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経済活動重視で経済が回らないワケ

ようやく日本各地で梅雨が明け猛暑全開となったが、新型コロナウイルスの感染拡大はとどまる様子がない。本日の東京都の新規感染者数は429人で二日連続して400人を超えた。各地の知事がいくら独自の緊急事態宣言を発しようが安倍首相はお構いなしで、野党からの臨時国会開催要求を拒絶し来週からは再び夏休みモードに戻りそうだ。体調不良と野党からの追及が嫌だという両方が理由っぽいが、いずれにしても緊急時に無責任極まりなく、リーダーに不適切な人物には一刻も早く退陣してほしい限りである。

安倍政権が何もしないのは「政権が経済活動重視だからだ」という主張をよく目にする。しかし、首相本人は何か目的があって事態を放置しているというよりも、経済活動と感染抑止の関係について具体的なプランなどなく、官邸官僚や一部の経済省庁が自粛や緊急事態宣言の再発令を嫌がっているからそれに従っているだけのように見える。感染を放置すれば支持率が下がるが、今のところ重症者数・死者数が低い値にとどまっているので、野党が弱いことを考えればしばらく何にもしなくても何とか乗り切れるとタカをくくっているのかもしれない。これまで安倍首相を支持していた「愛国者」たちはこのような人物を称賛してきたことを深く恥じるべきだ。

ここで「経済活動重視」とは何かということについて改めて考えてみたいが、要はアメリカのトランプ大統領が目指していたように新型コロナウイルスの感染拡大に目をつむり経済活動に規制をかけずに消費活動を喚起していくという方針のことなのだろう。

日本における8月上旬現在の状況については、感染は拡大し続けているものの4月と違い重症者・死者数は少ない水準で推移していることは確かである。しかしこうなっている理由については、定説がありそれが科学的に証明されているわけではない。少なくとも4つの季節を経過しなければ、感染が拡大しても大したことがないなどと安易に判断すべきでない。思慮に欠ける人たちは現状を見て性急な判断を下し、感染抑制策としての自粛を批判するのだろうが、多くの人たちは、急に状況が変化して4月のような状態に戻ることや最悪な場合、米ニューヨーク州やイタリアのような状態になることを恐れるものである。

人々は、AとBという選択肢があった場合、それぞれの行動をとると何%の確率で良い結果が起こるのか、残りの何%で悪い結果が起きるのかを考え、暗黙のうちに期待値を取って選択肢を選んでいる。旅行料金が安くなったからと言って、感染のリスクを全く恐れずに旅行を決断する人は少数派だろう。何が言いたいかというと、いくら価格面で消費を喚起しようとしても、人々は安全でない商品(サービス)にはなかなか手を出そうとしないということである。Eコマースの需要が高まっているのは、実際の店舗に出向くよりも移動コストによる効用の減少が少なく、コロナに感染するリスクも少ないからである。

私は、コロナを軽視するのは合理的ではなく、安心して使えるワクチンか特効薬を全国民が手にできるようになるまでは感染抑止に舵を切り感染者数を徹底的に抑えた方が、深刻な危機に陥っている旅行や外食産業の再生に寄与すると考える。

例えばこういう例を考えてみよう。連休中に行った場合、人々は95%の確率でコロナにかからないと考えているが、5%の確率でコロナに感染し、0.5%の確率で死亡すると考えているとしよう。逆に連休中に家にいた場合、99%の確率でコロナにかからないが、1%の確率でコロナにかかり、0.1%の確率で死亡すると考えているとしよう。さらに、旅行に行った場合の効用(楽しみ)が400で、家で過ごす場合の効用が200、コロナにかかっても死亡しない場合の不効用(つらさ)が-400、死亡した場合の不効用を便宜的にマイナス10万だと思っているとしよう。旅行してもコロナにかからないケースの効用が家にいてコロナにかからない場合のそれよりも2倍しか高くない設定になっているが、これは現在旅行に行っても現地の反応が暖かくなさそうとか店が早く閉まるという不効用が発生しそうなので、通常旅行するときの効用よりも割り引いたということである。すると、旅行した場合の期待効用は-138、家で過ごす場合の期待効用は94.4となり、人々は家で過ごすことを選択するようになる。

現在の状況では、旅行業者は、GoToを想定した価格より旅行代金を下げるのは限界があり、サービスの質を上げることも金銭的に厳しいはずだ。それゆえ、政府が、人々が旅行をしたいと思うように誘導するには、①コロナにかかる可能性とコロナにかかって死亡する可能性を低くするか、②コロナにかかって死亡しなかった場合の不効用の値を小さくするしかないだろう。死亡した場合の不効用の値を低くすることは無理だ。

①に関しては、両方の可能性を下げるのがベストだが、後者だけを下げる(つまりコロナにかかっても死亡しない可能性を上げる)ことも含まれる。②に関しては、特効薬を製造するかコロナにかかっても大したことがないと国民に信じ込ませることが取るべき方法となる。ワクチンの供給はコロナにかからない可能性を高めるので①に関係し、特効薬の製造はコロナにかかっても死亡しない可能性とコロナにかかった場合の不効用を減らすので、①と②に関係する。医療体制の充実はコロナにかかっても死亡しない可能性を上げるが、コロナにかかった時の不効用を大きくは減らせないだろう。

以上から、旅行や外食などへの消費を回復させるために政府が取れる行動のリストは、コロナの感染抑止策を徹底してコロナにかからない可能性を高める、ワクチンや特効薬を開発する、医療体制を充実させる、コロナが恐れるに足らない病気であると国民に理解してもらうように説明を繰り返すことである。

しかしながら、アメリカやイギリスで開発されているワクチンの接種は早くても来年初頭以降になり、特効薬の製造は見通しが立っていない。そもそも安倍政権はワクチンや特効薬の開発に十分な予算を費やしているとは言い難く、医療体制の充実にもあまり熱心とは思えず、感染封じ込めは放棄している。現状ではコロナが恐れるに足らない病気と言い切れる科学的な根拠がなく、国のリーダーがそのような発言をした結果アメリカやブラジルの二の舞になるリスクがあるので、安倍政権は経済重視をにおわせながらもそれを明言できない。緊急事態宣言が解除された6月は消費が回復したが、感染が拡大した7月以降は消費の低迷は免れないだろう。

消費を回復させるためには、GoToなどの意味がない需要喚起策に1兆7千億円(3500億だと思っていたがそれより上らしい) も費やすよりも、感染の封じ込め、ワクチンや特効薬の研究開発費、医療体制の拡充に予算を使うべきだ。飲食店などに対する休業・時短営業命令を実現させるには経済的補償の導入が必要だったとしても、それらを行うことで感染を早期に抑えられ可能性が高いのだから、臨時国会を開いて実現に必要な法改正を速やかに行うべきである。感染を放置することは消費の低迷を放置することと同じである。

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