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歴代最長の安倍首相はコロナショックで終幕を迎えるのか〜田原総一朗インタビュー

安倍晋三首相の連続在職日数が8月24日、2799日に達し、佐藤栄作氏を抜いて歴代最長となった。一方で、安倍首相は8月17日と24日に慶応大学病院を訪れ、検査を受けた。そのことから健康不安説がささやかれている。異例の長期政権も終幕が近づいているのか。田原総一朗さんに安倍政権の見通しを聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】

安倍首相が「疲れている」のは間違いない

共同通信社

安倍首相は8月17日、7時間以上かけて病院で検査を受けた。もともとは一泊二日の入院の予定だったが、本人の強い希望で「日帰り検診」となった。これをめぐり、自民内部でもいろいろな噂が流れていて、安倍首相の体調が相当悪いのではないかと疑われている。

安倍首相が「疲れている」のは本当だと思う。普通の人間ならば、心も体も疲れ切って、首相の座を投げ出したくなってもおかしくない状況だからだ。

発端は去年の秋。共産党の田村智子議員が11月の参議院予算委員会で「桜を見る会」の問題を取り上げたのが、安倍首相の苦悩の始まりだった。毎年恒例の桜を見る会で、安倍首相が後援会の関係者を多数招待しているのではないか、と追及したのだ。

この追及をきっかけとして、安倍首相に対して「税金の私物化だ」という批判が広がった。マスコミの報道も追随し、安倍首相はその応対に追われることになった。

かつての自民党ならば、ここまでひどい事態にはならなかった。党内の実力者の誰かが「安倍さん、やめなさい」と進言したことだろう。しかし実際は、誰ひとり止めることなく、むしろ自分たちの後援会関係者も「桜を見る会」に招待しようとした。

自民党が腐り切ってしまっている、としか思えない。自民党の実力者に問いただしてみると、「田原さんの指摘に対して弁解できない」という答えが返ってきた。

なぜ、こんなふうになってしまったのか。理由を考えてみると、「歴代最長政権」の負の側面ということに行き着く。安倍内閣が長く続きすぎたために、議員たちの神経が緩んでしまっているのだ。

次から次へと安倍首相を襲うスキャンダル

共同通信社

その証拠に、政権のスキャンダルは「桜を見る会」だけで終わらなかった。続いて起きたのが「黒川問題」だ。

検察ナンバー2の東京高検検事長で、「安倍政権の守護神」とも呼ばれた黒川弘務氏の定年を閣議決定により強引に延長した問題である。その後、野党の追及を受けると、安倍内閣は検察庁法を改正することで対応しようとしたが、厳しく批判された。

検察庁法の改正案に対しては、SNSで激しい反対運動が起こり、一部の芸能人も加わって大きな反響を呼んだ。結局、国会での法案成立は見送られることになったが、その後、黒川氏が週刊文春に「賭け麻雀」を暴露されて、辞職に追い込まれた。

この黒川問題のときも、自民党の内部では「自浄作用」が働かなかった。党内で安倍首相に「ノー」と言える議員がほとんどいないのだ。

黒川問題の後に続いたのが、河井夫妻事件だ。前法務大臣の河井克行衆院議員と妻の河井案里参院議員が公選法違反で逮捕・起訴された。河井夫妻は8月25日に開かれた初公判で「買収の意図はなかった」と無罪を主張したが、多額の現金がバラまかれた事実は否定できない。

この事件の舞台は、昨年の参院選。広島選挙区に案里被告が出馬したとき、とんでもない「金のバラまき」がおこなわれた。まるで、40年以上前の田中角栄時代のような金権選挙が繰り広げられ、大規模な買収事件まで起きることとなった。

その背景には、歴代最長政権のもとで正常な判断ができなくなった自民党本部の強引な選挙運営がある。

参議院の広島選挙区は2人区で、もともと自民と野党で1人ずつ分け合っていた。昨年の選挙も、自民党からは5期連続当選の溝手顕正氏が出馬予定で、本来ならば波乱の要素がない選挙区だった。

ところが、自民党本部が広島県連の反対を押し切って、自民2人目の候補として案里被告を出馬させた。結果的に溝手氏が落選し、案里被告が当選したわけだが、その案里被告は、選挙を仕切った夫・克行被告とともに刑事責任を問われることになった。

なぜ、自民党本部はそんな無謀なことをしたのか。どうやら、かつて公然と安倍批判をしたことがある溝手氏を「落選させたい」という首相側近の意向が働いていたようだ。

その意向は、党から各候補に提供された選挙資金の金額にも表れている。案里被告に1億5000万円もの資金が提供されたのに対して、溝手氏にはその10分の1の1500万円しか提供されなかったのだ。

安倍首相を直撃したコロナショック

AP

桜を見る会、黒川問題、河井夫妻事件と難題続きの安倍首相。そこへさらなる追い討ちをかけたのが、新型コロナウイルスである。

4月初めに緊急事態宣言を出すなど、コロナ対応に追われる日々が続いている。5月下旬に緊急事態宣言は解除したが、再び感染者が増加し、安心できない状態だ。

深刻なのが日本経済へのダメージで、今年4月〜6月期の実質GDP(国内総生産)は前年比で年率27.8%減と戦後最大の落ち込みを記録した。特に苦境に陥っている旅行業界を支援しようと仕掛けた「GoToトラベルキャンペーン」も効果が薄く、打開策が見えない状況だ。

これだけ問題が続けば、普通の人間ならばとっくに参っているだろう。安倍首相も疲れていて当然だ。

国民の期待も下がり続けている。各メディアの世論調査の結果はどれも厳しい。たとえば、読売新聞が8月10日に発表したデータによると、安倍内閣の支持率は37%、不支持率は54%。不支持率は第2次安倍政権の発足以来、最悪の数字となった。

新型コロナウイルスへの政府の対応をどう見るか、という点については、「評価する」が27%なのに対して、「評価しない」が66%と大きく上回っている。コロナショックが安倍政権を直撃し、求心力を奪っていっていると言えるだろう。

だが、国民は「自民党がダメだから野党に託そう」とは考えていない。これだけ内閣支持率が落ちてきても、野党の支持率が大きく上がる気配は見えない。

となれば、かつての自民党のように、党内から「次の首相」に向けた声が上がるのを期待するしかないのではないか。それなのに、いまだに誰も名乗りを上げない。唯一、石破茂氏だけが意欲を見せているが、彼を支持しようという度胸のある自民議員はまだまだ少ないのが現状だ。

八方塞がりに陥っているいまの日本の政治を、どう考えればいいのか。

結局のところ、「ポスト安倍」の議論が本格化することはなく、「疲れた首相」が率いる政権がしばらく続きそうだ。安倍首相としても、いま辞めたら「無責任だ」と批判されるため、政権を投げ出すことはしないだろう。

ならば、全力を尽くして難題に当たってほしい。まずは、コロナ対応に焦点を絞って国会を開き、抜本的なコロナ対策について国会で議論することが求められる。

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