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「ワクチン確保」の報を手放しでは喜べない理由

一時はどうなるかとおもった新型コロナ「第2波」も、常夏の大熱波には勝てなかったのか、ここにきて徐々に収束の兆しを見せつつある。

4月、5月の「第1波」騒動の時と同様、何か決定的な手を打ったわけでもないのに、何となく収まっていくところがいかにもこの国らしいし、ギリギリまで追い詰められていない分、乗り切った時の充実感も乏しく、結局、「第3波」「第4波」と繰り返すたびに同じような騒ぎがまた起きてしまうような気もするのだが、それでも最悪の事態を避けられているだけ良しとしなければバチが当たるに違いない・・・と思ってみたり。

で、そんな中、最近、話題になることが多いのが、「新型コロナウイルスワクチン」をめぐる争奪戦と、我らが日本政府がファイザーとアストラゼネカとの間で、いち早く大量のワクチンの購入の段取りを付けた、というニュース。

それだけ聞けば、手放しで喜んでもいいんじゃないか、と思ってしまいそうになるが、自分は7月末にファイザーから6,000万人分供給を受ける、という話を聞いた時から、ちょっと懐疑的なところはあったし、さらにアストラゼネカから1億2000万回分調達した、と聞いた時も、より嫌な予感しかしなかった。

そして、そんな予感をより強いものにしてしまったのが、今朝の日経朝刊トップに掲載された以下の記事。

「政府は新型コロナウイルスのワクチン(略)を使って健康被害が生じた場合、製薬会社の代わりに賠償する方針だ。ワクチンは各国間の獲得競争が激化しているため、海外メーカーが日本に供給しやすくする。次の国会に新法を提出して早期成立を目指す。」(日本経済新聞2020年8月20日付朝刊・第1面)

獲得競争で優位に立つため、製造者の責任を免除する、という手法の交渉戦術としての利点を否定するつもりはない。何といっても今は、世界中の国々がワクチンを虎視眈々と狙っており、いつ実用に耐えうる段階になるかも不確定な状況で”青田買い”に走っている状況なのだから。

ただ、こういう話を聞くと、自分はどうしても「原子炉」のことを思い出してしまう。

新しい課題を解決するために生み出された未成熟の技術には、どうしてもアクシデントが付き物である。公式にはどれだけ「安全です」と強調されても、必ず一つや二つは不幸な出来事が起きてしまうわけで、その時は必ず誰かが「責任」を負わなければならない*1、という現実がある。

原発事故に関しては、さらに進んで、国ではなく運営する電力会社が「異常に巨大な天災地変」でない限り責任を負う、というかなり異例の「責任集中」原則が採用されてしまったことが、現在でもまだ続いている様々な紛争を惹起する結果につながってしまっているのだが、仮に、今回のワクチンで国がすべての責任を負う、と腹を括ったとしても、当事者ではない者が紛争の矢面に立たされることにより、迅速かつ柔軟な解決が阻害される、という状況に変わりはない。

おそらく、新型コロナに対するこれまでの日本政府の一連のスタンスを見れば、「ニューノーマル」を「ノーマル」に戻すため、ワクチンを幅広く提供して”もう安心”というムードを演出しようという方向に動く可能性は決して否定できないのだけれど、それが新たな悲劇と社会紛争の種を蒔くことにならないのかどうか。

世界的にみれば、トップダウンで強引にことを進めているロシアや中国、そして米国の一部の州あたりがいち早く国民へのワクチン接種を開始し、それに欧州各国が追随する、という順番になるだろう。そして、日本国内でも、極端な経済優先主義者たちが「早くやれ!」と騒ぐのは目に見えているのだが・・・。

自分は、これまでの「マスク」とか「給付金」と同様、この話も焦らずゆっくり、で良いと思っているし、おそらく「急ぐな」などという無粋なお願いをしなくても、供給過程でのトラブルや実施方法をめぐる議論の混迷等で、一般国民が接種を受けられるようになるまでにはかなりの時間がかかることも容易に想像がつくところ。でもそれでよい。

”遅れる”ことで、先行して広範に接種した国での副作用情報を収集することも可能となるし、何より、ウイルスの再変異等による自然収束の可能性だって十分考えられる中で、「無駄な接種」を減らせるのならそれに越したことはない

気付けば新規の感染判明者が限りなくゼロに近いような段階になって、「ワクチン接種ができるようになります!」と官邸がどや顔で会見する、そして誰も受けに行かない・・・

マスク同様(というかそれ以上に)、高い買い物になってしまうかもしれないが、それでも新たな悲劇を生むよりは、その方がよほどマシである。

まぁ、自分の場合、インフルエンザワクチンすら、もう何年も接種していない(が、その間、幸いにも毎シーズンあの高熱悪寒とは無縁である)人間だから*2、仮に政府が極めて段取りよくことを進めたとしても、新型コロナワクチンを接種する、という選択をすることはないと思うのだけれど、自分さえ難を免れればそれでよい、という話でもないだけに、ここは条件交渉も含めて、極力慎重に、ゆっくりとことが進むことを願うばかりである。

*1:もちろんあらゆるリスクを潰すことを優先していたら、人体にかかわるような製品はいつまでたっても市場には出てこれないわけで、それが開発危険の抗弁のような話にもつながってくるわけだが、仮にワクチン接種により重篤な後遺症が生じる人々が多数出てきたような場合には、社会のムードが「誰も責任を負わない」という帰結を許さないのではないかと自分は想像している。

*2:5~6年前の接種後に、数週間腕がしびれで苦労させられたのと、その前後に「あんなもん、意味ないよ」という病院関係者の話を聞いたことで、わざわざリスクを冒してまで受けに行く、という意欲がすっかり失われてしまった。

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