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不利な取り扱いを受けた分だけ「最後のセーフティネット」にかかる人は増えるのです

外国人受給世帯4万世帯超 22年に最多更新(産経新聞)

 今年度の生活保護費が当初予算で3兆7000億円に達し、不正受給に対する厳罰化など給付適正化の議論が進む中、生活保護を受けている外国人の世帯が4万世帯を超え、過去最多を更新したとみられることが30日、厚生労働省への取材で分かった。日本に永住、在留する外国人の数は横ばい傾向だが、新たに生活保護を受ける外国人世帯は増加している。

 厚労省によると、平成22年7月現在、外国人の生活保護受給世帯は4万29世帯で、前年同期約5000世帯増加した。昭和32年から始まった世帯別の統計では、41〜61年は外国人の統計が残っていないものの、外国人受給者の推移などから、これまでに4万世帯を上回ったことはないと推定され、22年に過去最多を更新したとみられる。外国人が世帯主の受給者数は6万8965人(22年平均)だった。

 法務省の統計では、日本に永住、在留する外国人は215万人前後でほぼ横ばいで推移。平成17年から20年までは年約1000世帯のペースで受給世帯が増加していたが、21年に前年同期比約4000世帯増。近年は特に増加傾向が加速している。

 国籍別では、韓国・朝鮮人(2万7035世帯)が全体の3分の2を占め、次いでフィリピン人(4234世帯)、中国人(4018世帯)と続いた。

 

 基本的に生活保護に関する報道は、生活保護「受給者」への偏見を煽るものと読む前から判断して間違いがありません。生活保護受給者を不正な受益者であるかのごとく描き出すことによって社会保障の不備から道徳論へと問題をすり替える、という点では政府も報道機関もしっかり歩調を合わせており、国民からもその方向性は強く支持されていると言えるでしょうか。統計上はほとんど意味のないごく僅かな「不正」受給を大きくクローズアップするなど、積極的に誤解を広めようとする記事はメディアの「お客様」たる読者/視聴者からも多いに需要のあるところで、ある意味では上手く行っているのかも知れませんね。

 さて今回の報道によると、外国人生活保護世帯の増加傾向が加速しているそうです。では実際に統計を見た場合にはどうなるのでしょうか? 2010年7月の段階で外国人の生活保護世帯は「40,029」と伝えられています。ちなみに2006年の段階では外国人の生活保護世帯は「29,336」でした。その当時「外国人の受給世帯が10年前の1.7倍に急増!」と伝えられたものです。実は同じ10年間で日本人の生活保護受給世帯もまた1.7倍に増加しています。「外国人の生活保護受給世帯数は、日本人のそれと同じペースで増加している」というのが理解として正しいわけです。しかし、この比較対象となるべき増加分が報道されることはありませんでした。誰でも調べればわかること、別に情報が隠蔽されているようなこともないのですけれど……

参考、日本人の生活保護世帯も1.7倍増だよ?

 では2006年から2010年までの4年間、外国人とそうでない人の受給世帯数の推移はどれほどのものでしょうか。外国人の受給世帯は「29,336」から「40,029」へと増加しました。では日本人は? 2006年7月の時点で日本「全体」の受給世帯数は「1,068,523(外国人分を引けば「1,039,187」)」、そして2010年7月の日本「全体」の受給世帯数は「1,389,749(外国人分を引くと「1,349,720」)」です。どちらも、約1.3倍に増加していることが分かります。ここから導かれる結論は2006年の時と同様、「外国人の生活保護受給世帯数は、日本人のそれと同じペースで増加している」というものです。

 なお国籍別では韓国/朝鮮籍が27,035世帯と全体の3分の2を占め、フィリピン人4,234世帯、中国人4,018世帯と続くことが伝えられています。日本の生活保護とは専ら、(理念はともかく実際の運用として)十分な年金をもらえない高齢者と疾病や障害を抱えている人が受け取るものです。そして日本在住の外国人は年代が上がるほど韓国/朝鮮籍の比率が増加、60歳以上に限れば3分の2を超えます。日本で高齢を迎える外国人の大半が韓国/朝鮮籍であることを鑑みれば、その生活保護世帯が外国人受給世帯の3分の2を占めるのも至って当然のことです。そして中国人受給世帯がそれなりに多いことも在住者の数を考慮すれば当たり前の結果と言えます。

 一方で中国や韓国、朝鮮籍に比べれば在住者が少なく、それほど高齢化が進んではいないはずのフィリピン国籍の受給世帯は、中国籍のそれを僅かながらも上回っているわけです。母数となる在住者が多い中国籍、在住者が多いだけではなく高齢化が顕著な韓国/朝鮮籍の受給世帯が増えるのは必然なのですが、そこまで在住者が多くもなければ高齢化してもいないフィリピン人の受給世帯の多さは何故なのでしょうか?

 日本で登録されているフィリピン人の統計上の特徴は、極端な女性比率の高さにあります。日本に在住するフィリピン人男性は2010年度で「46,216人」、対してフィリピン人女性は「163,965人 」です。2010年度の外国人登録者の総数は男性が「972,481人」、女性が「1,161,670人」と極端な差がないのに対し、フィリピン国籍者に限れば女性が男性の4倍ほどと、大いに性別が偏っているわけです(なお来日するのが女性に偏る傾向は東欧諸国でも見られます。私の大学院の先輩で、何とかロシア語を活かせる仕事を見つけようと頑張った結果、「外国人芸能人招聘業」に就いた人がいますが……)。

 ともあれフィリピン人の生活保護世帯が多い要因は、この顕著な女性比率の高さにあるのではと推測されます。一時的な仕事、若い間だけの仕事を探すならばむしろ女性の方が有利なところもあるかも知れませんけれど、長く働ける仕事、とりわけ日本人なら年金を受給できるはずの年齢まで働ける仕事となると、なんだかんだいって女性は不利です。日本の職場における女性の地位の低さが、女性比率が高いフィリピン人の生活保護受給世帯を増やすことにも繋がっているのではないでしょうか。元より生活保護は、そこに至るまでのセーフティネットの不備の帰結です。雇用が安定していないから、失業者や高齢者への社会保障が機能していないから、諸々の差別的取り扱いを受けるから、だから最後の砦である生活保護へと縋り付く人が増えるのです。にも関わらず生活保護受給者を悪玉視するなどの道徳論で問題に向き合うことを避けている限り、生活保護を必要とする人を減らすことはできないでしょう。外国人の生活保護受給世帯を減らしたいのなら(同じペースで増加する日本人の保護世帯の場合も然り)、生活保護になる「前」の段階で差別的な取り扱いを減らし、生活を保障してやらなければならないのです。

 

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