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現場には一番乗り、周囲への細かい気遣い……松田優作も惚れた俳優・渡哲也の記憶 握手で受け継がれていく“石原軍団”魂 - 岩佐 陽一

 テレビドラマ『西部警察』シリーズ(’79~’84年)や映画『男たちの大和/YAMATO』(2005年)の伊藤整一役などで知られる俳優の渡哲也さんが、去る8月10日(月)に亡くなった。享年78。死因は肺炎だった。

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 渡さんは青山学院大学経済学部在籍時代、日活で映画俳優デビュー。同期には女優の梶芽衣子がいる。映画『無頼』シリーズ(’67~’69年)などで名を馳せた後、’71年に日活を退社してフリーに。敬愛する日活の大先輩・石原裕次郎が興した石原プロモーションの門戸を叩いた。


渡哲也さん(昭和45年10月撮影)©文藝春秋

「活動屋魂」がテレビで『西部警察』を大ヒットさせた

 裕次郎さんもそうだが、渡さんも当時、斜陽を迎えた映画産業に代わり、全盛を極めつつあった“テレビ”の世界へ、映画への熱い想いを一旦圧し殺して、積極的に参加するようになった。それはもう“時代がそうさせた”としか言い様のない、致し方なき選択だったろう。

 その結果、渡さんの代表作はテレビで大ヒットしたドラマ『西部警察』シリーズとその前身の『大都会』シリーズ(’76~’79年)となった。映画を愛し、映画スターの石原裕次郎を愛して石原プロに入った渡さんにとってそれは実際“不本意”なことかもしれないが、逆に“落ち目の映画ではできない、すごいことをテレビでやってやろうじゃないか”という活動屋(映画人)魂が、映画以上のスケールを誇る『西部警察』ワールドを誕生させた。

 ここで渡さんを偲ぶ意味で、筆者が取材で知った『西部警察』と『大都会』の、渡さんの撮影秘話を幾つかご紹介しよう。まずは『大都会』シリーズから。

1回のサウナに20分以上!『大都会』シリーズに懸けた熱い想い

 渡さん主演の『大都会』シリーズ第1作『大都会 -闘いの日々-』(’76年)は、石原プロ製作のテレビドラマ第1作。そして、NHKの大河ドラマ『勝海舟』(’74年)を病気降板した渡さんの本格復帰第1作目ともなった。石原プロ社長の裕次郎さんも、『勝海舟』のメインライターだった倉本聰さんも、渡さん復帰のはなむけとしてこの番組を用意した。

 同番組のプロデューサー、石野憲助さんに拠れば、裕次郎さん、倉本さんの思いやりに応えようと、渡さんの番組にかける意気込みは凄まじく、特に撮影前、撮影中の体づくり、体調管理に余念がなかったという。撮影直前まで渡さんの治療は続いており、薬の副作用でなかなか“むくみ”が取れなかった。そこで渡さんは体を絞るため毎日サウナに通った。石野さんも何回かお付き合いされたそうだが、5分ぐらいで音を上げて出てしまう自分をよそに、渡さんは20~30分経っても出て来ない。ようやく出て来たと思えば、軽く水を被ってまたサウナに……それを5、6回繰り返す姿を見て石野さんは「とても自分にはマネできない」と思ったそうだ。

 また、咳き込むことも多く、先の薬の副作用で顔が紅潮することも多々あったが、いざカメラが回った途端、顔の赤味が消え、全く咳もしなくなり、それには驚いたという。それまでにも数多くの名優たちを見てきた石野さんだったが、渡さんで初めて「これが真の役者魂というものか」と、その神髄に触れた思いがしたそうだ。

渡さんに熱い思いをぶつけた俳優・松田優作さん

 シリーズ第2作『大都会 PART II』(’77年)では、渡さんと松田優作さんの共演が当時話題を呼んだ。2016年にBS11で『大都会』シリーズが放送されることになり、その記念特別番組に構成と番組インタビュアーで筆者も参加させていただいた際、渡さんに当時の思い出話を伺うことができた。

 優作さんは、撮影中の休憩時間も、呑みの席でも常に「なんで渡さんは映画、やんないんスか?」と言い続けていた。「渡さんは映画に出るべき。いつまでもテレビなんかに出てちゃダメ。ここまで石原プロに操を捧げる必要はないっスよ」とまで言い、渡さんが「もういい優作、わかった、わかったから」と言うまで、いや言ってもやめなかった。そんな、誰も言ってくれない、言いづらいことをズバズバ言う優作さんの自分への気持ちに、時には涙の出る想いがしたという。優作さんも舘ひろしさん同様、渡さんに心底惚れていたひとりだった。

“大門団長”とのスタジオ一番乗り競争

『大都会』シリーズをさらにスケールアップさせた『西部警察』シリーズは、とかくアクション面で語られがちだが、アクション以外での渡さんの逸話を紹介しよう。

「大~~門くぅ~~ん」の名調子で知られる、口うるさい係長こと二宮武士役の庄司永建さんから伺ったお話だが、とにかく、どんな早朝の撮影でも、渡さんはスタジオに先に入って、時には自ら西部署セットの掃除までしていたという。庄司さんは劇団民藝の大ベテラン。撮影30分前にはスタジオ入りして、一番乗りを決め込んでいたが、渡さんの出番がある日だけはかなわなかった。

 あるとき「今度こそ一番乗りになってやろう」と意気込んで、撮影1時間前に日活撮影所のスタジオに入った。ところがセットに着くなり、渡さんが自ら扉をガチャッと開け、「係長、お早うございます」とニッコリ。さすがの庄司さんも「負けた……」と、思い、次からまた30分前の入りに戻したという。

団長はどこに!? スタッフの朝一番の日課とは?

 この渡さんの“現場一番乗り”はスタジオだけに留まらず外ロケでも披露(?)された。やはり早朝で、ロケ撮影の朝。現場に到着した撮影スタッフのひとりが周囲を確認していると、少し離れた場所に停車している1台の車を発見。眠い目をこすってよく見れば、紛れもなく渡さんの自家用車だった。

 その日の渡さんの集合時間の約2時間前のこと……まさかとは思ったが、慌てて監督以下スタッフを呼び、皆で車に近づくとドアが開いて渡さんがご登場。そして、「お早うございます。朝早くからご苦労様です。みなさん、僕のことなんか気にせずに準備を進めてください。僕はお邪魔にならないようここにいますので」と笑顔でご挨拶。そう言われたところで、スタッフ一同、気になって仕方がない。一気に眠気も吹っ飛び、アッと言う間に撮影準備が済んで、その日の撮影は巻きで終わったという。

 もちろん、渡さんはプレッシャーをかけるために2時間も前に来たわけでなく、万が一、自分が遅刻して撮影が遅れるようなことになっては……という配慮からで、そのことを重々理解しているスタッフにも気持ちは充分伝わり、良い意味での緊張感と張りに繋がった。これなどは渡さんのお人柄が、現場の良き“潤滑油”となっていた証だろう。

 ただそれ以降、助監督には渡さんの車を捜す任務が日課に加わり、「渡さんを捜せ!」が朝一の合言葉になったという。

握手が繋いだ石原裕次郎さんの想い

 渡さんの心遣いは、生来のものに加えて裕次郎さん譲りもあるのだろう。日活の新人時代、満足に挨拶もしてくれない諸先輩方のなかで裕次郎さんは、自分から立ち上がって自己紹介した上に、握手して激励してくれた。渡さんの裕次郎さんへのリスペクトはそれ以来。自身も舘ひろしさんとの初対面の際、自分から自己紹介して舘さんと握手を交わされた。その瞬間、舘さんも渡さんに付いていこうと思ったそうだ。

 先述の、筆者が渡さんの番組インタビュアーを務めさせていただいたときのお話を紹介して本稿の締め括りとさせていただく。このときも収録直前まで渡さんは咳き込まれていたが、収録開始と同時にピタッと咳は止まり、『大都会』のあの話を思い出した。

 収録も無事に終わり、憧れの渡さんとマンツーマンのインタビュー収録という、自身にとっては“我が人生の晴れ舞台”ともいうべき大任を果たし、心地よい疲労感に浸り茫然自失状態の私に、渡さんがツカツカと寄って来られ、スッと右手を……一瞬何が起きたのか解らず、また「自分に対してである筈がない」と思った私が周囲を見渡すと近くには誰もいない。「あ、わ、私ですか? そんな……恐縮です」と、思わず両手で握り返すと渡さんが「ありがとう。お疲れ様でした」と、ひと言。

 その瞬間、裕次郎さんの渡さんへの握手、渡さんの舘さんへの握手のエピソードを思い出した。それも、相手が大スターやスタッフならともかく、自分のような一介のインタビュアーにまでこの気遣い……“漢(おとこ)が漢に惚れる”とはまさに、こういうことなのだな、と、人生で初めて理解した。

天国で酌み交わす酒はやはり松竹梅?

 「この手は絶対に洗わない」と思ったのも束の間、ほどなく洗ってしまったが、そのときの渡さんの手の温もりと笑顔はいつでも脳裏に蘇る。

 このたびの渡さんの訃報を聞き、様々な想いが脳裏をよぎり、一瞬、茫然自失となった。だが、裕次郎さんから渡さんへ、渡さんから舘さんへ、そして舘さんからファンのみなさんへ今なお受け継がれている“想い”を後世に残す一助になれば……との思いからこの拙文を書かせていただいた次第。

 今はただ、天国で裕次郎さんと渡さんが再会の杯を交わされているお姿を夢想しつつ、慎んでご冥福を祈りたい。

(岩佐 陽一)

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