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いま女性に必要なのは、人生を自由にいきるために経済的に自立することです - 賢人論。第118回(後編)女性学・英文学研究者 田嶋陽子

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元法政大学教授にして、声を大にして女性の自由を訴え続けてきたフェミニスト、田嶋陽子氏。著書『愛という名の支配』の中で語られている幼少期について質問すると、「母にいじめられたことが、私のフェミニズムの原点でした」と、静かな口調で語り始める田嶋氏。これからの日本が迎える新型コロナ時代における生き方について、また亡き母親との関係について、時間の許す限り話を伺った。

取材・文/盛田栄一 撮影/遠山匠

安定した経済力の獲得は自由に生きるために必要なこと

みんなの介護 ウィズコロナ時代の女性の新たな生き方として、「結婚しない」ことも選択肢の1つだと伺いました。そんな生き方を実現するために、現代の女性にとって最も必要なことは何であるとお考えでしょうか。

田嶋 女性が「経済的に自立する」ことですね。

わが国が社会構造の基盤に据えてきた「結婚」という制度は、肉体的・心理的・社会的・経済的に女性を家庭に縛りつけるための仕組みでした。20〜30年前まで、女性にとって最もポピュラーな生き方は「結婚して専業主婦になること」と、テレビや雑誌や家庭教育で喧伝されてきました。「結婚は女のしあわせ」と思いこまされてきた女性たちは、男社会の都合で、家事・育児・介護を無償で行う役目を負わされてきたわけです。家事労働ではいくら働いても、自活できるだけのお金を稼ぎ出すことができません。その結果、あらゆる面で、夫からの要求に対して、「NO!」とも言えなかったのです。

「女三界に家なし」は、まさにかつての日本女性を象徴する言葉でした。幼いときは親に従い、嫁に行ってからは夫に従い、老いては子に従う、というように、女性は生涯誰かに従属しながら生きる道しかない、そういう無権利状態におかれていました。

みんなの介護 それが今では社会で活躍する女性も増えてきていて、自立した女性も多く出てきました。

田嶋 その通りです。「女三界に家なし」が解消されたのは、戦後に日本国憲法が施行されてからです。特に「法の下の平等」を定めた憲法14条1項と、「家庭生活における個人の尊厳と両性の平等」を定めた憲法24条1項が、女性の社会的地位の向上を明確に保障したからです。

それでも、1970年代からの日本の高度経済成長を実現するために、当時の女性たちは専業主婦としてタダ働きをさせられながら、この男社会を支えてきたのです。でもこのところ、やっと専業主婦世帯より共働き世帯の割合の方が大きくなって、2019年には共働き世帯が約1,245万世帯、専業主婦世帯が約575万世帯で、共働き世帯の方が2.2倍程度も多くなっています。

問題は、たとえ共働きになったとしても、夫と妻で大きな所得差が生まれていることです。今でも女性の給料は男性の70%前後です。最近おもしろい統計を見ました。男女の家事労働を貨幣評価すると、女性の時給は約1,470円、男性約1,850円です(注:平成30年内閣府経済社会総合研究所「無償労働の貨幣評価」から算出)。誰だって「ええー?」って思いますよね。「なんで女性の方が得意とされる家事の時給が男性よりも低いの?」って。これが男女の格差です。この格差をなくすためには、女性が家族の都合で退職などせずに働き続け、職場でもリーダーの位置につくことです。

みんなの介護 女性1人で子どもを数人養えるくらい所得水準に目を向けることが大切なのですね。

田嶋 そうです。それが理想です。だからこれからの女性には、「どうすれば自分が経済的に自立できるか」を真剣に考えてほしい。とにかく、仕事を持つことが大切です。簡単に辞めてはいけません。自分でお金を稼ぐ手段さえキープしていれば、あとは結婚してもしなくても、たとえ別れるにしても、本人の自由です。

私はこんなことばかり言っているから、「田嶋はお金のことばかりだ」と非難されることもあります。しかし、生活をしていくにあたって「お金」はとても大事なものです。お金のことを「御足(おあし)」と言いますが、「足」は自由のシンボルです。自分の人生を自由に生きていくためには「御足=お金」が必要なんです。

新型コロナ対策に成功した諸外国の女性リーダーの共通点

みんなの介護 経済的な自立に関するお話でしたが、私たちが直面している喫緊の課題の中に、「新型コロナ感染拡大防止」と「経済活動再開」という相反する2つの目標があります。今後の私たちの生活も、政策次第で大きく変動することは免れないでしょう。田嶋さんはこの2つの命題のバランスをどう取っていくべきだとお考えですか。

田嶋 現時点(2020年7月16日現在)で、新型コロナの感染拡大を抑え込んでいる国とそうでない国に分かれています。

早いうちに抑え込んでいる国のリーダーを見てみると、女性リーダーが多いですね。台湾の蔡英文総統、ニュージーランドのアーダーン首相、ドイツのメルケル首相、アイスランドのヤコブスドッティル首相、フィンランドのマリン首相、ノルウェーのソルベルグ首相などです。

彼女たち女性リーダーに共通しているのは、卓越したコミュニケーション能力と毅然とした決断力を持っていること。「新型コロナの感染拡大を防ぐために今、何が必要か」ということについて、子どもでも理解できるように、平易な言葉で国民にやさしく語りかけていました。それと同時に、ごく早い段階からロックダウンなどの厳しい措置を躊躇なく断行したおかげで、例えば、ニュージーランドの経済活動は、長期的な損傷もなく、つつがなく展開しているということです。彼女らが取った対応は、世界的にも新型コロナ対策成功例として認められています。

一方、アメリカやブラジルなど、マッチョな男性リーダーたちの国の現状がどうなっているかは、皆さんご存じの通りです。感染拡大防止を徹底しないうちから経済活動に舵を切った結果、結局のところ中途半端な対応を取ってしまい、いまだに感染拡大が止まっていません。

非常事態に直面したとき、一般的には「男性より女性のほうがパニックに陥りやすい」と言われていますが、これは偏見です。各国の女性リーダーたちは、いい意味での「女らしさ」と「男らしさ」をあわせ持ち、かつユニークで自立した行動を取っています。だからこそ、非常事態でも正しく冷静な判断に徹した行動が取れたのだと思います。

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