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減速する陽性者拡大から観察できること ~「日本モデル」vs.「西浦モデル2.0」の正念場(その6)

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 8月10日に「鈍化する陽性者拡大 ~ 日本モデル vs. 西浦モデル2.0の正念場⑤」という文章を書いた。http://agora-web.jp/archives/2047553.html  その後も新規陽性者数の鈍化現象は続いている。東京で見てみよう。

新規陽性者数

(7日間平均)

増加率

(前の7日間との比較)

8月11日~17日

258人

0.77

8月4日~8月10日

335人

0.99

7月28日~8月3日

338人

1.34

7月21日~27日

252人

1.15

7月14~20日

219人

1.30

7月7日~7月13日

168人

1.69


 これを日ごとの7日移動平均値をとったグラフで見るとこうなる。
https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ 



 東京の新規感染者数は、都道府県単位では常に日本全国で最大の割合を占めているだけでなく、先行指標としての意味もあるので、多くの人々が注目してきた。実際に、8月の全国の新規陽性者数の推移は、東京の動きを後追いする形で、鈍化の傾向を顕著に見せている。

https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

 私が「『日本モデル』vs.『西浦モデル2.0』の正念場」シリーズで検証してきていることを、あらためて確認しよう。

 4月半ばに「西浦モデル」は「42万人死ぬ」を派手に宣伝した。このときに前提としていた数値を修正したのが、5月に公表された「西浦モデル2.0」と呼ぶべきものである。基本再生産数や致死率のことは捨象しつつ、緊急事態宣言が解除されれば、3月下旬以降の新規陽性者数の拡大が再現されると予言したのが、「西浦モデル2.0」である。具体的な数値の計算は変更したとしても、「6~8割の人と人との接触の削減」がなければ新規陽性者数の増加は集団免疫の獲得まで止まることはない、というのが「西浦モデル」の大前提である。たとえば「2~3割程度の人と人との接触の削減」であれば、曲線がわずかに緩やかになるだけで、新規陽性者数の指数関数的拡大という傾向に対する変化はない。これがオリジナル「西浦モデル」から「西浦モデル2.0」を通じて一貫した前提であり、そもそもの「SIRモデル」の前提であった。 

 「日本モデル」が「西浦モデル」と対決するのは、二つの点においてである。第一に、「日本モデル」は、新規感染者数の拡大と新規重症者数の拡大は、一定の固定的な比率では進まない、と考える。なぜなら高齢者や基礎疾患保持者は重症化しやすいが、そうでなければむしろ無症状者のほうが圧倒的に多いといった新型コロナの特性を考えれば、同じ新規陽性者数の拡大の場合でも、その構成内容は異なってくるため、重症者数との関係は一定ではない。また、そもそも重症者の絶対数についても、医療体制との相関関係においてその深刻度を評価すべきと考える。

 7月以降の新規陽性者数の拡大の局面において、「日本モデル」は、その洞察の重要性を証明し続けた。新規陽性者の拡大ペースに反して、重症者数の増加を抑え込むことによって、医療崩壊を中心とした社会経済的なインパクトを抑え込むことにも成功した。

 第二に、「日本モデル」は新規陽性者数の「ゼロ」化を目指さない。「人と人との接触の8割削減」を通じた新型コロナウィルスの撲滅という主張とは異なり、「日本モデル」は新型コロナウィルス撲滅の不可能性を洞察する。そこで「日本モデル」が目標とするのは、新規陽性者数の拡大の緩やかな抑制であり、要するに医療崩壊を起こさない程度に押さえ込んだ重症者数の抑制である。そこで「日本モデル」は、「西浦モデル」が要請する画一的な「人と人との接触の削減」ではなく、「三密の回避」などを通じた大規模クラスター発生予防を中心にした現実的な感染拡大の抑制を目指す。

 8月になってからの新規陽性者数の拡大の鈍化の局面において、「日本モデル」は、その洞察の重要性を証明し続けた。「人と人との接触の〇割削減」を語ることなく、「三密の回避」などを中心にした大規模クラスター発生予防を中心にした取り組みによって、新規陽性者数の拡大の抑制に成功したのである。

5月3日に西村大臣が日本の政策の説明で用いた「ハンマーとダンス」の表現を用いると、「日本モデル」は、政策目標として掲げたとおり、ダンスの踊り方の形を模索している最中である。https://twitter.com/nishy03/status/1257303798516613124 

 「日本モデル」の現実に即した実績と、「西浦モデル」の抽象理論の予言の相違は、上記で示した現実の実績と抽象理論の予言のグラフの違いによって明らかであろう。

 これをふまえて、現時点で確認しうる観察を記しておきたい。

 第一に指摘できるのは、新規陽性者数の拡大は、極めて人間的な事情で増減し、「人と人との接触の削減」以外の方法で管理されうる、ということである。7月上旬をピークにした新規陽性者数の拡大は、7月においても鈍化の傾向を見せていたが、ただ4連休の期間においてのみ拡大を活性化させる傾向が生まれた。しかしそれでも新規陽性者数の拡大を抑え込みたいという国民の努力は、大きな傾向としては、7月~8月を通じて、着実な成果を見せてきている。

 つまり、「人と人との接触の削減」あるいは「緊急事態宣言」だけが、新規陽性者数の拡大を抑え込むための方法ではない、ということである。「三密の回避」などの「日本モデル」の地道な努力には、大きな意味があるのである。

また、国民意識が熟成するまえの早まった緊急事態宣言には、効果が乏しいだろう、と予測される。国民の危機意識があって初めて緊急事態宣言は機能するのであり、とにかく早め早めに実施すれば良い、ということではない。

 第二に、ウィルスの弱毒化や、集団免疫の成立を証明する要素は、確認できない、ということである。仮にそれらの要素が働いていたと仮定しても、統計的に有意な差を生み出したと言えるかどうかを争うだけで、大勢には影響がなかった。重症者は生まれる。新規陽性者数の拡大と重症者数の拡大が反比例することはない。ただ抑え込めるかどうかが、重要である。

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