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河井前法相初公判全解説~「安倍首相の体調」との関係は?

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克行氏「形勢逆転」の可能性は?

現在の状況は、前法相の克行氏が、検察に追い詰められ、崖っぷちに立たされていると言える。

しかし、検察冒陳の「2」「3」については、現金受領者の「選挙運動」の実態も相当あると思えるので、有罪を免れることは困難だと思われるが(克行氏の弁護側も、この点を認識しているからこそ、全体の処罰を免れる主張として、「裏取引」による公訴棄却を求めているものと思われる)、起訴金額の3分の2以上を占める「1」の県議・市町議・首長らに対する供与については、状況的にも「投票及び票のとりまとめ」の依頼と言えるかは、かなり微妙であり、「裏取引」の影響もあるので、公判証言の信用性には相当程度疑義が生じる可能性がある。

今年12月には証人尋問がすべて終わり、克行氏、案里氏の被告人質問が行われることになるが、それが、本件公判の最大のイベントとなるだろう。そこで(a)~(c)の検察の主張に対して、克行氏自身が「合理的な説明」ができれば、「1」について「一気に形勢逆転」という可能性もないではない。「1」の多くが無罪となれば、買収金額は大幅に減り、執行猶予の可能性が高くなる。

では、「形勢逆転の一手」となる(a)~(c)の検察の主張に関する克行氏の「合理的な説明」として、どのようなものが考えられるか。

(a)については、「領収書のやり取りがない」「収支報告書等への不記載」との事実で、「違法性の全くない政治資金の寄附」との説明は困難となるが、そのことが、「投票及び票の取りまとめ」の依頼だったことに直結するものかと言えば、必ずしもそうではない。「政治資金の寄附」にも、何らかの目的を持って、その事実を秘匿する「ヤミ献金」もある。政治資金規正法の目的には反する行為だが、実際に過去に相当広範囲に行われてきた。「ヤミ献金」にせざるを得なかった事情について「納得できる合理的な説明」が行われれば、「投票及び票の取りまとめ」のための現金供与であったことを否定する余地もある。

(b)については、「自民党の党勢拡大に向けての政治活動」「克行氏自身の政治活動」というのは、克行氏が、そういう目的で現金供与を行ったという主観の問題であり、それが、現金供与の際に、受領者側に表示されていなくても、そういう目的であったことが、ただちに否定されるわけではない。克行氏の現金供与が、そのような目的で行われたとの克行氏に説明の「裏付け」があれば、案里氏の選挙での「投票及び票の取りまとめ」を依頼する目的が否定される可能性もある。

(c)については、まさに露骨な罪証隠滅行為であり、克行氏側の説明・反論は相当に苦しい。しかし、露骨なデータ消去を行ってまで現金供与の事実を隠蔽しようとしたことについて、その目的が、案里氏の選挙での「投票及び票の取りまとめ」を依頼する「選挙買収」を隠すことではなく、他の理由によるものだったことについて、克行氏に、「納得できる合理的な説明」を行うことができれば、情勢は大きく変わることになる。

では、(a)及び(c)についての「納得できる合理的な説明」、(b)についての「裏付け」として何が考えられるか。

そこで重要となるのが、検察冒陳でも弁護人冒陳でも殆ど触れられていない「多額の現金買収を行うことにした経緯とその資金」である。そこには、本件の核心と言える「重大な事実」が隠されているように思われる。

本件への安倍首相の関与

本件に関しては、検察捜査が本格化する前から、案里氏の参議院選挙の選挙資金として、同じ選挙区の自民党候補溝手顕正氏の10倍の1億5000万円が提供されていたことが明らかになり、その巨額選挙資金提供が、溝手氏に対する個人的な悪感情を持つ安倍首相自身の意向によるものではないかとの憶測を生んでいた。その点に関して、これまでの報道と、弁護人冒陳の内容を対比すると、重要なことが見えてくる。

まず、この点に関して、以下のような事実が報じられている。

(ア) 自民党が参院選の候補者として案里氏を公認した3月13日の前後の2月28日と3月20日、自民党本部が案里氏代表を務める政党支部に1500万円万円を振り込んだ2日後の4月17日、自民党本部が案里氏の政党支部に3000万円を振り込んだ3日後の5月23日に安倍首相と克行氏とが単独で面会しており、6月10日に案里氏政党支部に3000万円、克行氏政党支部に4500万円が振り込まれた10日後の20日に安倍首相と克行氏とが単独で面会し、その一週間後の同月27日に克行の政党支部に3000万円が振り込まれている(首相動静)。

(イ) 安倍首相の秘書5人が、案里氏の選挙運動の応援に、山口から広島に派遣されていた(「安倍総理大臣秘書」と表現するよう克行氏側からの指示が出ていた(毎日))。

(ウ) 克行前法相が広島県議側に現金を渡した後に、安倍首相の秘書が同県議を訪ねて案里氏への支援を求めていた(共同)

(エ) 案里氏の後援会長を務めた繁政秀子・前広島県府中町議は、昨年5月に克行容疑者に現金30万円を渡された際、克行氏から「安倍さんから」と言われたと証言した。

ここで、改めて、本件現金供与の背景についての弁護人冒陳の記述を見てみよう。

上記(2)の「2人目の候補者として案里氏公認」を行ったのは自民党本部執行部であり、そこには、その決定の中心となった人物がいるはずである。一方、(4)は、公認が遅れ、しかも、広島県連が一切応援しないという姿勢であった案里氏の選挙に向けての政治活動が、人的にも資金的にも厳しい状況にあったという広島側の実情であり、それが、克行氏から自民党本部側に伝えられたからこそ、1億5000万円もの巨額の選挙資金が自民党本部から河井夫妻側に提供されることになったことは明らかである。

そこで重要なことは、この(4)の記述は、弁護人冒陳で、「多額の現金供与の背景事実」として主張されているということだ。つまり、(4)のような実情を克行氏から知らされた自民党本部執行部側の人物が、そのような厳しい情勢を乗り越えるために、「相当な資金」が必要になると認識したからこそ、破格の選挙資金の提供が行われた。そして、人的な面の不足を補うために派遣されたのが安倍首相の秘書5人だったと考えられる。

このような状況であった2019年3月の案里氏公認から7月の参院選公示までの間に、上記(ア)のとおり、公認直後、選挙資金提供の前後のという「極めて重要なタイミング」で、克行氏は安倍首相と、「単独で」面談しているのである。

そして、(ウ)のとおり、安倍首相の秘書は、克行氏が現金を供与した先に、それと相前後して訪問して案里氏への支持を呼び掛けていた。検察冒陳で「なりふり構わず」と表現されているような露骨な現金供与のことを安倍首相の秘書が認識しなかったとは考えにくいし、克行氏が、現金供与を、「安倍首相の名代」として行っているとの認識を持っていたからこそ、「安倍さんから」などという言葉を漏らしたということであろう。

これらの事実を総合すれば、安倍首相が、克行氏が、自民党本部から提供した1億5000万円の選挙資金を実質的原資として行った(直接の原資は、借入等かもしれないが、党本部からの資金提供があったからこそ、選挙資金の収支上現金供与を行うことが可能となった)現金供与とその目的を認識し、容認していたことについて、「合理的な疑いを容れる余地はない」と考えられる。

克行氏にとって「逆転の一手」

上記の推認のとおりだとすると、克行氏には、被告人質問での実刑判決を免れる「逆転の一手」がある。それは、安倍首相が、現金供与とその目的を認識し、容認していたこと、その実質的原資が、自民党本部からの選挙資金であることを、包み隠さず、真実を供述することである。

それによって、弁護側主張に対する「強烈な反論」であった上記(a)~(c)の検察主張に対しても合理的な反論が可能となる。

まず、(a)(c)については、本件の現金供与が、安倍首相と単独面会して秘密裏に話し、了解を得た上で行われたものだとすれば、それは「表に出さない、裏政治資金の寄附」であり、だからこそ、領収書のやり取りは考えていなかったということになる。そして、その現金供与のリストを含むパソコンデータを削除したのも、克行氏にとって、それが選挙買収に当たる犯罪と認識していたからではなく、一国の総理も関与した「裏の金の流れ」についての決定的証拠を、捜査機関の手に渡すことができないと「首相を補佐する立場」で考えたが故の行動だったという説明は、相応に「納得できる合理的な説明」だと言える。

そして、(b)については、安倍首相との間で、上記(4)の広島県内の選挙情勢と、公認の遅れや県連の非協力から、人的、資金的に厳しい状況の中で、それを打開し、党勢拡大・地盤培養を行う目的について認識を共有していたのであれば、克行氏が、現金供与の際に口にしなかったとしても、党勢拡大・地盤培養のための政治資金としての現金供与であったとの弁護人冒陳での主張に、相応の裏付けがあるということになる。

以上のとおり、克行氏が、「安倍首相が、現金供与とその目的を認識し、容認していたこと」を供述した場合、議員・首長への現金供与の「1」の大半は、党勢拡大・地盤培養のための政治資金としての現金供与ということになり、無罪となる可能性が高くなる。克行氏が、無罪になれば、安倍首相も、現金供与についての認識があったとしても、同様に、刑事責任は問われないということになる(もっとも、政治資金規正法上の問題は別途生じうるし、政治的、社会的には重大な責任があり、総理の座にとどまることができないことは言うまでもない)。

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