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アングル:市場は「アベノミクス第2版」を想定、期待は高まらず


伊賀大記

[東京 28日 ロイター] - 安倍晋三首相の辞任表明にもかかわらず、金融市場に失望感は乏しい。次期政権が政策面で現在の路線を継続する可能性が高いと予想されているためだ。金融緩和と財政拡大の枠組みが変わらない「アベノミクス第2版(バージョン2)」となれば、低金利環境は維持され、世界的な株高の流れに乗りやすい状況が続くとみられるが、政策の欠点も引き継ぐ懸念があり、投資家の期待感は高まりにくい。

<麻生氏か菅氏の新政権を織り込む市場>

市場関係者の間で有力なシナリオとして織り込みが進んでいるのは、麻生太郎副総理か菅義偉官房長官が自民党新総裁、つまり新首相となる可能性だ。ともに基本政策としてアベノミクス政策を継続するとの見方が多い。大きく変更すれば、安倍政権を支えてきた自らの否定につながるためだ。

政治の空白を避けるためには、できるだけ早く自民党総裁選を行う必要がある。党員含めた投票が可能になる党大会を開くには2週間程度が必要だが、両院議員総会で決める場合はそれよりも早い開催が可能だ。両院議員総会の場合は、国会議員票が4分の3を占めるため、党員の意向は反映されにくい。

複数の報道によると、安倍首相の後継を選ぶ党総裁選の時期、形式については、二階俊博幹事長に一任された。市場では「今年9月の総裁選は両院議員総会になるのではないか。そうなれば党員からの支持率が高い石破茂元幹事長の当選の可能性は低い。岸田文雄政調会長を推す声も高まっていない。二階幹事長と距離が近くなっている菅官房長官が最有力」(外資系証券エコノミスト)との声が強まっている。

共同通信によると、二階氏は28日、TBSのCS番組収録で、安倍首相の後継について、菅官房長官が有力候補との認識を示した。リーダーとしての資質を問われ「立派なものだ。十分その任に堪えうる人材だ」と語った。

<長期政権目指し政策加速か>

一方、後任総裁が決まっても、安倍氏から引き継いだ任期は2021年9月に終わる。来年に予定される総裁選は党員からの投票も可能になる党大会となる可能性が大きい。新首相が長期政権を目指そうとすれば、国民や党員からの高い支持率が必要になる。

このため、新首相は来年9月前に大型の景気対策を行い、支持率の上昇をねらうはずという見方が市場では多い。財政拡大を続けるならば、利払い費の急増を防ぐ金利の低位安定は不可欠。間接的にせよ、財政をサポートする金融緩和路線も変更は行いにくい。

また新型コロナウイルスへの対応が必要な状況が変わらなければ、景気刺激路線の変更は支持率低下につながる可能性がある。

財政拡大と金融緩和という大きな政策のフレームワークが変わらなければ、他の政策に多少の変更があったとしても、それは「アベノミクス」を微修正したバージョン2と呼ぶべきものであり、内外投資家が抱いている日本の現状認識に変化は起きにくい。

安倍首相の辞任表明を受けて、28日の東京市場は動揺し、株安・債券安・円高が進んだ。しかし、「麻生副総理か菅官房長官が後継となり、金融緩和や財政拡大の路線が変わらないということが分かれば、市場の動揺は収まる」と、アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は指摘する。

<アベノミクスの課題も承継>

政策の路線継続は市場に安心感をもたらす。しかし、それは「アベノミクス」の欠点も引き継ぐことになる。人口動態問題や潜在成長率の低下など、構造問題に対する抜本的な対応が進んでいないという課題だ。

第2次安倍政権発足当初に策定された「日本再興戦略2013」では、企業の開業率・廃業率を米英並みの10%へ引き上げると公約されていた。しかし、2018年度の開業率は4.4%、廃業率は3.5%(厚生労働省「雇用保険事業年報」)にとどまっている。産業や企業の「強靭化」は道半ばだ。

安倍政権が重視した全要素生産性は、2018年までの6年間の年平均伸び率が0.5%(日本生産性本部のデータ)にすぎない。

「新首相が長期政権を狙うならば、痛みをともなう政策は先送りする可能性は大きい。未解決の問題をひきずったままの政権運営になりそうだ」と、シティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏は指摘する。

海外投資家の日本株売買(現物と先物合計)は13年に15兆円の買い越しとなったが、18年は13兆円と大幅な売り越しを記録。いまもポジションは回復しておらず、ポジションはほぼニュートラルな状態だ。

安倍首相の辞任表明に金融市場は動揺したものの、失望感は強まっていない。しかし、もともと政権への期待値が低いために失望の度合いも大きくならなかったとなると、路線を継承する新政権に明るい展望を描くのは難しいといえる。

(編集:北松克朗)

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