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【読書感想】ルポ 百田尚樹現象 ~愛国ポピュリズムの現在地~

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ルポ 百田尚樹現象: 愛国ポピュリズムの現在地

ルポ 百田尚樹現象: 愛国ポピュリズムの現在地

  • 作者:諭, 石戸
  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: 単行本


Kindle版もあります。

ルポ 百田尚樹現象 ~愛国ポピュリズムの現在地~

ルポ 百田尚樹現象 ~愛国ポピュリズムの現在地~

  • 作者:石戸諭
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: Kindle版

保守の星は"ヒーロー"か"ぺてん師"か。見城徹、花田紀凱、小林よしのり、西尾幹二、藤岡信勝らが実名証言。「ニューズウィーク日本版」大反響特集に大幅加筆。本人独占インタビュー5時間半。本人が初めて語った「百田尚樹現象」の"本質"とは?

 百田尚樹さんという作家は、「作家」という枠組みをこえて、「日本の右傾化」や「嫌韓・嫌中の象徴」のようにみられているのです。

 Twitterなどでは、炎上してしまうような「右翼的発言(というか、左翼批判)」も少なからずみられていますし、大ベストセラーとなった『日本国記』では、記述に歴史的事実との違いがあるにもかかわらず、修正や正誤表の添付に応じない、といった問題もあります。

 やしきたかじんさんについて書いた『殉愛』では、争っている片方からの取材で、偏った(誤った)記述が多々見られるということで裁判で敗訴しています。

 ただ、僕自身はこれまで百田さんの小説を読んできて、作家としては、駄作もあるけれど素晴らしい作品もあるし、本人のキャラクターによって、作品まで歪められて解釈されがちだとも感じているのです。

『永遠の0』は、「右傾化エンタメ」ではなくて、少なくともあの時代の日本軍の上層部に対しては批判的な内容だとも思いますし。

fujipon.hatenadiary.com

 この『ルポ 百田尚樹現象』では、日本の作家としては珍しく「右派の論客」としての影響力を「持ってしまった」百田尚樹という作家について、本人や関係者へのインタビューもまじえて詳しく分析されているのです。

 読んだ感想としては、せっかく百田尚樹さん本人や見城徹さん、小林よしのりさんといった、こういうインタビューを受けているのを見かけない人たちに取材しているのだから、彼らの話を、断片的なものではなくて、もっとちゃんと収録してほしかった、というのはあるんですよ。

 この取材が実現したのは、著者の真摯な努力と『ニューズウィーク日本版』の力であり、インタビューの内容は『ニューズウィーク』のほうに掲載されているのかもしれませんが、「百田尚樹さんに5時間半も独占インタビューして、使っているのは、これだけ?」という印象は否めませんでした。

 それに、タイトルの割には、後半は、ほとんど「百田尚樹前」の話で、小林よしのりさんの『戦争論』のインパクトや「新しい歴史教科書をつくる会」の話なんですよね。

 1990年代半ばからの「自虐史観」とされるものを克服しようという運動、そして新しい歴史教科書をつくる会』の活動は「今まで、左翼側にしか市場はないと考えられていた」出版会・言論の世界に、「右翼側でも売れる下地がある」ことを証明することになりました。

 著者は、その活動と「百田尚樹現象」には、地続きのところもあれば、断絶している面もある、と考えているようです。

 ただ、いち読者としては、百田尚樹さんのことを読みにきたのに、百田さん以前の歴史を延々と読まされてしまった、という感じもするんですよね。

 僕は『戦争論』を20代半ばで読んで、これまでの「太平洋戦争で、日本は欲望にかられて侵略戦争をし、多くの人々を苦しめた」という歴史観を見直した記憶があるので、あらためて小林よしのりさんが、あのときの話をされていたのは、とても興味深くはあったのですが。

 小林さんが「情の人」っていうのはまさにその通りで、その「情」が強いあまりに、一度会って好きになってしまった人には過剰なくらいの思い入れや支援をするし、逆に一度嫌いになってしまうと徹底的に悪く描いてしまうような気がします。

 AKB48のメンバーへの肩入れなどは、「かわいい女の子にデレデレしちゃってさ……」くらいのものなのですが、山尾志桜里さんへの入れ込みなどは「小林さんって、けっこう人を信じやすいタイプなのかな……」と思うのです。

 薬害エイズ事件で活動していた若者たちが、左派系の組織に取り込まれ、「運動のための運動」をするようになってきたのをみて、『ゴーマニズム宣言』に「日常に戻れ」と描いていたのもすごく印象に残っています。

 ああ、僕も「百田尚樹現象」の本の感想を書くはずだったのに、小林よしのりさんの話ばかり書いてしまった……とりあえず、当時の「よしりん」には、そのくらいの影響力があったんですよ。

 百田尚樹さんへのインタビューのなかに、こんな話が出てきます。

 印象に残っているのは、百田自身も大絶賛したデビュー作『永遠の0』の映画版について聞いた時のことだ。映画の肝心なシーンで、日頃から百田、そして右派がこだわって使う「大東亜戦争」ではなく、「太平洋戦争」という言葉が平然と使われている。

 なぜ、これだけ歴史観を主張していながら「太平洋戦争」を受け入れたのか。しかも、右派が批判の対象とする朝日新聞も製作委員会に名前を連ねている。思想にこだわりを持つのならば、拒否する選択もあったはずだ。

「朝日が入っていても嫌ではなかったです。『大東亜戦争』にしてほしいという気持ちはありましたが、映画は何億円もかけて、多くの人が関わるビジネスです。自分がお金を出しているわけではないのです。

『大東亜戦争』という言葉を使うことで拒否感を持つような方もおられますので、こだわりがマイナスになります。用語はもちろん大事ですが、多くの観客にとってはどうでもいいことです。たかだか用語一つでこの映画を見てみらえないことのほうが嫌でした。一人でも多くの人に見てほしかったですね。

 僕は細かいことを気にしないんですよ。大事なのは本質でね。コアな部分を見てもらうことが大事なのです。僕は『大東亜戦争』と常に使いますが、『太平洋戦争』と呼ぶ人がいたところで、大きな声で間違っているという気はないんですよ。映画は娯楽なんです。本質はあの戦争をどう考えていくかでしょう」

 この発言には、内心かなり驚いた。右派言論をリードしている「論客」だと思っていた人物が、柔らかい大阪弁であっさりと「作家」としての正論を述べる。しかも大事なはずだと私が勝手に思っていた先の戦争の呼称と「たかだか用語一つ」といい、映画館に足を運んでもらうことばかりに気を配るのだ。

 ツイッターの言動から攻撃的な人物を想像していた私は正直、面食らっていた。印象は決して悪くなかった。百田はたった一人でやって来て、どんな質問にもすべて答えた。

 待ち合わせ場所に指定されたホテルに迎えにいき、タクシーに乗り込んだ時は、さすがに緊張していた様子で口数は少なかったが、一度話し出すともう止まらなかった。

 一人称は「私」か「僕」で、横柄な態度は一切なく、冗談を連発し、常に笑いを取ろうとする姿は善良な「大阪のおっちゃん」そのものだった。事実、取材に同行した編集者やフォトグラファーは何度も笑わされることになった。

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