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YouTubeで『アメトーーク!』『オールスター感謝祭』ができない理由とは 『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』より #1 - 白武 ときお

 YouTubeは全世界で月間20億人以上が利用している(2020年3月)、巨大なソーシャルメディアだ。日本国内でも月間6000万人以上が利用しており、テレビの視聴率の低下とは対照的にユーザー数は年々増えている。

『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)などのテレビ番組に携わり、現在は「しもふりチューブ」などのYouTubeチャンネルにも参加している放送作家、白武ときお氏。白武氏の著書『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社)から一部を抜粋し、テレビとYouTubeのメディア特性の違いから、これからのエンターテイメントについて考える。

◇◇◇

テレビとYouTubeの違い(いまのところ)

 YouTubeとテレビには、メディアとしてどのような違いがあるのかよく聞かれます。いまの時点ではたくさん違うところがあるけれど、もしかしたら、今後どんどん近づいていくかもしれません。

 まずは構造の違いについて比較してみます。

 テレビの強みは、電源を入れればなにかしらの番組が流れていて、しかも6つのチャンネル数に選択肢が絞られていること。ザッピングする人もたくさんいるので、偶然視聴されるチャンスも多くあります。


©iStock.com

 YouTubeは、見たいときに見たいものを楽しめるシステムですが、最初のきっかけが必要です。作り手の立場からすると、YouTubeのチャンネルは視聴者に能動的に検索して探してもらい、見つけてもらう必要があります。動画をクリックしてもらうために、タイトルやサムネイルを工夫したり、あるいはSNSなど別の場所で話題を作ったりしなければなりません。YouTubeには急上昇動画を一覧で見せてくれるページがあるので、そこのランクインを目指すのもひとつの手です。

スポンサーが枷にもなるテレビ番組制作

 テレビでは視聴率が1%だとしても、膨大な人数が見ていることになります。ですから、初見の視聴者でもわかりやすいように作るのがセオリー。

 YouTubeも丁寧に作っている方はいますが、テレビに比べ、「わかる人にだけ向けて作る」ことがやりやすい点が特徴的です。

 テレビには膨大なスポンサーがいます。スポンサーのお金で番組を制作しているので、いかにCMを見てもらうかということが重要になる。だから「わかる人にだけわかればいい」「数字よりも面白いことを優先する」というスタンスでは、なかなかうまくいきません。視聴者との共通言語が獲得できていると信じて、余計な説明をはぶいて見せるということに、なかなか踏み切れないのです。

 一方、YouTubeは自分たちで勝手に作って、勝手に配信しているので、YouTubeのルールを守った内容であれば、それが面白くなくても、わかりにくくても、数字をとれなくても構いません。

 だからこそ、自分たちが好きなことをフルスイングで視聴者に届けることができるのです。

『オールスター感謝祭』はYouTubeではできない

 次に、制作手順の違いについて。

 テレビの場合は、まず予算と枠を軸に考えます。テレビ局が枠に対して企画を募集して、編成が選んだ企画を作るのがスタンダードです。たまに「この人でやってください」と、出演者ありきで考えるケースもありますが、基本的には予算と枠が先です。

 YouTubeは、基本的に予算ゼロからのスタート。持ち出しで始めて、現在のルールだと、千人の登録者と4000時間の再生時間を突破しなければ収益化できません。確実なマネタイズが見えているものではないのです。

 スタッフの数にも圧倒的な差があります。

 テレビは深夜番組でも、作家、ディレクター、プロデューサー、AD、照明、音声など50人以上で構成されることも。

 YouTubeだったら、僕は演者もスタッフも最小人数で撮るのがよいと思っています。動画を編集するスタッフは別にいてもいいのですが、コアメンバーの仲が良い感じ、プライベートな感じが伝わると、そのチャンネルにファンが集まってくると考えています。YouTubeにおいては、“密”が大事。

視聴媒体の差が画面作りにあらわれる

 画面の大きさにも違いがあります。

 基本的にテレビの画面は大きいので、『アメトーーク!』のように出演者が多い番組でも、それぞれの顔がちゃんとわかる。豪華なセットを建てて、大勢の人が集まって、複数台のカメラを切り替えて見せていくということができます。

 YouTubeはスマホ視聴が圧倒的に多いので、小さい画面で見られることがほとんどです。僕が撮る場合には画面内が3人以下になるよう心がけています。画面が小さいと表情の判別がつきにくいので、規模の大きなことはやりづらいんですよね。

『アメトーーク!』や、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』の「笑ってはいけない」シリーズなどは、出演者の表情が大事なので、テレビで見たほうが面白いと思います。

 一方で、『相席食堂』や『マツコの知らない世界』は、出演者が少なく、面白いことを言う人が決まっているので、スマホでも見やすい。

 後述しますが、テレビ番組の無料配信サービス「TVer(ティーバー)」でこれらの番組が人気なのも、そこに理由があるのかもしれません。

 ただ、スタジオにセットを建ててやるような大きな企画は、まだテレビの予算感でなければ成立しない。テレビには、テレビでしか作れない楽しさや面白さがあります。

 たとえば、百数十人の芸能人が一堂に会する『オールスター感謝祭』のような大規模番組は、いまのところYouTubeで成立させているモデルケースはありません。あのパブリックなお祭り感こそ、テレビならではの面白さ。コンテンツの住み分けを考えるのに、わかりやすい例ではないでしょうか。

純粋な「お笑いバラエティ」は今後増えるのか?

『とんねるずのみなさんのおかげでした』や『めちゃ×2イケてるッ!』のような、“ザ・お笑いバラエティ”な番組が消滅したり、ネタ番組やコント番組がなくなったり。2010年代は純粋なお笑いバラエティのパワーが失われていき、閉塞感がありました。

 そういった番組が減ってきた理由のひとつに、少子高齢化の影響があります。テレビは視聴率至上主義なので、人口ピラミッドが逆ひょうたん型になっている以上、どうしても上の世代に向けて球を投げたほうが視聴率がとれる。

 本当は若い世代や自分たちと同世代の人たちに向かって球を放りたいのに、ただ笑える番組よりも、タメになる番組が求められる傾向にありました。

「コア層」向けに舵を切った日本テレビ

 ただし、その潮目も変わりつつあります。

 スポンサーは全体の数字よりも、消費の中心であるファミリー層や流行に敏感な若者層の視聴者を獲得することにもっと価値があると認識しはじめました。第2章でも書いたように、日本テレビは数年前から、全年代の視聴者よりも20代から40代のゾーンの視聴率を取っていこうと完全に方針転換しました。

 なので、局内の視聴率の張り紙も、20代から40代ゾーン、いわゆる「コア層」の視聴率を張り出しています。

 最近でいえば、『有吉の壁』をゴールデンでレギュラー化したこともその一環でしょう。もしこの方針が成功すれば、これから少しずつ地上波のゴールデンタイムに若者向けの番組が増えていくかもしれません。

なぜ多重チェックをしてもテレビ番組はネットで“炎上”してしまうのか へ続く

(白武 ときお)

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