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マレーシア版「GoTo外食」、常識を覆す飲食店の繁盛ぶり - 花聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

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マレーシアは全力を挙げて、コロナ対策のロックダウンで深刻なダメージを受けた経済の復活に取り組んでいる。特に観光業では、他国同様インバウンドの外国人客が当分の間入国できないため、国民・在住者による国内旅行が主力にならざるを得ない。6月10日以降回復期活動制限令(RMCO)に移行してからは、国内移動が自由になり、様々な「Jalan Jalan 」(旅・街歩き)や「Makan Makan」(食べ歩き)キャンペーンが打ち出された(参照:『マレーシア版「GoToトラベル」、現場で何が起きているのか?』)。

コロナの真っ只中、連日満席のレストラン

とはいっても、日本のような政府予算が組まれる政府主導型キャンペーンではない。たかがホテルの宿泊料にかかる政府税金分を免除するくらいで精一杯だ。基本的に民間主導でホテルなどの業者がそれぞれ独自の割引優待プロモーションをかけ、自助努力の集客に依存している。

マレーシア政府は財政的に大規模な予算を組む余裕がないし、特定の産業に補助を出すと不公平感を持たれやすい、またコロナの長期化が予想されるなか、とにかく前例を作りたくないなどといった思惑が交錯するなか、民間が先走りしている。

観光業と並んで大きなダメージを受けた外食業も明暗が分かれている。各地で「明」の部類に属する飲食店を何店舗か取材してみた。比較しやすいように、一般市民が使うミドルクラスの中華料理店にターゲットを絞った。時間帯も週末や祝日を避けて平日の夕食時間に合わせてみた。調査結果だけを総括的に取り上げたい。

まず特徴その1は、どの店も満席の大繁盛ぶりである。

マレー半島中部某地方都市のS店。店構えは簡素で内装も経年劣化が進んで、場末感満点。しかし人気がある。夜7時頃から店内は満席。政府が求めているテーブル間の「社交的距離」が厳格に守られているかどうか定かではないが、客が路上に溢れ出て、増席された露天の「青空席」は道路の駐車スペースにまで侵入した。よくも警察が取締りに来ないものだ。いかにもマレーシア的である。

客が路上に溢れ出たS店

クアラルンプールのグルメ街ケポン地域にあるG店。予約の電話を入れると、少人数の予約は受け付けない。夕方5時台に来てくれと。6時半に店に着いてみると、すでに満席。かろうじてエアコンのない室外席を確保できただけでもありがたい。酒を飲まない華人客が多いので、食べてすぐ帰るので回転が良い。それでもテーブルの片付けを待つ客が常にいる。駐車場は満車。

写真12-早い時間帯から満席のG店

高級店はなぜ苦戦を強いられているのか?

特徴その2、このクラスの飲食店はホテルのような割引優待を一切提供していない。つまり、普段の料金形態で運営している。そもそも普段の料金でもそんなに高くない。むしろこれ以上割引したら、経営が成り立たなくなるくらいだ。

ホテルの場合、コロナ期間中の運営をみると、高級ホテルが大幅な値下げをして集客しているのだが、中級以下のビジネスホテルやエコノミーホテルは元々格安価格であるから、値下げの余地がなく、価格的優位性を失う。一方、高級ホテルは設備がよく断然優位性を有し相対的割安感が際立つので、客は高級ホテルの割安パッケージに流れる。最終的に悲鳴を上げているのは中級以下のエコノミータイプホテルだ。

しかし、レストランはどうも逆の状況になっている。

マレー半島東海岸のA高級リゾートの近くにあるレストランW店は、数卓しかない小さな店だが、連日満席の状態が続いている。村の食堂といった簡素な店構えなのに、駐車場には高級車が続々と入ってくる。身なりの良い富裕層客がやや「身分不相応」な格安食堂で頬張っているのである。

富裕層客が高級車を乗り付ける、村の食堂W店

高級車のナンバーはほぼクアラルンプール・ナンバーになっている。リゾートに泊まっている客が割高なホテル館内食を止めて、「外食」しているのではないかと思われる。あとからSNSをチェックしたら、「Aリゾートに泊まったら、近所のWレストランがおすすめ」「Aリゾート滞在中に毎日W食堂で食べていた」といった類の書き込みが多数見つかった。予想が当たった。

Aリゾートのレストランは朝食だけ客がたくさん入るが、夕食となれば人影まばら。宿泊パッケージに含まれている朝食しか食べない、というのが客の消費傾向だ。さらにホテルのレストランはいちばん安いハウスワインでも1本6000円以上もする。Wレストランの場合、アルコール持ち込み料はわずか250円。しかも交渉したらタダにしてくれた。余談だが、マレーシアのミドルクラス以下の中華レストランは大体酒持ち込みOK。私はいつも卸売業者から安く仕入れた日本の焼酎を持ち込んで飲んでいる。

無料持ち込みの焼酎を飲みながら中華料理をいただく

高級飲食店は苦戦を強いられているようだ。たとえば、ラグジュアリーホテルS系列の場合、宿泊客の館内レストラン利用に50%オフの割引を提供している。

一般的に飲食店の食材費にあたる原価率は30%が目安だと言われている。その上に人件費等その他経費を上乗せすると、軽く60~70%を超える。たとえ家賃がゼロであるホテル直営のレストランでも、50%の割引だと、利益がゼロか下手をすると赤字ではないかと思われる。

先日メールがやってきた。世界展開するあの名門日本料理「NOBU」のクアラルンプール店の宣伝。コロナ期間中にお任せコースを398リンギット(約1万円)の特別料金で提供する。しかも2人のペアで注文すれば、1人分が無料になると。NOBUのお任せコースを5000円で食べられるとは驚く。店に利益は出るのだろうか。

付加価値を削れ!マーティングの常識が覆された

このようにホテルと逆のパターンで、飲食店はエコノミータイプのほうが高級店の客を奪っているのである。コロナ不況で富裕層でも倹約指向が強まり、安くて美味しい料理を出してくれるレストランに足を運ぶ。

マーケティング学では、「セグメンテーション」という専門用語がある。特定商品・サービスにおける市場を異質とみなし、顧客市場を細分化することを指している。しかし、コロナ禍でこの「セグメンテーション」が常識を覆し、いささか乱れてしまったのである。

その乱れ方といえば、「付加価値」の排除が1つの傾向ではないかと思われる。「付加価値」はある意味で顧客にとって「付加コスト」にもなっている。コロナ禍によってその「付加コスト」の側面がより可視化し、より強調され、より排除されやすくなったのである。

「エッセンシャル(essential )」。マレーシア生活者にとって、コロナ期間中にもっとも頻繁に触れる用語の1つである。ロックダウン期間中や一部解除時に、機能維持や再開にあたって優先度のもっとも高い産業群・業種・ビジネス部類を指している。

つまり、緊急度・必要度の高い、国民生活に不可欠な産業やビジネスである。日本語でいえば、「不要不急」の反対で「必要緊急」の部類にあたる。とりわけコロナ対処の中核をなす医療産業やその他日常的なライフライン事業、基本的な衣食住にかかわるビジネスが挙げられる。

現代社会、殊に先進国では、第三次産業の比重が増えれば増えるほど、エッセンシャル産業・ビジネスが相対的に比重低下する。たとえば私が携わっている経営コンサルティング業務も、全般的にいえば「非エッセンシャル産業」に属するから、コロナでダメージを受けることはやむを得ないし、宿命ともいえる。

これは善悪とか正誤とかの問題ではない。時代の変化、有事モードに適応できるかどうかの問題だ。「付加価値」の正体をみると、「不要不急」の度合いが高ければ高いほど排除されやすいわけだ。

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