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橋下徹「僕が自民党高村さんの見解に断固反対する理由」

新型コロナ感染症対策では、多くの飲食業やイベント関連の事業者が自治体の要請で休業を余儀なくされた。公的補償が必要かどうかの議論で一部の政治家や憲法学者は「受忍限度の範囲内」と切り捨てるが、それでいいのか。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(8月18日配信)から抜粋記事をお届けします。

■コロナ休業要請に「補償は不要」という見解には断固反対

2020年8月11日付の読売新聞に自民党憲法改正推進本部最高顧問の高村正彦さんの主張記事が掲載されていた。

COVID-19の影響を受ける中小企業の経営者
※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/RichLegg

要旨は、コロナ感染拡大を止めるために行う事業者に対する自治体の休業要請については憲法29条3項に基づく補償は不要である、とのこと。それは客観的に感染リスクが認められる事業主への休業要請であり、憲法で定めた公共の福祉の範囲内の制約で、事業者側から言えば「受忍限度の範囲内」と捉えるべきではないかという考えだ。

2020年7月26日の朝日新聞にも、憲法学者長谷部恭男氏(早稲田大学教授)の同様の見解が掲載されていた。

これの見解には断固反対する。

まず、「客観的な感染リスク」というが、感染症の発生は誰に責任があるのかを明確にすることはできない。言ってしまえば誰にも責任がないともいえる。どれだけ対策を講じていたとしても感染が発生する場合があるのだから。

巷では食中毒の発生と同一視する見解もあるが、食中毒は必要な対策を講じれば必ず防ぐことができる。ゆえに食中毒を発生させた場合には、そのことをもって責任を追及できる。しかし感染症の発生は、事業者側がどれだけ対策を講じようとも完璧に防ぐことができないので、発生したことをもって直ちに責任を問うことはできないと思う。ここが食中毒と感染症の違いだ。

(略)

そもそもこのような考えは、感染拡大を抑えるための「知事の行動」について無理解極まりない。

感染拡大を抑えるためには、実際に感染が発生した店だけを休業させるだけでは不十分だ。実際の感染が発生した店が所在する「一定の地域の」特定業種の事業者について、感染が発生していようが発生していまいが、対策を講じていようが講じていまいが、ピンポイントに一律に休業させることが感染拡大抑止の大原則である。

今は、知事がこのような行動をとることのできる法律の根拠がないので、だからこそただちに新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)の改正が必要だと考える。国会議員は優雅に夏休みなんかとらずに、臨時国会を開けっていうの!!

このように、実際に感染を発生させていない事業者に、またしっかりと対策を講じている事業者に対しても、感染拡大を抑えるために休業させるのであれば、ここに補償が必要なのは当然だ。

(略)

休業要請に補償は不要だという人たちの主張を聞くと、8月15日のNHKスペシャル「忘れられた戦後補償」の番組内で、国民の悲痛な叫び声を受け止めることのできなかった官僚たちが、民間人への戦後補償を切り捨てたことと、完全に重なり合う。

日本という国は、軍人・軍属・その遺族に対しては、きちんと補償(恩給)を支払った(現在も支払っている)。しかし民間人に対しては、戦争の被害というものは国民全体で我慢するものだ(受忍するものだ)という理屈になっている。

まさに先の高村さんの「休業要請を受けた事業者は受忍限度の範囲内」という言葉と全く同じなんだよね。

■民間人に戦争被害の補償をしなかった日本

軍人・軍属・その遺族には我慢させない。

NHKスペシャルを見る限りは、軍人・軍属・その遺族に戦後補償がなされたのは、単にそれらの利益を主張する政治家・官僚の政治力によるものだった。

補償を民間人一般にまで広げてしまえば、「パンドラの箱を開けてしまう」「財政がもたない」「補償に際限がなくなる」……。このような主張を、当時の官僚たちが口を揃えて言う。

そしてその官僚たちは、どうみても戦後、安定した暮らしを送ることができている。

民間人への補償問題は大きな議論となったようだが、結局、民間人一般の補償は認めないという結論になり、被爆者、シベリア抑留者、沖縄戦戦没者などの一定の者に対して、例外的に限定的な救済措置がとられることになっただけだった。そしてこれらは補償ではなく、あくまでも救済措置という体裁にこだわった。

安定した暮らしを送っている官僚たちに、地獄を見た者の気持ちなどはわかるはずがない。

だからこそ、ここに政治の役割がある。

(略)

民間人への補償をどうするかという「政治」判断は政治家がしっかりと行い、その判断に基づいて政治家が「法律」を作らなければならないのだ。その法律を官僚がしっかりと執行し、裁判官が解釈をする。

もし国民全体が戦争被害を我慢しなければならないというのであれば、民間人だけではなく、軍人・軍属・その遺族に対しても補償をしてはいけない。

日本の政治家は何をやっている!! 官僚たちの主張に従うのではなく、国民・国家のことを考えてしっかりと政治判断をしろ!! 軍人・軍属・その遺族と一般国民の間の不公平についてどう考えているのか!!

(略)

今からでも遅くはない。まず戦後補償が行われてこなかった民間人に補償を追加し、今後有事によって被害を受けた民間人にもきっちりと補償が行われる戦争被害補償法制をしっかりと整備すべきだ。世界の先進国ではこのような法制度はきちんと整備されている。放ったらかしなのは日本だけだ。情けない!!

■一部の人に人為的な犠牲を求める以上、休業要請に補償は必要

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

戦後補償の話は、コロナ禍における休業補償の話とシンクロする。

コロナ禍における休業要請は、地震・火災・水害などの自然災害や単純な不景気による休業とは異なる。政治が、社会防衛のために人為的に権力を用いて、特定の事業者に対して休業を要請するものだ。

自然災害や単純な不景気による休業は、政治の責任とは一概には言えない。政治が一定の救済措置を講じることはあっても、原則その現実を国民は受け入れざるを得ない。何から何まで国に補償を求めることはできないだろう。

しかし大多数の国民の安全を守るという社会防衛のために、権力からの要請で一部の人たちが休業させられるというのは、明らかに人為的な犠牲というものにほかならない。ここに補償が不要だと言うのであれば、民間人への戦後補償は不要だと言い切った官僚たちの発想と全く同じだ。

(略)

繰り返し言うが、感染拡大を抑止するためには、感染が発生したか発生していないか、対策を講じたか講じていないかを問わず、一定の地域の一定の業種の営業をピンポイントで止める必要がある。このような営業停止権限の武器を知事に渡すことこそが、コロナ対応の重要な柱であり、特措法の最大の改正ポイントだ。

(略)

(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約1万200字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.212(8月18日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【コロナ休業と戦後補償】一部の人に犠牲を求めるのに補償は不要? 政治家や学者の見解はここが間違っている!》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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