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コロナ禍の読書ー放送大学の教材に取り憑かれる日々

コロナ禍におけるステイホームで一番私がはまったのは、放送大学のテレビ講義だということは幾たびか触れてきた。7月にそれが終わってから、今度は教材を買い求めて読んだ。私が取り組んだものは10講座ほどだが、そのうち、興味深く読んだものは3冊。それぞれ骨太で、中身は濃い。

通常の大学の教材と違って社会人向けの赴きで、波及効果も多く、これからの生活に役立つこと請け合いである▲まずは、一押し。高橋和夫『中東の政治』。

この人は他にも『世界の中の日本』『現代の国際政治』と、3講座を同時並行で講義しておられ、また『権力の館を考える』や特別講座にも顔を出されるなど、露出度ナンバーワン。卓越したスピーチ力とユーモア溢れる心配りの話術で魅了された。教材の方も、面白く読める。

数多ある知識の宝庫とでもいうべき記述のうち、一つだけ挙げると、アメリカという国がいかに宗教国家であるかのくだり。アメリカの紙幣の全てに  IN GOD WE TRUST(我ら神を信じて)とあることを紹介したのち、キリスト教福音派と共和党との関わりを述べている。

ブッシュ(息子)から、トランプへと受け継がれた共和党政権の背後にある信仰の力が興味を唆る。「二回の離婚経験と数知れぬ不倫の疑いに包まれた」トランプをなぜ福音派の人々は支持するのか。

「全てを許す神は御業を行う手段として、トランプのような人物を選んだと考えているようだ」というのである▲次に私が強く魅力を感じたのは宮下志朗、小野正嗣『世界文学への招待』。親子ほど歳の離れた二人のオリエンテーションと最終講義でのまとめは忘れがたい。

小野さんのNHKの美術番組などでの活躍ぶりはかねて注目してきたが、この度の講義では実に堪能するものがあった。①文学は他者への共感を可能にする手段である②文学は世界の窓である③母語の感度を高める最良の手段であるーなどと言った世界文学への誘いの言葉も強いインパクトを受けた。

15回にわたる現代世界文学を俯瞰する試みはとても一回の講義で習得できるものではないが、テキストを幾たびかなぞることで、大いに刺激を感じ、触発された▲三つ目は、吉田光男、杉森哲也『歴史と人間』。これも講義は私に強烈な印象を与えてくれた。

ここでも最後の講師五人によるまとめが面白かった。草光俊雄の担当したメアリ・ウルストンクラフトという女性解放運動の先駆者については恥ずかしながら全く知らず、目から鱗の経験をした。一方、それなりに知っているつもりだった日本の津田梅子についても杉森哲也の解説で改めて開眼した。

またモンテーニュをめぐる宮下志朗の講義は実に魅力的なもので、改めて『随想録』に挑戦せねば、との思いに駆り立てられる。ともあれ、「日暮れて道遠し」を突きつけられて、心中穏やかでないものの、「物事始めるに遅すぎることはない」を確信して、暑い日々を、涼しい思いで生きたい。(2020-8-28)

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