記事
  • WEDGE Infinity
  • 2020年08月31日 12:16 (配信日時 08月13日 06:00)

新型コロナウイルスの感染拡大はテロを拡大させるか? - 和田大樹 (オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師)

1/2

(maurusone/gettyimages)

新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るい始め半年が過ぎたが、日本を含め世界各国では感染者と犠牲者が依然として増加している。そして、それも影響して米中対立がいっそう深まるだけでなく、香港国家安全維持法や南シナ海・東シナ海での海洋覇権、中印国境での軍事衝突など、中国と日本やオーストラリア、英国やインドなどとの間でも緊張が高まっている。

「自由で開かれたインド太平洋」構想には協力的な側面と競争的な側面があるが、今回の問題によってそれは競争的な側面が明らかに強くなっている。オーストラリアやインドは、これまで以上に中国への態度を硬化させている。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は国家間対立を深めるだけでなく、テロ情勢の行方にどう影響を与えるかということにも懸念が拡がっている。

テロ対策専門家の間では、新型コロナウイルスの感染拡大による社会混乱に乗じて、テロ組織が治安当局や市民を狙ったテロ攻撃を活発化させる懸念の声が聞かれる。しかし、現在のところ、新型コロナウイルスの感染拡大によって各国でテロ事件が急激に増加しているわけではない。

例えば、イラクでは今年4月から5月にかけてテロ事件が増加したが、それ以降は減少し、今年1月から2月の水準に戻っている。アフリカでもブルキナファソを中心とするサハラ地域やモザンビークなどで、アルカイダやイスラム国を支持するイスラム過激派によるテロ事件が増加しているが、それはここ数年の傾向であり、新型コロナウイルスの感染拡大によってそれに拍車が掛かっているとは言えない。

イスラム過激派が活動する他の国々でも同様の傾向で、新型コロナウイルスがイスラム過激派の活動にエンジンを掛けているわけではない。

また、イスラム国やアルカイダ、それらの支持組織や信奉者たちは、「新型コロナウイルスが欧米を襲ったのは神からの罰だ」、「欧米諸国にいる支持者たちは攻撃を試みろ」などの声明を発信しているが、イスラム国やアルカイダの発信する動画やメッセージの頻度や鮮度の低下も影響してか、それらに触発された者によるローンウルフ的なテロも報告されていない。

当然ではあるが、新型コロナウイルスがテロ組織のメンバーを中心に感染する可能性は十分にあり、そうなれば組織として大きなダメージを受けることになる。よって、テロ組織も一般市民と同じように感染予防を徹底し、必要以上の活動は控えることになる。テロ組織とは超過激で常識が通用しないように思われるが、その政治的主義・主張は到底理解できないものだとしても、自らの目標達成と組織存続のためには合理的な選択肢を選ぶ。

このような事情に照らせば、新型コロナウイルスの感染拡大はテロの増加に繋がらないと思われるかも知れない。だが、事はそう単純ではない。新型コロナウイルスとテロとの関係は短期的ではなく、中長期的に考える必要がある。

それには2つの理由がある。まず、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、イスラム過激派が活動するアジアやアフリカの国々では、本来テロ対策に従事する警察や軍がロックダウンによる対応に時間を割かれ、パトロールや警戒監視などのテロ対策が疎かになり、イスラム過激派がそういった隙を突いて活動範囲を拡げることが懸念されている。

しかも、新型コロナウイルスによる社会混乱が続けば続くほど、イスラム過激派が自由に行動できる余地が生まれ、いわゆる聖域(safe heaven)が拡がる恐れもある。そして、もともと政府の統治能力が脆弱な国々では、新型コロナウイルスによる社会混乱によって軍や警察の指揮命令系統にヒビが入るだけでなく、圧迫される財政事情によって兵士や警察官への給与供給に遅延や停止が生じ、最前線でテロ対策に従事する人々の士気が低下する可能性もある。

また、新型コロナウイルスによる社会混乱によって、失業や経済格差がいっそう深刻化し、一部の若者が抗議デモや暴力に走るだけでなく、テロ組織にリクルートされ、テロの世界に入ってしまうことが懸念される。現在、イスラム過激派が活動する国々の多くは感染の真っただ中にあり、経済的被害の規模が明らかになっていないが、今後失業率やGDPの値が発表され、大きな社会問題へと発展する可能性がある。

これまでのテロ組織加入の事例を調査してくると、テロの世界に入ってしまう若者たちの過程はさまざまだが、「お金を稼げる仕事が全く見つからず、安定的な給与をくれるテロ組織に加入した」、「仕事がなく友人や家族からの誘いでテロ組織に入った」など、金銭的問題は主要な背景だ。

テロ組織とは、財政的に余裕がある時は大規模で綿密に計画したテロを試みるが、財政的に苦しい時は身代金目的の誘拐や略奪、海賊行為などを繰り返す。要は、お金はテロ組織にとって生命線であり、魅力的なお金で若者のリクルート活動を行う。経済が長期に渡って停滞すると、それだけ若者たちの反政府感情が高まり、テロ組織に利する環境が生じる恐れがある。

あわせて読みたい

「テロ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    元プロ野球選手・上原浩治氏の容姿に言及 コラム記事掲載のJ-CASTが本人に謝罪

    BLOGOS しらべる部

    06月17日 13:12

  2. 2

    菅首相のG7「はじめてのおつかい」状態を笑えない - ダースレイダー

    幻冬舎plus

    06月17日 08:40

  3. 3

    山尾志桜里衆院議員が政界引退を表明「今回の任期を政治家としての一区切りとしたい」

    ABEMA TIMES

    06月17日 16:55

  4. 4

    知っているようで知らない、チョコレートの真実 - 多賀一晃 (生活家電.com主宰)

    WEDGE Infinity

    06月17日 14:56

  5. 5

    ほとんどの人が「延長は仕方ない」イギリスでロックダウン解除延期、なぜ感染再拡大?

    ABEMA TIMES

    06月17日 22:31

  6. 6

    山尾志桜里氏「今回の任期を政治家としての一区切りにしたい」

    山尾志桜里

    06月17日 15:40

  7. 7

    「日本の将来はよくなる」と思う18歳は9.6% 若者から夢や希望を奪う大人たち

    笹川陽平

    06月17日 09:19

  8. 8

    維新は、野党第一党の座を争うためには候補者の数が少な過ぎませんかね

    早川忠孝

    06月17日 15:33

  9. 9

    低調な通常国会、閉幕へ。生産性を上げるためには野党第一党の交代が必要不可欠

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月17日 10:00

  10. 10

    「確率論から考えれば、若者に自粛を強いるのはおかしい」厚労省の元医系技官が批判

    ABEMA TIMES

    06月17日 19:20

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。