- 2020年08月11日 11:42
鈍化する陽性者拡大 ~「日本モデル」vs.「西浦モデル2.0」の正念場(その5)~
1/28月4日に「止まらなかった陽性者拡大~ 日本モデル vs.西浦モデル2.0の正念場④」という文章を書いておいた。http://agora-web.jp/archives/2047457.html 7月上旬をピークに東京の新規陽性者数の拡大ペースは鈍化をしていたが、4連休の際に跳ね上がったように見えたので、それを記録しておきたかったからだ。もちろん本当に重要なのは、その後のトレンドだ。
新型コロナの感染発症者のほとんどは、5日以内に発症すると言われる。他方、2週間程度の間は発症の可能性があるともされる。4連休中の影響が出尽くしてくるのが、2週間を経過してしばらくしてからの8月10日からの週であろう。
すでに先週から、新規陽性者数の増加に再び鈍化の傾向が見られている。週ごとの大きなトレンドを見てみよう。
新規陽性者数 (7日移動平均) |
増加率 (前の7日間との比較) |
|
8月4日~10日 |
335人 |
0.99 |
7月28日~8月3日 |
338人 |
1.34 |
7月21日~27日 |
252人 |
1.15 |
7月14日~20日 |
219人 |
1.30 |
7月7日~13日 |
168人 |
1.69 |
6月30日~7月6日 |
99人 |
1.94 |
これを日ごとの7日移動平均値をとったグラフで見るとこうなる。https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/
4連休後の週に新規陽性者の拡大がスピードの変動は、実効再生産数の推移でも見ることができる。
こうした言い方は、連日のメディアの報道では採用されていない。だがそれは単純に、メディアの「ただ目の前の視聴率の向上だけを考えたい」という徹底して無責任な煽り報道の方針のためである。「テレビに出ているのだから偉い人なのだろう」という根拠がないどころが、今や単純に事実に反する思い込みをもった視聴者層に煽り報道を売りつけるだけのビジネスモデルで、私のような言い方が採用されないだけだ。
もう少し具体的に言うと、二つの点に留意する必要がある。
第一に、感染拡大を、陸上競技の記録会のように報道するのが、端的に間違いである。「〇〇日ぶりに〇〇人台」といった報道の仕方は、あたかも百メートル競走の実況中継をしているかのような臨場感のあるやり方なのだろうが、間違いである。毎日の新規陽性者数は、あたかも陸上競技者がスタートラインに戻って一から始めるようなものではない。前日までの陽性者の数が違うということは、日々の新規陽性者数は、異なるスタートラインから始めているということだ。
新規陽性者数が同じ1,000人だった二つの異なる週の場合のことを考えてみよう。仮にそれぞれの前の週の陽性者数が100人だったら、当該週は陽性者数が10倍になった急速拡大の週である。ところが前の週にすでに1,200人の陽性者が出ていたとしたら、当該週はむしろ拡大スピードが減少していることになる。新規陽性者を拡大させる人の数が違うところからスタートしているので、絶対数では拡大のスピードを見ることができない。
第二に、それでは絶対数はどのように評価すればいいのかといえば、日本政府はこれまで一貫して「医療崩壊を防ぐ」ことを目標に掲げているので、それが危うくなる水準が、危険領域である。4月よりも数が多いとか少ないとかということは、関係がない。「日本モデル」では一貫して「重症者中心主義」というべきアプローチをとってきているが、新規陽性者の中から重症者が生まれるわけなので、医療崩壊が懸念される程度にまで重症者数が増える可能性が見えてきた新規陽性者数が、懸念すべき絶対数である。
私はこのところ「日本モデルvs.西浦モデル2.0」という視点で文章を書いてきているが、「日本モデル」と「西浦モデル」は、重症者中心主義であるか、感染者中心主義であるかという着眼点において、鋭く対立する。http://agora-web.jp/archives/2047305.html
尾身茂会長をはじめとする旧専門家会議=現在の「分科会」メンバーは、7月の新規陽性者の拡大に落ち着いた対応を見せた。それは、検査数の増大に伴う確定新規陽性者数の絶対数の増加と感染拡大傾向のあぶりだしは、重症者数が医療崩壊を懸念させる水準に達するまでは深刻にとらえすぎる必要はない、と考えているためだろう。新規陽性者数の拡大は、鈍化し続ければ良好な傾向であり、深刻になる前に拡大が止まれば、それで良い指標だ。
そこで「日本モデルvs.西浦モデル」の対決ポイントは、行動変容等を通じて感染拡大は止まる可能性を模索するか、あるいはロックダウンのような措置が導入されなければ果てしなく指数関数的拡大が続くと仮定するかの違いになってくる。
「西浦モデル」では、現状は際限のない指数関数的拡大の真っただ中ということになる。
[画像をブログで見る]5月3日に西村大臣が日本の政策の説明で用いた「ハンマーとダンス」の表現を用いると、「日本モデル」の観点からは、一つのダンスの形を模索している最中である。https://twitter.com/nishy03/status/1257303798516613124
私は7月末に「正念場」が来ると書いたことがあるが、4連休の影響で微妙なせめぎあいが発生したため、8月に「正念場」がもつれこんでいるような様相になっている。
現時点で結論を出すのは早いが、「日本モデル」の観点からは、新規陽性者数は拡大が止まればそれでいい。メディアのただ「今日の視聴率が上がればそれでいい」方針の煽り報道のトーンとは異なり、「日本モデル」はまだそれほど劣勢にはなっていない。