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下條アトムが語る『ウルルン滞在記』の独特な節回し誕生秘話

『ウルルン』のナレーションは話題になった(撮影/藤岡雅樹)

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、洋画の吹き替えやナレーションなど、声の仕事について語った言葉をお届けする。

 * * *

 下條アトムは海外ドラマ『刑事スタスキー&ハッチ』(日本では一九七七年に放送開始)で主人公のスタスキー役の吹き替えを担当。以来、声の仕事でも活躍するようになった。

「ちょっとドラマの仕事が少なくなった時にたまたまオファーがあったんです。

 でも、やってみたらできない。声優さんの中に入って主役をやらせてもらったんですが、とてつもなく難しかったんです。それで居残りで汗だくでやりました。

 それが面白かった。できないから、面白いんです。上手くやろうというのではなく、とにかく表現したいことを懸命に一つ一つ積み重ねていきました。そうやって面白がりながらやることが、表現者としてのベースにあると思います。

 それから、才能は人が見つけてくれる。『下條さんは声がいい。マイク乗りがいい』って、その時言ってもらえたんです。『マイク乗りだけで仕事になるんですか?』と聞いたら、『それが大事なんだ』と。

 そうやって、自分が行きたい方向とは違った線路でも、人が僕のために敷いてくれた、周りが見つけてくれた才能なのだから、大事にしないといけない。所詮、自分がやりたい仕事だけをやって生きていけるわけではありませんから」

 フジテレビの「ゴールデン洋画劇場」で放映されたエディ・マーフィ主演作では、エディ・マーフィの声を担当している。

「彼のエネルギーを僕が出すのは無理なんです。でも──これは妄想なのですが──エディ・マーフィになったつもりでやっていました。スタジオでも革靴ではなく運動靴を履いていましたし、体も動かしました。

 声を当てるといっても、首から上だけに重点を置かなかったんです。僕も役者ですから、どういう気持ちでエディ・マーフィは演じているのか、この役の人間はどういう気持ちでいるのかを大事にしようと。

 それと同時に、あれだけ素敵な役者の邪魔をしたくなかった。つまらない色付けをして、自分を出したくないと思ったんです。僕がやっていると知られなくていい。エディが日本語を喋っているぐらいに視聴者は思ってくれていいという感じでした」

 九五年に始まった紀行番組『世界ウルルン滞在記』(TBS系)ではナレーションを担当、独特の節回しが話題になった。

「出ている役者さんもスタッフも物凄く大変なスケジュールで毎週やっているのに、僕は快適なスタジオで収録している。みんな辛い想いをしているのに、僕だけコーヒーを飲みながらやっているわけです。『歩いて五時間』と僕は口で言うだけですが、彼らは本当に五時間歩いている。

 それで、彼らのサポーターのつもりでいました。『がんばれ!』という気持ちを込めて。

 キザな言い方ですが、一枚の絵に蝶々が、花が、木々が、葉っぱが、雲が描かれていて、そこに僕のナレーションが息を吹き込むことで風が流れ、それぞれが動いて生きてくる。そういうスタンスでナレーションをやらせてもらっていました」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2020年8月28日号

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