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どうなる?取り調べへの弁護人立会い

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Japan In-depth編集部(坪井恵莉)

【まとめ】

・国際人権NGOが取調べへの弁護人立ち会いに関する勉強会を開催。

・取調べに弁護人が立ち会うことは国際的な常識にも関わらず日本では認められていない。

・現在、法務省の刷新会議で実現に向けた議論が進められている。

「ルノー・日産・三菱アライアンス」の元社長兼最高経営責任者、カルロス・ゴーン被告の勾留が108日に及んだことから、日本の刑事裁判手続きは国際的に「人質司法」だと批判されることとなった

保釈中の2019年12月に、関西空港からトルコ経由でレバノンに密出国したのには、日本のみならず世界中があっと驚いた。そのゴーン被告はレバノンでメディアを前に、とうとうと日本の司法制度を批判したのだ。

▲写真 カルロス・ゴーン被告 出典:Flickr;Adam Tinworth

大学3年生で法学部に在籍する私は当時、108日間の勾留が確かに長すぎると感じたが、長期間の勾留はさほど珍しいことではない。またゴーン氏は「口裏合わせを防ぐため家族と会うことを禁止された」「取調べに弁護士の立ち会いが認められなかった」と日本の司法制度を批判したが、それらは当然のことで、批判の対象にならないのではないかという感想を抱いていた。

しかし、取調べに弁護人を立ち会わせる権利は国際的には当然の権利として認識されていて、立ち会いを認めない日本の制度は極めて異例だという。

カルロス・ゴーン被告に関する問題や黒川前東京高検検事長の賭けマージャン問題を受けて、法務省は日本の司法制度への信頼回復を目的に今年7月から「法務・検察行政刷新会議」(以下、刷新会議)を諮問した。これは日本の制度を、国際水準に引き上げるチャンスでもある。

国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ「取調べへの弁護人立ち会い」を求める法律家の会は8月20日、27日13時に予定されている第三回刷新会議会合を前に、緊急・オンライン勉強会を開催した。「取調べへの弁護人立ち会い」を軸に、弁護士や専門家が刑事手続きの現状や問題点、そして今後のあり方について提言を行った。

■ 他国の刑事手続き制度との比較

まず弁護士の四宮啓氏「周庭氏が日本で逮捕されたら… 国際的座標で日本の被疑者・被告人の権利を考える」をタイトルに基調講演を行った。

今月10日、香港の民主活動家、周庭氏が国家安全維持法違反で逮捕されたことは記憶に新しい。周氏は逮捕後、自宅近くの警察署で弁護士立会いの下で取り調べを受け、12日の未明に保釈された。四宮氏は「これだけ重大な犯罪容疑で逮捕された人が弁護士立会いの下で取り調べを受け、かつ48時間以内に釈放されたことは驚きを禁じ得ない」と感想を述べた。

▲写真 周庭氏 出典:Flickr;inmediahk

では日本と司法手続きが異なるのか香港だけなのか。アメリカでは、身体を拘束して取調べを行い際には予め「弁護士の立ち会いを求める権利があること」など4項目を伝えない限り、取調べでの供述は裁判の証拠にはなり得ないとする憲法上の原則(ミランダ・ルール)が存在する。

EUは「刑事手続における弁護人に対するアクセス権および逮捕の際に連絡する権利に関する指令」(2013年)で弁護人が取調べに立ち会う権利を認めており、全加盟国で遵守が義務付けられているほか、台湾や韓国でも取調べでの弁護人立ち会いが認められている

日本の現在の刑事手続きは、国際機関から強い懸念を示されている。国連自由権規約委員会と拷問禁止委員会はぞれぞれ総括所見で取調べでの弁護人立ち会いが認められていないことに懸念を示している。

日本の刑事手続きが国際的に批判されたことを受けて法務省は、日本の刑事手続きへの国際的理解を得るための方策が必要だとしている。今日本に求められているのは制度への説明ではなく、国際的ルールに従った公正で透明な制度改革なのではないかと四宮氏は訴えた。


■ 日本の現状と実現に向けて

続いて弁護士の川崎拓也氏「日本での弁護人立ち合いの実現に向けて」というタイトルで基調講演を行い、弁護人立ち会いに関する日本の現状と取り組み、そして今後の期待について説明した。

日本では身体拘束(逮捕)されている事件、在宅事件(任意捜査)ともに立ち合いはほとんど認められていないのが現状だ。弁護士が立ち会いを求めても「立ち会いを認める規定は刑事訴訟法にない」などの理由で拒否されてしまう。

しかし、郵便不正事件を巡り長期間拘留された村木厚子氏が「取り調べというのは、リングでアマチュアのボクサーとプロのボクサーが上がって試合をする、レフェリーもいないしセコンドも付いていないという思いがした」と述べたように、取調べでは被疑者が圧倒的に不利な状況に置かれる。迎合的な性格の人や障がいのある人、外国人、少年などの「供述弱者」だけでなく、一般の人にとっても取調べ中に「プロのセコンド」が付くことの意義は大きい


弁護士会は取調べへの立ち会いを繰り返し求めている、やはり認められるケースは少ない。そういう場合は依頼者が好きな時に相談できるよう、弁護人が取調べ室のすぐ外で待機する「準立ち合い」を行うことで、依頼者の心理的負担の軽減に繋げている。

川崎氏は取調べを行う警察や検察が議論を避けたいと考えるのは当然だとして、実現のためには弁護人立ち会いを国民的議論に繋げ、国内の機運を高めることが不可欠だと述べた。

さらにグローバル化が進むなか、各国は自国民が外国で何かの事件に巻き込まれた際、その国でどのような扱いを受けるかに注意を向けている。仮に日本の刑事司法が時代遅れで野蛮だと判断されれば、グローバル人材獲得の障壁になる恐れもあると警鐘を鳴らした。

川崎氏は日本国民の人権保護、そして国際的な信頼獲得のためにも弁護人の立ち会いは実現する必要がある訴え、講演を締めくくった。


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