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第446回(2020年8月31日)

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先週末(28日)、安倍首相が辞任を表明。約8年に及ぶ長期政権の終焉です。持病悪化、体調不良が理由とのことですから、慰労申し上げるとともに、快癒をお祈りします。安倍政権と言えば、その代名詞となったのがアベノミクス。実態は異常とも言える金融緩和に支えられた財政出動、円安、株高ですが、このメルマガ第2項(リープフロッグ)で整理しています。その内容はYouTube動画「三耕探究」第45回として明日公開します。ご活用ください。

1.ファクトフルネス

アベノミクスの評価は後世の歴史に委ねられますが、好悪両面でパターン化された認識があります。良い側は「円安、株高で経済を成長させた」、悪い側は「低成長で所得が低迷し、貧富の差が拡大した」というものです。

事実(ファクト)を客観的に評価することは、簡単なようで実は難しい。評価する段階で個人の先入観が影響するからです。

2017年に原著(英語版)、2018年に邦訳が出版された「ファクトフルネス」。ファクトを確認することの重要性を指摘し、ベストセラーになりました。

著者はハンス・ロスリング。1948年生まれのスウェーデンの医師、公衆衛生学者。残念ながら原著が出版された2017年に膵臓癌のため逝去。享年68歳でした。

ロスリングは世界各地で経済開発、農業、貧困、健康等の関係性に焦点をあてた研究を行ったほか、スウェーデンの「国境なき医師団」の共同設立者、王立科学アカデミーのメンバーでもありました。

グローバル・ヘルスの教科書として「事実に基づいた世界観(fact based world view)」を執筆し、「ギャップマインダー財団」を設立。同財団はデータを利用して「事実に基づいた世界観」を共有することを目的として活動。つまり、個人の先入観に基づく誤解を抑止しようという取り組みです。

ロスリングはプレゼンテーションイベントとして有名なTEDカンファレンスにも登場して「事実に基づいた世界観」をテーマにスピーチ。私もネットで見ましたが、たいへん面白く、勉強になりました。

ロスリングは「人間には本能的な先入観があり、データや事実を基に理解することを邪魔している」と指摘。そして、人間の本能には10の特徴があると述べています。

第1は「分断本能」。例えば、世界を「先進国」と「途上国」に分断して捉え、「途上国」では生活、衛生、教育などの環境が劣悪という「分断本能」に基づく先入観です。

第2は「ネガティブ本能」。人間は常に悪い方向に考えがち。世界の貧困者は増えているという先入観を抱いていますが、データで見ると貧困は改善されています。

第3は「直線本能」。事象が一定傾向を続けるという先入観。世界人口は増え続けると思いがちですが、実際には増加逓減傾向。経済発展に伴う出産数減少が影響しています。

第4は「恐怖本能」。第2と似ています。自然災害やテロの被害者は増えていると思いがちですが、実際には減っています。

第5は「過大視本能」。世界は欧米中心で推移するとの先入観。欧米の影響を過大視していた結果ですが、既に中国の台頭等によって現実は違うことが顕現化しています。

第6は「パターン化本能」。世界の貧困児は予防接種など受けられないと決めつけていますが、実際には世界の8割の1歳時が何らかの予防接種を受けています。

第7は「宿命本能」。イスラム教とキリスト教、東西・南北対立など、宗教や文化の違いによる宿命論に陥りがちですが、現実は融合し、複雑化しています。

第8は「単純化本能」。民主主義が社会を良くするという勧善懲悪、単純化の理想が現実と異なる事例は枚挙に暇がありません。軍事政権下で成長した韓国、そして中国の現状はひとつの反例です。

第9は「犯人捜し本能」。地球温暖化の原因は中国やインドと決めつけがちですが、過去の排出責任は先進国。真犯人は人類そのものです。

第10は「焦り本能」。ロスリングは「大変だ、早く何とかしないと」的な焦りは偏った認識、愚かな判断につながると警告。極端なケースを想定した思考を戒めています。

ロスリングは「ファクトフルネス」を実践するためには、「知りませんと言える謙虚さ」、「新しい情報への好奇心」、「定期的に認識をアップデートする姿勢」、加えて「自分は10の本能に影響されていないか」と自問自答する自己批判精神の重要性を説いています。

2.リープフロッグ

さて、「ファクトフルネス」を十分に意識したうえで、安倍政権の約8年間の経済を振り返ります。

7月30日、内閣府が、日本経済は2018年10月に景気回復が終わり、後退局面入りしていたと発表しました。

「戦後最長の景気拡大」は幻に終わり、2018年秋以降、政府が「景気は緩やかに回復している」と発表していたことは、結果的にファクトに反することとなりました。

そもそも、景気動向指数の動向をクローズアップしてみると、2014年4月の消費税引上げ以降の下降局面を景気回復期に含んでいること自体に無理があります。

その間、2016年12月に政府がGDP算定方法を改定し、GDP嵩上げが物議を醸したことにも触れておかなくてはなりません。

また、2012年3月から年末までの短い期間を無理に景気後退局面と認定したことにも違和感があります。アベノミクスのスタートを景気回復の起点とする意図が垣間見えます。

71ヶ月となった今回の景気回復期間の実質経済成長率は、岩戸景気(1958年7月以降42ヶ月)の11.3%、いざなぎ景気(1965年11月以降57ヶ月)の11.5%には当然及ぶべくもなく、小泉政権下の戦後最長いざなみ景気(2002年2月以降73ヶ月)の1.6%にも及ばない僅か1.1%。ファクトです。

そもそもこれで景気拡大期だったと定義することにも違和感があります。

この間の動きを振り返ると、2013年4月に黒田日銀総裁による「異次元の金融緩和」が始まり、その影響で株価が上昇している2014年4月に消費税が引き上げられました。

さきほど述べたように、その後しばらく景気動向指数は低下したものの、その局面もあえて景気拡大期と定義し、2018年10月からは本格的な下降局面に入っていたにもかかわらず、「景気は緩やかに回復している」と発表し続け、2019年10月に消費税再引上げに踏み切りました。

結果的に、ファクトとして景気下降局面で消費税を引き上げ、その3ヶ月後からコロナショックが始まって現在に至っています。

コロナショック発生後の世界経済、とりわけGDPの動きをみると、日米欧はコロナショック前の水準以下にとどまっている一方、中国は既にコロナショック前の水準を回復。

しかし、中国経済の先行きにも懸念があります。4月から6月のGDPはたしかに前年比3.2%伸びましたが、新規雇用は19%も落ち込んでいます。

生産増の一方で雇用減という状況は、先行きの需要不足、需給ギャップ拡大につながる可能性が高く、年末から来年にかけての展開は予断を抱けません。

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