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空襲と火事とは違う

 終戦日の前後に、ひとしきり空襲の記憶が語られるのも散見した。当時の私が国民学校(小学校)6年生だから、記憶に残している経験者は、ほぼ80歳以上になっていると見ていいだろう。これから「語り部」は加速度的に減少して行くことになる。
 私も出身の小学校で話をさせて貰ったことがあるが、自分の家を焼かれるということの怖さが、火事の怖さとは本質的に違うということを実感させるのは、難しいことだと感じた。あれは本当に、経験しなかった者には、わからない。
 私は飛行機を見るのは好きで、羽田へ着陸の「都心コース」が出来てからは、時々屋上へ出て飛行機の飛び方を見ている。大半はやや右手(東側)の中野駅上空あたりを通るのだが、一部は西北の方向から来て、わが家の真上を通ることもある。軽い爆音を残して双発のジェット機が通過するのだが、それを見ていて、妙に緊張する特異点があるのに気がついた。つまり、「ここで投弾されたら命中弾がくる」位置関係なのだ。そしてそれは同時に「撃墜するなら今だ」という感覚と連動している。手元に武器はなくても、口先だけでも撃ちたかったのだ。
 空襲と火事との決定的な違いは、「敵が悪意をもって攻めてくる」実感である。敵機への憎悪も、そこから生まれる。たまに火を吹いて編隊から遅れ、やがて火だるまになって落ちていくB29を見るのは、何よりの快感だった。その中に10人もの乗員がいて、それぞれに家族がいることなどは、考えているヒマもない。
 まことに、戦争は人の価値観を逆転させる。互いに人を殺し、焼き、破壊することが「戦果」として讃えられるのだ。
 軽やかに飛んでいく双発機の中では、CAさんが「間もなく着陸でございます。シートベルトを、いま一度お確かめください」などとアナウンスしていることだろう。機内のだれも、もう戦争をしようなどとは思っていない。それだからいいのだ。 

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