2012年のノーベル生理学・医学賞を京都大学教授の山中伸弥iPS細胞研究所長(50)とともに受賞した英ケンブリッジ大のジョン・ガードン博士(79)。名門私立イートン校に在学中、科学の先生から「彼が科学者になろうなんて考えは、まったくもってばかげている」と完全に見放されていた。
ガードン博士の研究室には、15歳のころ科学の先生から渡された“通信簿”が張り付けられている。それには「ガードンが科学者になる考えを持っているのは間違いない。しかし、現在の状況を見ると、それは、まったくもってばかげている」と書かれている。
「簡単な生物学の事実を学ぶ力もないのなら、科学者として仕事をするチャンスはゼロだろう。それは彼にとっても、指導する側にとっても完全な時間の無駄というものだ」とケチョンケチョンにこき下ろされていた。
ガードン博士は同学年の生徒250人中、生物の成績は最下位。
さすがにガードン博士もいったんは科学者志望をあきらめて、進学したオックスフォード大で古典を学んだ。しかし、科学者になる夢は捨て切れず、専攻を動物学に変更した。
ガードン博士はアフリカツメガエルのオタマジャクシの細胞から核を取り出し、受精していない卵子の核と入れ替えて、新たにオタマジャクシを誕生させることに成功した。
それまでの生物学の常識では、卵子から胚(はい)、そして成体になり、逆戻りはしないと考えられていたが、ガードン博士は成体の細胞ももとの状態に戻る(初期化する)ことを実験で証明した。まさに生物学の常識をくつがえしたのだった。
特殊相対性理論のアインシュタイン(1879~1955)も学校の先生に「彼はたいしたものには決してならない」と酷評されていた。
ガードン博士は実験がうまくいかないとき、科学の先生にもらった“通信簿”を見ながら、「ひょっとしたら先生は正しかったのかも」と考えて気をまぎらわせ、再び実験に取り組んだ。
ガードン博士のノーベル賞受賞は教科書、すなわち科学の常識を信じないことから始まったのかもしれない。イートン校の科学の先生についてガードン博士は「教室で教えてもらったことは全然わからなかった」と笑顔で振り返った。(了)
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- 2012年10月09日 08:28