記事

死屍累々の自動車業界で、なぜトヨタだけは黒字を計上できたのか

1/2

新型コロナウイルスの影響で自動車各社は大幅な赤字に転落した。その一方、トヨタ自動車は2020年4~6月期連結決算で1588億円の最終利益を計上した。なぜトヨタだけが赤字を免れることができたのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉氏は「これこそがトヨタの危機管理だ」という——。

2020年3月期連結決算の記者会見に臨むトヨタ自動車の豊田章男社長=2020年5月12日[トヨタ自動車のホームページより] 写真=時事通信フォト

売れ行きが落ちた「3+1」の原因

新型コロナウイルスの蔓延で、さまざまな業種、多くの企業の売れ行きが落ちた。原因は3つプラスひとつと言えるのではないか。

①工場や事務所の閉鎖による業務の停滞。
②原料、部品などのサプライチェーンが途切れ、生産に支障をきたした。
③商品の供給が追い付かなくなったこともあり、販売店は休止し、結果として販売機会がなくなった。

この3つに加えたプラスワンとは環境変化により、商品の魅力が減じたことだ。たとえば、飲食店、宿泊業、土産物店がそれにあたる。商品はあるのだけれど、感染を恐れた人たちは足を運ばなくなった。テーマパーク、映画、演劇、ライブコンサートといったエンターテインメントも環境変化により販売機会が急減している。

そして、シェアリングビジネスも環境変化の影響を大きく受けた。急成長していたカーシェアリングだったが、コロナ以後、「やっぱりプライベートカーがいい」と自分と家族のための車を買うようになったユーザーの姿が目立つという。

競合が大赤字を出す中、異例の黒字

各国の経済に影響を与えるすそ野の広い産業、自動車産業もまた打撃を受けた。2020年の4月から6月期において、ほぼすべての自動車メーカーは巨額の赤字となっている。

日産は2855億円の赤字だ。ダイムラーは2461億円、フォルクスワーゲンが1976億円、FCA(フィアット、クライスラー)も1277億円の赤字だ。ホンダは808億円でGMも796億円という大きな赤字となった。

ところが、ただ1社、同じ期にトヨタだけは1588億円の黒字を達成した。

フォルクスワーゲンにしろ、日産、ホンダにしろ、歴史のある国際的な大企業だ。入社した人間の能力がトヨタの人間と大きく違うとは考えにくい。

「じゃあ、何が違うんだ。トヨタは他社よりどこが優れているんだ?」

答えは、危機管理であり、危機への対処だ。新型コロナの蔓延という危機に際して、トヨタは適確(てきかく)に対応した。それに尽きる。元々トヨタには危機管理のノウハウ、危機へ対処するための知恵と体質があった。それがうまく機能したのである。

今までにない「複合危機」にどう対処したか

この9月から、わたしはプレジデントオンラインで、トヨタが危機に際して、どういった行動をとったかを詳細にリポートする。このリポートを読めばどこの会社の人間であれ、危機管理ができるようになるはずだ。会社を筋肉質に変え、売り上げを落とすことのない体質に作りかえることができるだろう。

タイトルは「トヨタの危機管理」。

わたしが本企画の取材を始めたのは中国・武漢が都市閉鎖された2020年1月23日だった。当初、その時期にわたしは広州のトヨタ工場を訪ねる予定にしていた。しかし、飛行機も飛ばなくなり、出張は断念した。だが、その時、トヨタは対策本部を立ち上げて、危機管理を始めていた。一報を聞いたわたしは、急遽、取材先を変えた。危機の時にトヨタが何をするのかを探求することにしたのである。

わたしはトヨタが震災やリーマン・ショックに際して危機管理を行ったことを知っていた。毎年やってくるようになった「50年に一度の」台風でも、迅速に対処していることも見ていた。

「彼らは新型コロナのような新しい形の複合危機にはどうやって、対処するのだろうか」

それを知るために、緊急事態宣言(4月7日から5月25日)が出るまでと解除された後、愛知県豊田市の本社をはじめとする各地で取材をした。ただし、本格的な取材は緊急事態宣言が解除され、都道府県間の移動が自由になった6月19日からだ。ソーシャルディスタンスを取りながら、マスクを着けて、社員に肉薄した結果が本企画、「トヨタの危機管理」である。

平時から体質改善を続けている

トヨタの危機管理にはいくつもの特徴がある。詳しくは連載のなかで紹介していくが、もっとも特徴的なのは、危機管理には平時の行いが反映されること。普段から危機に備えておけば、いざという時にあわてることはない。危機に直面した時にだけ泥縄式にやるのが危機管理ではない。

トヨタは平時からつねに体質改善を続けている。原価の低減と生産性の向上が習慣になっている。

こう書くと、「勤勉が第一」とか「毎日の勉強が成績向上の近道」みたいな優等生的、小市民的、教科書通りの道徳発言のように受け取られてしまうかもしれない。しかし、トヨタの経営者や危機管理チームの考え方は優等生的でも小市民的でもない。「仕事は楽しんでやらなければ身につかない」と信じている。

トヨタ自動車の河合満氏。名刺には“おやじ”のみ記している 撮影=プレジデントオンライン編集部

同社執行役員で「おやじ」の河合満は言う。

「楽をするためにカイゼンを考えればいい。そうすれば、毎日、カイゼンの知恵が出る。どちらかといえば横着なやつの方がカイゼンには向いているんだ」

「おやじ」が明かすリーマン・ショックの苦い教訓

念のために説明しておく、「おやじ」とは正式な肩書だ。居酒屋でくだをまいている、ただのおやじのことではない。河合の「おやじ」は生産現場を統括するリーダーという意味である。正式な肩書であり、彼はトヨタのチーフ・モノづくり・オフィサーでもある。

その河合が部下たちに伝えているカイゼンとは「めんどくさいなと思ったことを楽にやれる方法を考えろ」だ。

たとえば、テレビのリモコンだ。昭和の昔、テレビのチャンネルを変える時は本体についているチャンネルスイッチをがちゃがちゃと動かしていた。寝転がってテレビを見たい人間にとっては、チャンネルを変えるためにいちいち起き上がるのは大変な苦痛だったのである。リモコンができた結果、誰でも寝っ転がったまま、姿勢を変えずにチャンネルを変えることができるようになった。

河合はそんなことを考えればいいんだと言っている。

撮影=プレジデントオンライン編集部

「今回、新型コロナの危機管理がまあまあうまくいったのは、日ごろから筋肉質な組織にするためのカイゼンを行ってきたからだ。それに尽きる。2008年リーマン・ショックの時、売れ行きが落ちて在庫が膨らんだ。あの時、管理職は大変だ、大変だと騒いでいた。騒いでいたけれど、誰も現場へ出ようとしなかった。パソコンの前にかじりついて離れなかった。僕は現場の部長で、現場につきっきりだったから、よく覚えている」

危機の時、経営者は怒っちゃだめだ

「ところが、今回は大変だ、大変だと騒ぐ連中はいなかった。経営陣はにこにこして、ひとことも怒らなかった。社長も番頭の小林さんも怒らなかった。ただし、ふたりとも平時にはキツイこと言ってるけどね。危機の時、経営者は怒っちゃだめだ。デーンと構えて、いつもと同じことをする。現場が自主的に考えて行動しないと危機を乗り切ることなんかできない。今回、僕は若い連中から、『おやじ、現場に来ないで、休んでろ』って言われたんだよ」

撮影=プレジデントオンライン編集部

確かに、トヨタは筋肉質になっている。

リーマン・ショックの直後、生産台数は15パーセント減り、4000億円を超える赤字となった。新型コロナ危機では、生産台数が約20パーセント減ったにもかかわらず、通期では7300億円の黒字になると見込んでいる。河合が言うとおり、11年間、カイゼンしてきたことが実を結んだと言える。

あわせて読みたい

「トヨタ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    靖国参拝は「韓国への迎合不要」

    深谷隆司

  2. 2

    「酷くなる」望月氏が菅政権危惧

    たかまつなな

  3. 3

    「半沢直樹」描かれる銀行の今昔

    大関暁夫

  4. 4

    半沢の元ネタ 大臣は前原誠司氏

    SmartFLASH

  5. 5

    深夜の出迎えに河野氏「ヤメレ」

    女性自身

  6. 6

    菅首相は本当に叩き上げ苦労人か

    NEWSポストセブン

  7. 7

    児嶋一哉 半沢俳優陣はバケもん

    マイナビニュース

  8. 8

    宗男氏 野党の新内閣批判に反論

    鈴木宗男

  9. 9

    正恩氏の動向を報道中に北で停電

    高英起

  10. 10

    マスクで重症化予防説 医師解説

    中村ゆきつぐ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。