッケージが合理的なものか、有用性の高いものかといったことは見てすぐに分かると思うのですが、連結パッケージに問題や不備(モレ・ダブリ・ムダなど)があった時に、きちんとアドバイスしてあげているでしょうか。



最近、複数の上場企業の経理担当者の方から、「監査法人に質問しても回答してくれない」「監査法人の方針としてクライアントの質問に回答してはならないことになっている、と言われた」といった声を聞きます。

何を考えているのでしょうか。外観的独立性の歪んだ解釈をしているのでしょうか。

私は以前、上場企業の経理部門で「監査を受ける立場」の経験をしたことがあります。公認会計士であっても、「監査を受ける立場」からすれば、監査人は「頼れる先生」です。頼りにしているのです。
その人たちが、クライアントの悩みにも答えないとは、ちょっと信じられません。



私が監査法人1年生の時、上司にこんな質問をしてしまったことがあります。
「受験勉強の時に、決算短信は監査対象ではないと教わったのですが、どうして決算短信の隅から隅まで表示チェックするのですか? しなくてもいいんじゃないですか?」

単なる素朴な疑問を上司にぶつけただけでしたが、その時の上司の回答は突き刺さりました。

「クライアントから報酬を頂いているからだ。自分たちの存在意義を考えろ!」



今は、クライアントの決算短信を一切チェックしないという監査法人が増えてきたようです。これは監査法人だけの問題ではないと思いますが、残念なことです。

監査調書作成に時間がかかりすぎることも、クライアントから提出された資料が読解不能であることも、会議室で手待ちの時間が多すぎることも、クライアントへのちょっとしたアドバイスにより改善されることがあると思います。
監査人は「頼れる先生」だということは忘れないで欲しいと思います。
金融庁や協会を見ずに、クライアントを見て下さい。
クライアントから「ありがとう!」と言われることほど、嬉しいことはないと思います。
クライアントへのちょっとしたアドバイスが、クライアントの決算効率化につながり、監査人の監査効率化につながると確信しています。



差し出がましくも、こんなお話しをさせて頂きました。



(監査法人社内研修は随時受け付けております。武田までご連絡下さい。)

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