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地方国立大学の政策・政治リスク(大学改革の行方その15)

 山中教授のノーベル賞受賞の興奮が冷めやらぬ状況ですが、僕のブログでは、国立大学協会主催のマネジメントセミナーで、各大学の役員クラスの皆さんにしたお話の続きにもどります。

 前半では、法人化に際しての三重大学のマネジメント改革についてお話をしました。次は、「政策・政治リスク」にどう対応するか?」というテーマです。

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 ここで、後半の話に深く関係する前半のスライド「法人化に際しての地方大学の危機意識」をもう一度出しておきます。

 2004年の国立大学法人化に際しては、地方国立大学の危機意識は大きく、当時の鹿児島大学長さんを中心に反対の動きがあったんです。しかし、国立大学協会の中では、多数意見を占めるにいたらず、法人化は実施されました。

 僕も、法人化前夜の三重大学長の選考の時に、その提出書類の中に、次のように書いています。

 「少子化が進む中で本学の存続が問題にされる時が来る可能性もあると思われるが、その際に地域住民から三重大学の存続を求める声が上がってくれないようでは困ることになる。本学が地域との連携を深めることは、それ自体に大きな価値のあることであると同時に、危機管理的な意味もある。」

 国立大学というのは、国によって守られている存在であると同時に、国によってつぶされるかもしれない存在ですからね。国から見放された時に、地方大学を守ってくれるのは地方しかありません。

 そして、この僕の危惧が数年後に実際に起こりかけることになります。

 

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 国立大学法人化の背景に見え隠れし続けてきた潮流というのは、”財政緊縮下における「選択と集中」政策”であったと考えています。

 「地方大学切り捨て」などという直截的な表現は使われないのですが、いろんな表現形で「選択と集中政策」が謳われています。これらは、それぞれもっともな面をもっており、そのこと自体に反対することは難しいのですが、緊縮財政下で何かを「選択と集中」するということは、必ずトレードオフとなって、別の何かを切り捨てるということを意味します。国立大学でいえば、上位の大学を「選択と集中」すれば、必ず下位の大学が切り捨てられるという結果になります。

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 それがはっきりしたのが、平成19年の出来事でした。当時は経済財政諮問会議の活動が活発で、国立大学に対する政策の議論も厳しいものになっていました。財政制度等審議会に出された資料の中に、国立大学の運営費交付金を科学研究費取得額でもって配分するという試算があり、それによると、三重大学をはじめ、多くの地方国立大学で半減するというものでした。

 3月18日の朝日新聞には「競争したら国立大半減?三重など24県で「消失」」という、刺激的な見出しで報道されました。ちなみに、なぜ、「三重」が名指しされたのか、いまだもってよくわからないのですが・・・。

 僕は、さっそく緊急記者会見を開いて、地方大学がいかに地域に貢献しているか、いろんなデータをお示しして必死に訴えました。もし、地方大学が社会や地域にとって役に立たない存在であるならば、これは切り捨てられても仕方がありませんが、これだけいっしょうけんめい貢献しているのに、どうして皆さんにわかっていただけないのでしょうか?という感じですかね。

 当時の三重県知事の野呂昭彦さんと、津市長の松田直久さんがすぐに動いてくれました。野呂さんは定例記者会見で、国の政策に反対を表明され、県議会でも反対の決議がなされ、そして近畿知事会、全国知事会にも働きかけて、反対の決議に結びつきました。松田さんはすぐに東京へ飛んでいって陳情され、市議会でも反対の決議に至りました。

 これは三重県だけではなく、他の県でも同じような動きがあったのですが、一部の新聞は、「国立大学長の知事詣で」などという見出しで、学長たちの動きを揶揄しました。言っておきますが、僕はこのとき知事や市長にお頼みしたことはいっさいありません。彼らが、自らの意思ですぐに行動に移したのです。

 学生さんからも、涙が出るような応援メールをいただきました。

 僕は、当時の経済財政諮問会議のメンバーであった八代尚宏先生に直接お会いして、科学研究費獲得額では地方大学は少ないものの、科学研究費あたりの論文数は旧帝大よりも多い、つまり効率の良い研究機関であるというデータをお見せして、地方大学は切り捨てられるべき存在ではないということを説明しました。八代先生からも、その主張についてはよく理解できるとおっしゃっていただきました。

 最終的に、当時の「骨太の方針」において、「大幅な傾斜配分」と書かれていた原案の文言が、「適切な配分」に書き換えられることになったのです。

 僕が緊急記者会見を行った時に、知事や市長が即座に動いてくれたのは、地方大学が、特に法人化後いっしょうけんめい地域貢献活動に努力した賜物であると思っています。

 この出来事は、地方大学にとって「政策・政治リスク」に対する適切な危機管理がいかに大切かということを教えてくれました。

 また、このような、外部からのリスクに対しては、組織のトップ、つまり学長が先頭に立って対応するということが非常に重要なことです。この事件のあと、僕は学内のリーダーシップが非常にとりやすくなったと感じました。

 次回は、法人化後の国立大学附属病院の「政策・政治リスク」に対する対応についてです。

(このブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

 

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