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国際紛争について

3年生さんからのコメントです。

「中国人は日本人のことが大嫌いなんですか?日本人が戦争中に中国人にしたひどいことは具体的に知らないので、反日運動とかされてもどうしていいかわかりません…。ニュースとか見ると、一方的に攻撃してくるようにみえて、正直中国人が怖いです。でも、やっぱり仲良くしたい気持ちもあります。日本が戦争中にしたことをもっと教育として教えて下さい。アメリカに原爆を落とされたことは毎年のように報道されているのに、加害者側の顔を隠すのは良くないと思うんです。そこを知ればもっと中国のことを理解できる気がします。校長先生にこんなこと言うのはおかしいですね…長々とすみませんでした。」

このテーマは、大いに議論を呼ぶテーマですが、僕が自分の考えを述べると言うよりは、高校生の皆さんに「問題の所在」を理解していただくために、取り上げることにします。

中国人すべてが日本人を嫌っていることもなければ、その逆もないと思います。和泉高校でも、一昨年には、上海の高校2校と上海大学と交流を行いましたし、昨年も中国の高校生らが一日和泉高校生と一緒になって交流しました。ですから、高校生の皆さんは、偏見や先入観を持たずに、機会があれば(中国に行く場合、安全性に疑問があるうちは無理しないで欲しいのですが)できるだけ中国の高校生と交流し、実際に会ってから、国籍ではなくその人物の内面を見て評価・判断して欲しいと思います。

しかし、今回の反日運動、とりわけ暴徒化したデモ・集会については、酷い行為だと思います。同じ中国人を、ただ単に日本製の車に乗っているからと襲ったり、日本と関連がある施設や人を襲う。誰が考えても許されるものではありませんし、国際社会においても容認されません。デモや集会で自分の考えを述べる機会が与えられることは非常に重要であり、日本国憲法でも表現の自由として保障されていますが、暴力に移行してよいはずがありません。

今回の尖閣諸島問題のみならず、靖国参拝問題や南京大虐殺問題など、米国による原爆投下に限らず、戦争をめぐる日中の関係は頻繁にマスメディアでも取り上げられています。個々の論点について、ここで僕が私見を述べることは控えますが、今回の反日運動の理由についても、「日本が戦時中に中国を植民地にして悪事を働いたからだ」という人もいれば、「尖閣諸島に石油などの天然資源があることを中国が見つけた結果、中国が領有権を主張するために反日運動を煽っている」という人もいれば、「反日運動をしている人の多くは、貧困にあえぐ人々であり、反日というよりも、現在の生活への不満をぶつけているのだ」という人もいます。

つまり、今回の反日運動の源泉ひとつを探っても、簡単に「答はコレ!」と決まるものではありません。コメントをくれた3年生さんは、「加害者側の顔を隠す」と仰います。仮に加害の事実が明確になっているとするならば、その事実をあえて隠す行為は潔い話ではありませんし、その後の人間関係を築いていく上でもよくない話ですよね。

ただし、歴史の真実は、誰かが「真実はコレ!」と決めてくれるものではありませんし、タイムマシーンに乗って真実を目の当たりにすることもできません。特に、時間が経過すればするほど頼れる資料が2次的、3次的、4次的な資料になっていく(直接見聞きした人の証言等が得られにくくなる)ために、真実を確定することが難しくなります。

だからこそ、歴史に関する紛争については、双方の言い分をできるだけ多く聞いて、資料を分析し、それぞれの見解を批判的に議論・整理する(”批判的”という意味は、言いがかりや文句をつけるという意味ではなく、人の主張の論理的でないところを指摘し、建設的に議論を深めるための批判、つまり和泉高校のIMで学んでいる批判的思考=critical thinkingのことです)ことにより、自分が納得する見解を持つことが必要です。

ですから、学校の日本史・世界史・現代社会の授業や受験勉強で足りないところは、是非、自学の上、色々な意見を持った人と議論を深めてください。学校においても、IMの時間や「平和と国防を考える」などの時間において、こういった論点についても議論する時間を増やすようにしたいと考えています。

さて、反日運動の源泉についてお話しましたが、高校生の皆さんに、尖閣問題、竹島、北方領土等の領土問題(外交問題)の特殊性について少しお話を続けたいと思います。

僕は弁護士をしていましたので、弁護士時代の経験も踏まえてお話します。

土地の境界紛争というのを聞いたことがありますか?高校生のうちに巻き込まれることはあまりないかと思いますが、大人になると巻き込まれることがあります。A家とB家の土地の境目が曖昧な場合、A家はここが境界線だと信じ、B家は異なる境界線の存在を信じています。つまり、お互いが自分に有利な(自分の土地の所有権が広がるような)境界線を主張します。

話し合いでまとまる場合はよいのですが、まとまらない場合、だんだん関係が険悪になります。境界線が論点だったのに、A家はB家の犬の鳴き声がうるさく聞こえてきます。B家はA家の子供のピアノの練習の音がうるさく聞こえ始めます。「前々からあんたんとこの家は態度が悪かった」などと、当時は全く文句を言っていなかったことまで持ち出す始末です。

ここまでは、領土問題をめぐる国どうしの紛争と似ていませんかね?

こうして、当事者だけでは解決が不可能になったと感じたA家は、お金を払い、弁護士を雇い、B家を訴えて裁判を始めます。裁判で最終的にA家が勝つと、B家はこれに従わなければなりません。A家が主張していた境界線が認められた結果、B家の土地は(B家の感覚では)狭くなり、境界線沿いに植えてあった花や置物をどかさなければなりません。B家とすれば気分は最悪ですが・・・

B家が花や植木をどかさないでいると、裁判所を始めとする国の機関に無理矢理どかされます。どかされるときに暴れると、警察につかまってしまいます。また、裁判の結果が気に入らなくてA家に嫌がらせをすると新たに裁判で訴えられてお金を払わされたり、警察につかまる可能性もあります。B家は仕方なく、裁判の結果を認めます。

これが一般市民どうしの争いの結末です。では、国どうしの争いの場合はどうでしょうか?

先の境界線の話のように、裁判所のようなものはあるのでしょうか?

国連には国際司法裁判所という国際紛争を審理するための裁判所があります。ただし、この裁判所で裁判をするためには、両国が裁判所で審理されることに合意しなければならないのです。つまり、A家とB家の場合は、一方が訴えれば他方は逃げることができませんが、国際間の紛争は裁判に行くこと自体を拒絶することができるのです。また、仮に国際司法裁判所で判決を受け、A国が勝訴した(A国の領土と審判された)にもかかわらず、B国がその領土に居座った場合であっても、裁判所や警察のように、国連が、立ち退きを嫌がるB国を必ず追い出してくれるわけではありません。

ここが領土問題(国際紛争)の解決の最も難しい点です。

そうなると、A国は、「国連なんか信用できない」といって力ずくでB国をどかせばよいのでしょうか?国のレベルで”力づく”というのは武力行使を意味しますよね。しかし、「平和と国防を考える」の授業に参加した生徒は勿論のこと、多くの高校生が、それでは罪もない尊い命が奪われる悲劇を生むことになってしまうと考えますよね。武力を使って無理矢理どかすのは絶対にダメ。勿論、A国がもともとある土地にいたにもかかわらず、B国が先に攻撃してきた場合に、A国の国民を守るために(自衛のために)防御することは必要であることは別としても。

歴史上、あるときは領土をめぐり、あるときは宗教をめぐり、様々なところで武力衝突が起こっています(世界史を学んでいる人はいくつか例が思い浮かぶのではないでしょうか)。

武力衝突まで行かなくても、武力を見せつけて、相手を威嚇して解決する場合もあれば、近隣の国々と仲良くなり、集団になって相手国に経済封鎖等のプレッシャーをかけて解決する場合もあります。しかし、武力を見せつけて相手を威嚇する場合にも、実際にはそこまでの武力はなく、所謂”はったり”で威嚇する場合もありますし、偽の情報を流したり、スパイが動く場合もありえます。また、一緒に組んでいたと思われる国が裏切り、相手に乗りかえることもありえます。こういった例を説明する文献も多数あります。

A家とB家の問題を最終的かつ完全に解決してくれる裁判所のように、国際紛争においては、いまのところ、最終的かつ完全に解決してくれる機関がありません。

僕は国際紛争を考えるとき、(ありえない話ですが)全人類が100%信頼をおける人間以外の神様のような存在がいて、その存在が裁判所のように問題を解決し、全人類がその解決に素直に従うようなことができればいいのにと空想に耽ることがあります・・・

極めて大雑把ですが、歴史をめぐる紛争や国際紛争の解決の難しさがどこにあるのか、その「問題の所在」だけを高校生の皆さん向けに説明させてもらいました。

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