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働き方改革によるわが国旅行分野への影響や効果(1):働き方改革は、わが国の観光や旅行をどう変えていくか

2020年7月29日
観光戦略室 室長/主任研究員 妹尾 康志、研究員 加藤 千晶

わが国では少子高齢化が進展しつつあり、労働力人口の減少に伴う労働力不足が懸念されている。このままでは、国全体の生産力低下、ひいては国力の低下が避けられないことから、政府では一億総活躍社会の実現を掲げて、平成29(2017)年3月28日に「働き方改革実行計画」を決定し、いわゆる働き方改革を推し進めている。
この働き方改革は、旅行分野に対しても大きな影響を及ぼすと考えられる。まず、目標の一つとして、国際的にみて低いとされるわが国労働生産性の向上が挙げられているが、例えば、日本生産性本部「質を調整した日米サービス産業の労働生産性水準比較」(平成30(2018)1月26日)では「質を調整した日本の労働生産性は、運輸で米国の5割、卸売・小売や飲食・宿泊で4割の水準」との指摘もみられるなど、観光産業の労働生産性については、なかでも一層の向上が期待されていることがある。また、働き方改革の進展は仕事以外の時間として、いわゆる余暇時間を産み出すものと考えられるが、その代表的な使途として、旅行が注目されていることがある。
働き方改革は段階的に進展していくこととなっているが、いくつかの項目は既に導入から期間が経過したことで、効果が現れはじめていると考えられる。そこで当社では、観光産業の労働生産性向上、産み出された余暇時間の旅行への配分という2つの視点に基づいて、独自調査「働き方・休み方改革の観光への影響に関するアンケート」(令和元(2019)年10月実施)を行い、働き方改革によるわが国の旅行分野に対する寄与の状況を確認、整理した上で、より一層の効果を得るための提言を行うこととしたので、3回にわたってその結果を報告する。

1. 本調査における仮説設定の視点

前文で述べた通り、本調査では、観光産業の労働生産性向上、産み出された余暇時間の旅行への配分という2つの視点に基づいて、アンケート調査を設計している。

(1)観光産業における労働生産性の向上への期待の視点

働き方改革実行計画は、処遇改善、労働生産性向上、長時間労働の是正、柔軟な働き方の環境整備、多様な人材の活躍等、多彩な分野に言及している。大企業を対象とした時間外労働の上限規制のほか、年次有給休暇の時季指定取得の義務化をはじめ、平成31(2019)年度から本格的な取組が始まったところであるが、この後も働き方改革関連法が順次施行されることとなっている。このような働き方改革の進展によって労働時間の削減が想定されるが、これは労働生産性を算出する上での分母の数値を減少させることであり、一般には労働生産性の数値が上昇する効果が生じると考えられる。
そこで、観光産業従事者における昨年度と本年度での労働時間削減状況について、他産業従事者の削減状況と比較し、観光産業における働き方改革の効果の状況を確認することとした。

(2)余暇時間の増加に伴う旅行分野に対する経済効果への期待の視点

内閣府「平成29年度 年次経済財政報告」においては、働き方改革により期待される経済面の効果として「長時間労働の是正や柔軟な働き方の普及に伴う余暇時間の増加は娯楽等の消費活動を促進するといった消費行動への影響も想定される。」との指摘もみられる。
労働時間の減少が余暇時間の増加につながるかを確認するため、総務省統計局「社会生活基本調査」によって、昭和51年以降のわが国における労働時間(仕事と通勤・通学時間の合計)と余暇時間(3次活動1)の関係を分析したところ、労働時間が1時間減少することで、余暇時間がほぼ1時間増加する関係性が伺えた。

労働時間と余暇時間の関係

労働時間は「仕事」「通勤・通学」の合計値、余暇時間は「3次活動」の値とし、それぞれ、総数、週全体総平均時間の数値を用いた。
資料)総務省統計局「社会生活基本調査」(昭和51年~平成28年の5年おき9時点)より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

したがって、働き方改革の進展によって労働時間が減少すると、ほぼ同じだけの余暇時間が増加すると考えられ、それによって旅行へ配分される時間も増加し、ひいては旅行消費額の増加へつながることが期待できる。
一方で、残業時間の減少に伴う所得の減少を通じて、家計消費額全体の減少につながるため、結果としては旅行消費額も減少するのではないかという考えもある。その場合、余暇時間が増加しても旅行時間は増加せず、横ばいか減少することになると考えられることから、働き方改革の本格的な取組前後となる回答時点とその1年前の平成30(2018)年度で比較して、余暇時間および旅行時間の増加につながっているかを確認することとした。

2. 働き方改革による効果を一層享受するための方向性

働き方改革の進展は、観光産業の労働生産性を高めるとともに、一般消費者の労働時間を余暇時間、そして旅行時間へと変えていくことで、最終的には旅行消費の増大を促し、観光産業の発展に大きく寄与すると考えられる。ただし、観光産業がその効果を享受する上では、いくつかの課題も想定される。
まず、現時点では、働き方改革の取組が大企業を中心とした展開にとどまっていることから、全国的、全産業的な効果とはなっていないことがある。今後、働き方改革の取組は中小企業にも徐々に浸透していくことから、その効果の拡大程度や範囲を見通すことが必要である。
続いて、労働時間の短縮で産み出された余暇時間が同じであっても、1時間が5日分で5時間など細切れになっている場合と、休日に5時間などまとまっている場合では、それを旅行に配分するかどうかの判断は異なってくることがある。ここは、産み出された余暇時間を平日(主として労働する日)と休日(それ以外)に区分して、余暇時間の旅行時間への配分の意向について把握、確認することが必要である。
最後に、消費者が余暇時間を旅行時間に配分するには、自身の都合だけでなく、一緒に旅行する人の都合も重要である。その同行者による判断の寄与度についても把握することで、働き方改革によって産み出される旅行による経済効果を、観光産業が一層得ていくための方向性や、その程度について確認することが必要である。
これらの方向性をふまえた上で、次回の第2部では、世代や地域、企業規模や産業分野別等でアンケート回答結果を整理し、現時点までの働き方改革の結果、旅行分野への効果が多く生じていると考えられる世代区分、地域区分、企業区分、産業区分等を把握する。
最後の第3部では、本稿における仮説と、第2部での整理結果をふまえて、働き方改革による旅行分野へ生じる効果について、観光産業が享受する規模を、今後一層大きくしていくためにはどうすればよいのかを提言する。

(第1部了)


1 「社会生活基本調査」では、睡眠、食事など生理的に必要な活動を「1次活動」、仕事、家事など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動を「2次活動」、これら以外の活動で各人の自由時間における活動を「3次活動」と定義している。

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