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レジ袋有料化で政府が〝無視〟したプラごみの問題点 そもそも海洋プラスチック問題とは何か - 櫻井俊 (Wedge編集部)

「レジ袋だけ削減しても環境問題が根本的な解決にならないのは環境省もわかっている。百歩譲って有料化を容認したとしても、プラスチックごみ全体をどうしていくかのビジョンは描けていない」

レジ袋の問題はその「使用後」の処理方法にある  (AFP=JIJI)

7月1日から始まったプラスチック製レジ袋の原則有料化。小誌の取材に対して憤るのが、レジ袋を日本で初めて開発した中川製袋化工(広島県大竹市)の中川兼一社長だ。同社のレジ袋事業はピーク時には売り上げの約半分を占めた柱だが、7月以降は昨年比の5割減になっているという。

レジ袋有料化は、2019年5月に策定した「プラスチック資源循環戦略」に盛り込まれた。政府はレジ袋有料化の狙いを、海洋プラスチックごみ問題と地球温暖化問題に対応するため、プラスチックごみ問題への国民の理解を広げ、行動変容を促すためとする。

現時点で生態系への影響はない
海洋マイクロプラスチック

そもそも、海洋プラスチックごみには三つの問題がある。

第一に、レジ袋などプラスチック製品をウミガメなどの海棲生物が飲み込むこと。第二に、漁具や容器などのプラスチックごみが砂浜等に漂着することによって景観を阻害すること。第三にあるのが、マイクロプラスチック(一般的には大きさ5ミリメートル以下のプラスチック)が海を漂っていることだ。マイクロプラスチックに残留性有機汚染物質(POPs、ポリ塩化ビフェニルなど)が吸着・濃縮し、生態系や人体に悪影響を与えることが懸念されている。

だが、環境省リサイクル推進室の金子浩明室長補佐によれば「マイクロプラスチックの人体、生態系への影響は科学的に研究途上であり、それをもって規制をかけようという段階ではない」という。

そうであれば海洋プラスチックごみ問題で対処すべきは、第一、第二の問題をもたらす、海に流出するプラスチックごみの量をいかに減らすか、ということになる。だが、多くの人が抱くイメージと現実は違う。環境政策が専門の神戸大学・石川雅紀名誉教授は「有料化してレジ袋の使用量を減らしても効果は少ない」と指摘する。

最も引用されている論文の推計では、日本から海洋に流出したプラスチックごみの量は3万6000トンだが、プラスチックごみの総量のわずか0.5%に過ぎない(10年)。日本においては廃棄物管理が徹底されており、使われたプラスチック製品のほとんどが海洋へと流出していないのだ。

逆算すると、海洋に流出しているプラスチックごみを1万トン減らすにはプラスチックごみの総量を200万トン減らさなければならないが日本で使用されているレジ袋は年間20万トンといわれており、それらをすべて減らしても全く足りない。これについて金子室長補佐も「レジ袋はこれまで自主的に取り組んできた事業者がいたこともあり、有料化に踏み込みやすいことから始めた」と語る。

温室効果ガスの発生を
意図的に無視した資源循環戦略

あるべきプラスチックごみの対策とは何か。石川教授は「海洋プラスチックごみ問題と地球温暖化問題の双方に対処するには、散乱ごみを減らす取り組みを進めつつ、使用後のプラスチック製品のリサイクルを進め、自治体におけるプラスチックごみの焼却量を減らす取り組みが必要だ」と語る。

使用後のプラスチック製品のほとんどは通常の廃棄物処理のフローの中で処理されている。しかし、そのフローに入らず、ポイ捨てなどで海岸、河川敷、路上に散乱したごみが、海洋に流出している。こうした散乱ごみの回収率を高めることができれば、海岸に漂着するごみ自体を減らせる。

ペットボトルが模範になる。その回収率は現在、自治体と事業者とによるものを合わせて販売量の約9割に達している。これはペットボトルが単一素材からできており再資源化しやすいことや、回収の仕組みが整っていることも大きな要因だ。同様にプラスチックごみを「思わず捨てたくなるような」ゴミ箱の設置などを業界団体と自治体が進めることも一つのアイディアだろう。

また、地球温暖化問題に関連するのが「サーマルリサイクル」だ。プラスチックごみ処理のうち56%は、焼却して熱回収(焼却することで得た熱エネルギーを回収・利用すること)を行う「サーマルリサイクル」が占めている。そのうち65%以上が自治体のごみ焼却によるものだ(プラスチック資源利用協会資料、18年)。

前出の石川教授は「サーマルリサイクルのうち、セメント製造や紙パルプ産業の燃料としてプラスチックごみを加工して使う場合は熱回収率が70%程度ある。しかし、自治体のごみ焼却炉で焼却して得た熱を用いて発電し、電力としてエネルギーを回収する場合、その回収率は平均で10%程度しかない。これはプラスチックごみをプラスチックとして使うマテリアルリサイクルや、分解して化学製品の原料として用いるケミカルリサイクルと比較して温室効果ガスの削減効果で明確に劣り、とるべきではない政策だ」という。

政府は50年までに80%の温室効果ガスの削減(13年度比)を掲げる。しかしプラスチック資源循環戦略では、サーマルリサイクルの「方法」を区別せずに記載している。これについて安井至・東京大学名誉教授は「焼却によって発生する温室効果ガスの影響を意図的に無視したものと言わざるを得ない」と指摘する。

レジ袋有料化でエコを語る前に、リサイクルのあり方を見直し、プラスチック資源循環全体で環境負荷を減らす戦略が求められている。

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