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42歳の凄腕シェフが「サイゼリヤは飲食業界の理想郷」と断言するワケ

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東京・目黒のミシュラン一つ星イタリアン「ラッセ」のオーナーシェフ・村山太一氏は、2017年からサイゼリヤ五反田西口店でアルバイトをしている。村山氏は「サイゼリヤには上下関係がほぼない。高校生からシニアまで、だれもが和気あいあいと働いている。こうした職場を作れるのは、サイゼリヤの生産性が高いからだ」という——。

※本稿は、村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

業務用厨房で調理を行うプロの調理師のチーム
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Worledit

とにかく作業がシンプルで、本当にムダがない

「ミシュランの星付きシェフがバイトに来るって本当かよ?」

2017年4月、サイゼリヤ五反田西口店はザワついていたようです。それは、僕がサイゼリヤでのアルバイトを始めた日です。

僕はと言えば、人のお店で働くのは7年ぶり。初心に返ってワクワクしていました。「よろしくお願いします!」とその場にいた店長さんやスタッフに頭を下げると、「それじゃ、さっそく仕事の説明をするね」と店長さんに店を案内してもらいました。

最初はレジ打ち、その後ホールや洗い場の回し方を教えてもらいました。もう、驚きの連続でした。サイゼリヤは高校生でもバイトができるように、とにかく作業がシンプルで、本当にムダがない。たった数十分の説明とOJTでだいたいの業務がステップアップできるようになっていたのです。

計算されつくしたキッチンの動線に感嘆

例えば、サイゼリヤではiPod Touchを注文の端末として使っていて、オーダーをとりながらスタッフが打ち込んだら、そのデータがPOSレジに届きます。会計時にはレジで伝票のバーコードを読み込んでお金を入れれば、おつりは自動で出てきます。伝票を見ながらメニューごとに料金を打ち込んで、お客様から受け取った金額をレジに打ち込んで……なんて細かい作業はショートカット。これなら誰でもすぐにできるので、「いいなあ、このシステム」と羨(うらや)ましく思いました。

サイゼリヤは店では包丁を使わないのは有名な話。全て下処理済みの材料が店に届いて、キッチンではパスタをゆでたりグリルで温めたり、カットされたサラダを盛り付けるといった作業だけになっています。だから、キッチンを1人か2人で回せるし、料理が未経験でも短時間の研修でキッチンに立てるという合理的なシステムです。

もちろん、僕が経営する高価格帯のレストランではマネできません。でも、ツールの置き場所や料理をスムーズに提供する動線など計算されつくしていて、仕組みやマネジメントのレベルが群を抜いていることはわかりました。

「なんなんだ、この楽しい世界は!」

何より、僕が衝撃を受けたのは、サイゼリヤには上下関係がほぼないところです。

村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)
村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)

高校生からシニアまで、さまざまな年齢、立場の人が一緒に和気あいあいと働いているので、「なんなんだ、この楽しい世界は!」と感じました。

当たり前といえば当たり前だけど、店長さんが丁寧に仕事を教えてくれたことにも、僕は内心感動していました。僕がずっといた高級店の世界では、「仕事は盗んで覚えろ」が常識。仕事をロクに教えてもらえないし、先輩は常に上から目線で下にいばり散らしていました。

ところが、サイゼリヤでは高校生でも「こっちのお皿から洗ったほうが早いですよ」なんて教えてくれる。僕がモタモタしていても怒鳴られることはないし、手を貸してくれる。働きやすい職場とはこういうものなんだ、と僕は感動のあまり涙ぐんでしまったぐらいです(笑)。

サイゼリヤは「レストランで働く人たちの理想郷」

その日の夜、僕は今までの自分の行動を振り返りました。今までに修業してきた店では、厳しい職人の世界と言えば聞こえはいいけど、不条理で不合理なやり方がまかり通っていました。本当は、僕はそんな世界が大嫌いでした。

だからイタリアに渡り、8年間がむしゃらに働いて誰にも文句を言われない世界を勝ち取った。でも、いつしかそんな思いは忘れてしまっていた。僕も先輩たちと同じように、スタッフに丁寧に仕事を教えないし、「黙ってオレの言うことを聞いていればいいんだ」的な考えに支配されていました。

その結果、スタッフは委縮していつまで経っても仕事を覚えられないし、僕の顔色を窺うようになっていました。ピリピリしたスタッフたちがお客様の前で喧嘩(けんか)して、それが不快だったというレビューがグルメサイトに投稿されたこともありました。

僕は、それはスタッフのメンタルが弱くて、力量がないからだと思っていました。チェーンストアを指導した経営コンサルタントの渥美俊一先生は、店舗や事業がうまくいかないのは全て経営者の責任だと言っています。人が定着しない、殺伐とした生産性の低い構造をつくった僕が全部悪かったんです。

スタッフにも幸せな人生を送ってもらいたいと思っていた、かつての僕の理想郷がサイゼリヤにはありました。

生産性を上げるには、幸せであることが一番

実は、僕がサイゼリヤでバイトしようと決めたのは、店の経営が行き詰まっていて、突破口を見つけたかったというのもあるのですが、もっと大事な理由があります。

僕は、人を幸せにしたいんです。僕とかかわってくれる人を幸せにする仕組みをつくりたいのです。

こんな話をしたら、怪しげな自己啓発っぽく感じるかもしれませんが、僕は毎日幸せに生きているのか自分自身に問いかけています。「幸せ至上主義」なのかもしれません。世の中の経営者やリーダーは、社員を幸せにするような仕組みをつくらなければならないと思います。その企業は必ず生産性が上がり、売上が上がります。

仕事の生産性を上げるには、幸せであることが一番です。幸せなら、気分よく補い合いながら働いて、チームとしての全体最適を図れるので生産性が上がります。一方で、生産性が上がれば上がるほど、時間的にも精神的にもゆとりができてみんながより幸せになります。この好循環を実現させているのがサイゼリヤです。

ブラックな星付きレストラン、ホワイトなサイゼリヤ

ミシュランの星を獲るような店は、いわゆるブラック企業のようなところが多いです。朝からずっと仕込みや料理に追われて、営業時間が終わっても新作メニューを考えたり、次の日の仕込みをしたり、深夜にようやく家に帰れる。睡眠時間は2〜3時間でまた出勤、なんてこともざらです。

そして、常に「星を落としたらいけない」とプレッシャーにさらされているので、メンタルも体力も全部削られる。もはや、お客様のために料理をつくっているのか、星のためにつくっているのかわかりません。そのプレッシャーに押しつぶされてしまうシェフもいるほどです。

そんなやり方では、シェフもスタッフも幸せにはなれません。「それに耐えられるのが一流だ」みたいな風潮もあるけど、僕はレストランの経営がうまくいかなくなってから、「本当にそうなのか?」と考えるようになりました。

サイゼリヤの基本理念は「人のため 正しく 仲良く」。僕はこの社是が大好きです。サイゼリヤも残業はありますが、必ず週に1回の休みはもらえるし、店長がいばり散らしてないからスタッフの仲はいいし、ホントに社是の通りです。

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