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会社命令で県をまたいで移動する人にも注目して欲しい

 通勤客は通す、転勤者も通す、帰省客は通さない……と、5月の連休前に私は書きました。3ヶ月後の今はどうでしょう。政府は帰省を制限するものではないと繰り返す一方、各自治体の首長は移動を控えるべきと主張するなど、足並みの乱れが目立ちます。そもそも自治体側の移動自粛要請にしたところで、「連休直前に言われても今さらキャンセルできない」と反応する人も多いですよね。

 日本は幸運にもSARSウィルス、MERSウィルス、そして新型インフルエンザの影響をほとんど受けてこなかったせいか、こうした新興感染症への備えが出来ていなかったように思います。その結果として「(SARSやMERSの時のように)日本は大丈夫だろう」との楽観的観測で時間を費やし、新型コロナウィルスの感染拡大への有効な手立てが遅れたところもあるのではないでしょうか。

 他の会社も似たようなものではないかと思いますが、私の勤務先では4月に大量の転勤者を出しました。東京から大阪へ、大阪から東北へ、北海道から東京へ、日本全国で大きく社員を動かしたわけです。その中に無症状のコロナウィルス感染者がいたかどうか定かではありませんが、「県をまたいだ移動」を増やす事で従業員と地域住民の双方に少なからぬ健康リスクを負わせた可能性は高いです。

 2月の時点では、「4月にはもう収まっているだろう」との楽観的観測が一般的だったと記憶しています。だから会社の人事関係者も、「大規模な配置転換で改革姿勢をアピールだ」と意気込んで全国社員の転勤を次から次へと決めていったのでしょう。ところが新型コロナウィルスの感染拡大は止まるどころか増加のペースが上がるばかり、しかし会社にとって転勤は絶対のもの、緊急事態宣言を数日後に控えたままシャッフル人事は強行されました。

 そして4月7日には主要都市を対象に緊急事態宣言が発令、政府の動向に敏感な我が社は急遽テレワークへの移行が行われたのですが――転勤して1週間を待たずにテレワークという状況に、「何のために転勤してきたのか」と疑問を感じる人も多少はいたものと思います。ついでに「転居先でインターネット回線が用意できないのでテレワーク対応できません」という人も結構いました。

 10月から、また社員を大きく動かそうとしている会社も少なくないのではないでしょうか。十中八九、2ヶ月後に新型コロナウィルスの感染拡大が収まっているとは考えられません。県をまたいだ移動がリスクを伴う状況はしばらく続くことでしょう。しかし人事の考えは人知の及ぶところではありません。再度の緊急事態宣言発令が考慮される中でも、東京から地方へ、地方から東京へと移住を余儀なくされる人は出てくるものと予想されます。

 転勤は社員を支配するための伝家の宝刀、断るものは首を斬ることすら許される代物です。転勤のために新居を離れる人もいれば、家族と離れて暮らす人もいる、配偶者の転勤のために仕事を辞める人もいれば、親の転勤のために友人と別れる子供もいる、そして昨今であれば新型コロナウィルスへの感染リスクと、それを広めてしまう二重のリスクの増大も加わりますが、果たしてこのままで良いのでしょうか?

 パワハラやセクハラと同様に、転勤命令もまた従業員の生活を侵害するハラスメントとして再考されるべき時期が来ているように思います。新型コロナウィルスの感染拡大は、非合理な労働習慣を改めさせる転機でもありました。ならばこの機会に「正社員は転勤必須」とする風習にメスが入れられても良いのではないでしょうか。このまま企業任せにしている限り、どれほどコロナウィルスの感染拡大が続いても、定期的に転勤者は産み出され、県をまたいだ移動も繰り返されます。社会を感染症のリスクから守るとの大義名分がある今こそ、企業に介入するチャンスです。

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