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人種・宗教・セクシュアリティ…世界規模のバーチャル空間『あつ森』に求められた多様性 - 木下拓海

  • 2020年09月01日 11:45
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AFTER DAY1:多様性との戦い

『あつまれ どうぶつの森(あつ森)』に関する過去のツイートを日本語と英語で遡るこの企画。今回は発売翌日の2020年3月21日以降の出来事をしばらく振り返ってみよう。

バーチャルな空間に全世界から膨大な数の人々を取り込んだら、まずどういう反応が起きるのか? それを知る上で貴重なサンプルであると言えるかもしれない。

次々に投稿される発明とシェア

3/20の発売当日に日本語のTwitter上に突如現れた、巨大なあつ森の城下町。そこでは有名YouTuberやVTuberのゲーム実況が配信され、ゲーム内のキャラを題材にした素敵な漫画やイラスト、お菓子も並び、カブの取引も行われていた。

さらに、ユーザーたちが「マイデザイン(マイデザ)」機能で自作したアニメやアイドルの衣装のデータなども、まるで竹下通りや新大久保のショップのように配布され、Twitterのタイムラインという名の“通り”はあつ森ファンで大いに賑わいを見せた。

発売翌日の3/21になると『鬼滅の刃』や『欅坂46』といった有名どころの衣装は、だいたいもう誰かがすでに作り終えてTwitter上で公開しているという状態になった。そしてその次に台頭してきたのは、アイデアの光るオリジナリティのある投稿だ。

例えば、このツイートではマイデザを使って帽子をプリンに見立てている。そもそもあつ森にはお菓子や料理のアイテムがほとんどないので、これ以降、この帽子を使うやり方でケーキや寿司桶がDIYされていくことになる。

また、こちらのツイートでは、たまに浜辺に漂着してくるカモメのキャラ「ジョニー」を使って、あたかも殺人現場のようにして撮った3コマ漫画風の画像を投稿している。マイデザやアイテム、機能の組み合わせ方次第では、本来ゲームが用意していないストーリーですら表現できるのだ。

こうしてあつ森のタイムラインには多くの発明が投稿されてはそれが瞬く間にシェアされ、自分の島にも反映されるという進化を遂げてゆく。“ゆるい無人島ライフ”という触れ込みとは真逆のスピード感である。

ツイートは金儲け一色、そして始まる抗議活動

加えて、発売翌日3/21のツイートは“金儲け”一色になった。まずプレイヤーはテント暮らしから脱却して自宅を建設し、部屋を増築していくのだが、そのたびに管理人・たぬきちにローンを組まされる。その返済のためにゲーム内の通貨「ベル」を稼がざるをえないのだ。またベルは、川に橋をかけたり家具を買ったりと、島を発展させていくのにいちいち必要になってくる。

そのためプレイヤーは島内の魚や昆虫を捕獲したり、果物を収穫して売却するなどといった労働にいそしむことになるわけだが、発売翌日からはそんな需要を見越して、攻略アカウントやYouTuberなどにより「楽してできる金儲け教えます」といった情報やコンテンツが多数投稿された。あたかも怪しい情報商材の宣伝文句が飛び交っているような状況だ。

中でも割のいい労働として重宝されたのは、高値で売れる蜘蛛の「タランチュラ」の捕獲である。あつ森では、自分の島から他の島へランダムに行くことができる「離島ツアー」という機能があるのだが…

そのタランチュラが大量に湧き出る「タランチュラ無限島」が3/21のTwitterの日本のトレンドに入るほど、その日みんなは金儲けに夢中になった。

それと同時に「あつ森はもっとまったりできるゲームだと思っていたのに、働いてばっかりだ」という声が国内外のTwitterから出てくるようになる。そんな声に呼応してか、発売翌日には早速、島の開発反対に立ち上がった人々の動画が投稿され、

やがて、こんな声まで上がるように。

一方、英語圏のTwitterでも「たぬきちに我々は搾取されているのではないか?」というネット記事が公開され、さらにカブを売ってくれるキャラ「ウリ」と、カブを買い取ってくれる子ダヌキ兄弟「つぶきち・まめきち」が裏で内通しているイラストまで出回るようになった。

"He bought? Dump it" from r/AnimalCrossing

もちろん、これらはあくまでおふざけ投稿の範囲だろう。しかし発売から4日後の3/24、そこにガチのプロテスト勢が参入してくる。動物愛護団体の「PETA」だ。

PETAは「釣りはヴィーガン的にどうなのか? 虫を捕獲するのは倫理的にどうなのか? たぬきちはあなたを搾取しているのか?」と投稿。島の動植物を採集して売り飛ばすあつ森の世界に異議を唱え、そのニュースは日本にも届いてきた。この抗議に対し、あつ森の世界的広まりを実感すると同時に、「またどこかの極端な団体が騒いでいるのか…」と思った方も多いだろう。

しかしながらその実態はやはり半分おふざけだったようで…

「あつ森じゃなくて本物の動物保護に集中しろ。だからPETAはふざけてる団体と思われるんだ」というツッコミが他の動物愛護活動家と思しき人から入っているのが確認されている。

英語圏で注目されたあつ森の人種とセクシュアリティ

さて、金儲けに追われていたあつ森発売翌日、英語圏のTwitterでは日本でまったく聞かれないこんな声も上がっていた。

「あつ森やってる黒人は、ぶっちゃけみんな同じ髪型をしている」。つまり自分のアバターの髪型で、黒人が選べそうなものが少ないというのだ。そのリプ欄には「俺もまったく同じことを言ってたよ。最初に髪型を選べるのは嬉しいけど、選択肢がマジで限られている」という声も寄せられた。

さらに発売から6日目の3/26には、アバターの肌の色のチャートがTwitterでシェアされるようになる。この配分で明るさや色を調整したら、自分の肌の色を再現できるというものだ。

英語圏は人種の差異に関してかなり敏感であり、気を使っていることが伺える。多人種共生社会ならではの配慮なのかもしれない。この点について日本は良い意味でも悪い意味でもおおらかなのだろう。

また、セクシュアリティについても敏感なようだ。ただし任天堂はそれに対しては非常に先駆的な取り組みをしており、最初にアバターのベースを選ぶ際、性別で選ばせるのではなく「あなたのスタイルを選んでね」と表記している。しかしこれは英語版のみの仕様であり、日本語やスペイン語版などの他の言語では従来の「おとこのこ」「おんなのこ」で選ばせている(ただし後からでも“性別”を変更することは可能)。

日本人と思しきこのツイート主は、英語版と日本語版のキャプチャ画像を比較し、後者が相変わらずのジェンダー仕様であることを嘆いている。さらに3~4枚目の画像は、男子っぽいキャラクターのジャスティンが、同性の“友人”レックスについて語っている画像なのだが、英語版では“友人”ではなく“my partner”と表記されている。それはただの同僚という意味でのパートナーなのか? それとも恋人という意味でのパートナーなのか? こうしてpartnerの解釈を巡る議論が、ネットメディアも巻き込んで展開されてゆく。

あつ森開発の当事者である、任天堂の京極あや氏は「ジェンダーのみならず、それぞれの違った個性を尊重する方向に社会がシフトしている」「ユーザーがジェンダーを考える必要がないゲームにしたかったし、ジェンダーを考えたければそうできるようにもした」と3/24のワシントンポストの取材で語っている。ジェンダーに限ることなく、あらゆる自己表現の自由度を高くしたというわけだ。

実際にあつ森はジェンダーのみならず、車椅子生活者がゲーム内でも車椅子に座れたり、

顔にアザがある男性が、マイデザを使って自分のアバターの顔にそのアザを再現したりと、それぞれの個性を表現できる場として高い評価を得ているようだ。

この自由度の高さは早速LGBTQの支持を得たようで、とある人は3/21のツイートで、あつ森がLGBTQに人気である理由を冗談交じりでこう分析している。

「あつ森はなんでも好きな服が着られる」「家と家具にお金をかけられる」「在宅でもオンラインで友達に会いに行ける」「しずえ」「近所の人たちに悪口を言われない」。しずえがLGBTQの間で人気なのは意外だが、一番最後の理由には彼らの切実さを感じる。

どこまで多様性を拡張できるのか?

これからの時代、コンテンツやサービスを世界に向けて展開しようとなると、人種やセクシュアリティ、マイノリティといった“多様性”に対する配慮はますます必要とされるだろう。

宗教についても同様だ。実際にイスラム教徒と思しきプレイヤーからは、「任天堂さん、もうすぐラマダンなので何でもいいからこれよりマシなヒジャブを加えてくれ」といった要望や、

ヒジャブをかぶせたあつ森キャラの擬人化イラスト、ヒジャブを絶妙に髪型に似せたしずえコスプレした人まで現れている。

また、あつ森発売からわずか10日程度の段階で、障がいを抱えた黒人プレイヤーが同じく障がいを抱えた他のプレイヤーのために、あつ森内の車椅子を配布するというツイートをしたり、

さらにイギリスの慈善団体が、障がい者向けコントローラー「Xbox Adaptive Controller」をNintendo Switchに接続することで、顎や頭や手を使ってあつ森をプレイできるようにしたりと、障がいを抱えるゲーマーに対する意識の高さが伺える。

英語圏のTwitterは日本ほどマイデザも大量に配布されておらず、城下町の賑わいこそないものの、そうした取り組みが自然発生的に生まれてくるのは、さすが多民族・多文化で揉まれた社会といった感じだ。ちなみに日本語でその時期のTwitterを検索してみても、あつ森関連では「通信障害」や「障害物競走」という結果ばかりだった。

コンピュータと通信の性能が上がることによって、ますます実社会の多様性をそのままバーチャル内に取り込みやすくなっている。しかし、それで生み出されるゲームおよびその周辺のSNSも含めたバーチャル空間は、結局その作り手が属する実社会の表れそのものなのかもしれない。際限のない多様性をどこまで追求したら良いのかという問題はあるが、我々はもっと世界の端々から聞こえてくる声に耳を傾けてみる必要はありそうだ。

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