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一生懸命生きることと同じくらい、死について考えたり論じたりすることも大切です -「賢人論。」第119回(後編)小堀鷗一郎

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理想の死は、その人にとっての“普通の生き方”の先にある

小堀 理想の死に方といっても人それぞれです。中には自分の死を受け入れ、「これだけはやり遂げたい」と言って、映画やドラマのような劇的な最期を遂げる方もいます。しかし僕の知る限り、大抵の理想の死は特別ではない。極めて普通です。

例えば、お酒が好きで好きで仕方ない末期がんの患者さんに「もうあなたの好きにしていいよ」と言ったら、大きなボトルに入ったウイスキーを抱えてストローで飲みだした(笑)。

それならと、僕の家にだいぶ前に人からいただいた高級ウイスキーがあったので、それを手土産に訪ねて一緒に飲んだら「こんな良い酒は飲んだことがない」とものすごく喜ばれて。もちろん、元気になったのは一時的でしたが、その患者さんは好物の寿司やうなぎも食べ、その2ヵ月後に亡くなりました。

僕はこういう“今まで通りの生き方”“ありふれた望みを叶えること”を最期に選んだ患者さんをずいぶん見てきましたし、実は僕の祖父の森鷗外もそうだったんです。

みんなの介護 ご祖父様も、というのは意外に感じられました。詳しく教えていただけますか。

小堀 鷗外は陸軍軍医総監を退官してから上野の帝室博物館(現・東京国立博物館)の館長を務めていました。

毎朝、家を出て坂をのぼってそこへ通う。文豪として知られる祖父ですが、最期に彼が望んだのは普通に仕事をして家に帰ること、平凡な1日を過ごすこと。特別なカルミネーションを求めていたわけではありませんでした。僕はそれが人間というものなんだと思います。

支援者にとっては1つの死であっても、その人の死はその人だけのもの

みんなの介護 小堀先生はケアチームの介護関係者とどのような連携を取られているのでしょう。

小堀 これが非常に難しい。多くのケアスタッフは僕の考えを理解してくれません。極論を言えば、ケアマネージャーも看護師も「死」が怖いんです。だから患者の具合が少しでも悪くなると入院させようとする。

世間一般の方々と同じように、ほとんどの介護関係者が在宅死の現場に立ち会った経験がないため、どうしても死から目を背けてしまうんです。

以前、自宅で死にたいという患者さんの希望を叶えようとしたら、「この家で死なれては困る。死ぬときは病院でという約束で貸している」と大家さんに言われたんです。

もちろんそんな約束を交わしているはずはなかったため何とか取りなして、最終的には「霊柩車を家の前に呼ばない」という条件で折り合いをつけました。それくらい、今の世の中で「死」は忌み嫌われているんですよ。

みんなの介護 在宅医療における看取りは、場合によってはそこまで踏み込んだケアが必要になってくるのですね。

小堀 僕のようなやり方をすべてのスタッフに求めるのは無理です。人手不足もあって一人ひとりにかかりきりにはなれません。事務的にならざるを得ない事情があることも重々理解しています。

しかし、その人の死はその人だけのもの。その人らしい死を迎えてもらうために、僕としてはやれるだけのことをしてあげたい。人生の最期のときを伴走する者の務めだと思うんです。

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