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大学入学共通テストはデジタル化可能か?――フィンランドのデジタル大学入学資格試験からの示唆 - 高橋亜希子 / 教育学

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1.大学入学共通テスト:デジタル試験は可能か

新型コロナウイルスの流行により、現在、大学関係者は来年度の入学試験の実施の形態に頭を悩ませている。入学試験においては、多数の受験者が一か所に集まるため「三密」が避けられないためである。

「三密を避ける」という観点から、大学の授業では現在、パソコンを用いたオンライン授業が行われている。それでは、パソコンを用いるデジタル大学入試が実施できれば、一つの解決策となりうるだろうか。慶応義塾大学教授の土居丈朗は、昨年の2019年2月に「大学入試で『デジタル試験』導入は可能なのか」という論稿を記している(注1)。土居は、費用・コストの面から大学でのデジタル入学試験導入について否定的であり、「受験生を外界から遮断して他人の助けを借りられないようにして、本人の能力を問うことができる」「廉価で安定して実施できる(一斉に大人数の受験生を集めてデジタル入試を実施するには、デバイス購入のための巨額の投資が必要となる)」とペーパーテストの優位性を主張していた。

大学入試で「デジタル試験」導入は可能なのか—— 実は、2019年に大学入学資格試験(高校卒業試験)を完全にデジタル化した国がある。北欧の教育大国フィンランドである。

フィンランドの大学入学資格試験(高校卒業試験)は、高校卒業資格と大学入学資格を得るために必須の試験であり、毎年約4万人の高校生が受験する。この試験が2019年3月に完全デジタル化され、パソコンを用いた入試が行われている。国が問題作成を行う統一テストであること、大学に進学する多数の高校生が受験することから、日本の大学入試センター試験や大学入学共通テストに該当する試験である。多数の受験者を対象に安全性と信頼性が求められる統一試験を、どのようにデジタル化できたのだろうか。

他にも、フィンランドの大学入学資格試験の問題やその採点システムには、日本の大学入試の参考となる点がある。日本で今年度(2021年1月)から開始される大学入学共通テストにおいては、記述式問題の導入が延期になり、現在も検討中の状況が続いている。記述式問題の導入は、思考・判断・表現を問う高大接続改革の一つのキーであった。しかし、採点の信頼性・公正性の担保、民間業者による採点への不信などから、未だ今後の方向性は見えていない。フィンランドの大学入学資格試験の試験問題には多くの記述式問題が含まれている。デジタル試験において受験生はどのように記述式問題を回答しているのだろうか。そして、誰がどのような方法で採点を行い、信頼性を担保しているのだろうか。

筆者は2020年3月初旬にフィンランド教育庁においてカティ・ミッコラ氏(Prof. Kati Mikkola)から、デジタル入学試験について話を伺う機会を得た。ミッコラ氏は、大学入学資格試験問題作成委員会の第一副会長であり(理事長に次ぐNo.2である)、A1委員会(哲学、社会学、宗教、歴史、母国語などの問題作成に当たる)の委員長である。コロナ禍が迫る中の貴重な時間を割いて質問に丁寧に答えてくださった。ミッコラ氏との面会に関しては、岩竹美加子氏(ヘルシンキ大学非常勤教授)のご協力を頂いた。

ミッコラ氏は2001年から2006年にかけて、高校で宗教、哲学、心理学の教諭として働き、多くの教科書と教材を作成した。トゥルク大学で2010年に博士号を取得後、ヘルシンキ大学で研究員の職に就きながら、フィンランド教育庁のCounsellor of Educationという役職についている。宗教学を専攻しており、宗教の作問を行っている。

本稿ではミッコラ氏へのインタビュー内容、フィンランド教育庁のウェブサイトなどを基に、フィンランドの大学入学資格試験の内容と採点システムを紹介し、デジタル機器を用いた試験の方法、記述式問題の採点システムについて考察する。

2.フィンランドの大学入学資格試験(The Matriculation Examination)

フィンランドの高大接続は日本と異なり、高校の卒業資格を得ることが大学の入学資格となる(大学での個別試験も存在する)。そして、高校の卒業資格を得るには大学入学資格試験(高校卒業試験:The Matriculation Examination)に合格することが必須となっている。

大学入学資格試験は、年に2回(秋と春)、各高校を会場として実施される。少なくとも4つの必修科目を受験する必要がある(注2)。1つの科目の試験時間は6時間である。体育館が試験会場となることが多く、等間隔に離れて置かれた机で受験生が問題に解答する光景が、以前はよく見られた。

3.大学入学資格試験作成委員会(Matriculation Examination Board)

大学入学資格試験の問題を作成するのは大学入学資格試験作成委員会である。委員は国家教育委員会により3年間の任期で選ばれ、試験の科目の領域を代表する25人のメンバーにより構成される。(1)高等学校の学習内容について熟知していること、(2)教科の専門に対して非常に深い知識があることが条件となる(注3)。高校教員の経験があるミッコラ氏は上の2つの条件を兼ね備えている。そして、テスト項目と評価の作成を担当する補佐のメンバー(準委員)がおよそ400名選ばれる(この準委員には高校の現職教員であることが多い)。以上の委員、準委員は査察官として、問題の採点にもあたる。試験に関する技術的な準備は現在25名の公務員が秘書官としてあたっている。

受験者は毎年約4万人であり、一人の受験者が平均5科目の試験を受ける。40以上の科目の試験を年に2回実施する上に、試験問題のスウェーデン語への翻訳作業(スウェーデン語でも受験可能なため)、特別なニーズに対応した試験の作成などもあり、150種類の試験が毎年作成されている。

4.デジタル入学資格試験の導入経緯

デジタル入学資格試験は、2016年から2019年にかけて漸進的に導入された。導入に関する政府の検討が始まったのは2011年である。目的は、学力低下への対策ではなく、ICT化が進む職場環境(仕事の場でICTを使う割合80%弱)(注4)と学習環境のICT使用に乖離がある状況下で(学校でICTを使う割合20%弱)(注5)、職場と学校環境の連続性を高めるためであった。デジタル試験の導入には高等学校生徒連合会の強力なバックアップがあった。教員労働組合は、教師が実地研修を受け、適切なデバイスを手に入れることができるように支援した。2013年に試験作成委員会がタイムテーブルを決定し、2016年の秋試験から数科目ずつデジタル試験が導入されていった(注6)。

5.デジタル入学資格試験の実施方法:USBメモリースティックとパソコン

デジタル試験で使用されるのはUSBメモリースティックとパソコンである。パソコンは生徒の人数分の台数を高校側で準備する。生徒個人のパソコンを使用してもよい。問題作成委員会からは、生徒の人数分のメモリースティックが高校に送られてくる。メモリースティックにはLinuxによりプログラミングされた試験システムが入っている。(USBの使用方法は下掲の図6にも説明がある。)

暗号化された試験問題を校長がウェブサービスからメモリースティックにダウンロードする。そして、メモリースティックをパソコンに挿すと試験システムが起動する。求められるシステム要件は低く、通常で使用されているパソコンであれば試験システムは稼働できる。生徒はパソコン上で回答を入力する。試験システムの起動中はパソコンの通常のシステムにはアクセスできず、インターネット接続もできない。しかし、試験システムの中ではあらかじめ準備された表計算ソフトや数式を入力するツールを使用することができる。

図1 以前の大学入学資格試験(2015年3月) (注7)

図2 現在の大学入学資格試験 (注8)

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