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「安倍内閣の象徴」と言われるのに、ニュースでは報じられない 知られざる“内調”の実態 - 岸 俊光

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名前を聞いたことはあっても、何をしているか分からない謎めいた政府の機関──それが内閣情報調査室(内調)のイメージではないでしょうか。近年、内調に関する本の出版が続いたり、内調と戦う新聞記者を描いた映画『新聞記者』(原案/望月衣塑子、河村光庸)がヒットしたり、ちょっとした内調ブームになっています。

©️iStock.com

情報を握り、政府の秘密を守る「内調」

背景には官邸機能の強化があります。特に内閣官房内に設置された内調は、室長が内閣情報官に格上げされる、情報衛星からの情報を一手に管理する、特定秘密保護法の運用上の権限を持つ、重要情報が外部に漏出するのを阻止するカウンターインテリジェンス・センターや国際テロ情報集約室を内部に設置するなど、その機能がどんどん拡充されたことで存在が目立ち始め、人々の関心を引くようになりました。

情報を握り、政府の秘密を守り、官房機密費が活動費に充てられる……。謀略、スパイなどの単語が容易に浮かび危険視されて当然かもしれません。

 そもそもこの組織は創成期からマスコミの関心が高く、第三次吉田茂第三次改造内閣の1952年に内閣総理大臣官房調査室としてスタートした際はまだ戦争が影を落とす時代でした。再び戦前・戦中のような国家の情報統制や謀略が始まるのではないかと警戒するメディアやジャーナリストが少なくなかったのです。例えば読売新聞は言論統制の恐れがあると主張するキャンペーンを張りました。

松本清張(1909~92)は内調の内部資料を入手し、それを基に小説『深層海流』を執筆、六一年に『文藝春秋』で連載しています。あくまでも小説ですが、国家の諜報機関の内部抗争や政官界の派閥争いなどがリアルに描かれ、前年発表の占領下の日本の重大事件を書いた『日本の黒い霧』に続いて話題を呼びました。連載終了後、同誌に「情報それ自体の蒐集は、国策を運営する上において当然のことだ。ところが、内調の役目がその辺を逸脱して謀略性を帯びていたとなれば、少々見逃すわけにはいかない」という小文を寄せています。

連載は単行本として文藝春秋新社から刊行され、後に『松本清張全集第31巻』に収められています。ともに収められた『現代官僚論』でも内調について取り上げていますので、ここでは全集のほうをセレクトしました。

ジャーナリスト吉原公一郎のレポートと小説

ジャーナリストの吉原公一郎(1928~)は清張より少し早く内調の元職員から内部資料を入手していました。すぐに『中央公論』60年12月号に寄稿した『内閣調査室を調査する』は、内閣調査室がアメリカの強い影響下で組織の拡充と人員の育成に努めている様相をあぶり出し、この組織が戦前の内閣情報局の再来になることを危惧した、当時最も内調の実態に接近したレポートであったと思います。

63年に出版した『小説日本列島』では、内調をCIAとつながりのある謀略機関であると糾弾しています。小説を謳いながら流出資料がそのまま引用され、つまり吉原は政府の極秘文書を世に出すために小説を書いたわけです。

極秘文書は段ボール三箱ほどもありました。それでも内調の全貌を暴くには十分ではなく、清張も吉原も部分的にフィクションを交えて小説の形態でしか描き得なかったのです。

政府に味方する世論をいかにつくるか

52年の内調創設のメンバーの一人だった志垣民郎(1922~2020)は以後26年間勤務し、克明な日記をつけていました。志垣は2019年、その日記をもとに書き下ろした『内閣調査室秘録─戦後思想を動かした男』を上梓。志垣と交流のある私は編者としてかかわっています。20年5月4日、志垣が97歳で死去したため、遺言のような一冊になりました。

日記の内容は同時代の『佐藤栄作日記』や『楠田實日記』などとも照合しましたが実に正確で、戦後の日本をたどる第一級の資料といえます。

当時内調が最も重視したのは日本の共産化を防ぐことであり、志垣が担当したのは世論に影響を与える学者、作家、ジャーナリスト、編集者といったいわゆる知識人に研究を委託して研究費を渡し、政府に味方する世論をつくることでした。日記には対象者が実名で書かれ、その人物評も添えられています。

志垣は初対面の政治家の第一印象も日記に記しており、そこに「凡庸」と書かれた佐藤栄作は、後に内調の知識人対策によって構築した人脈を自らの内閣(1964~72)で大いに活用し、ブレーン政治を開花させることになります。日本の非核三原則「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」は佐藤が六七年に表明したもの。

私は新聞記者業のかたわら2009年から日本の非核政策について研究を始め、この国是はいかにしてつくられたか、政府を陰で支える知識人人脈はそこにどうかかわったのかを知るために、内調そのものを研究する必要に迫られました。そこで当時の内調の幹部を取材しようと志垣の自宅を電話帳で調べて訪ねた。それが志垣と私の交流の始まりでした。手前みそながら、拙著『核武装と知識人─内閣調査室でつくられた非核政策』はその研究論文を加筆修正したものです。

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