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感染症の時代再び。

シンガポール National Enviroment Agency HPより

デング熱にかかった。

世界的にはコロナ・ウィルス第二波のニュースでもちきりだが、今年3月以降、大部分の国民が東京23区くらいしかない国内に閉じ込められたきり一歩も外に出られない状態が続いているシンガポールでは、史上最悪のデング熱流行が続いている。特にロックダウン以降患者数はうなぎのぼりで、8月に入ってからは年初からの累計患者数が22,400人、死者20人とコロナよりも高い致死率となっている(8月6日時点のコロナウィルス累計陽性患者数は54,555人死者27人)。

デング熱は初めてだったが、ここまで恐れられているだけあってインフルエンザ程度の苦しさとはけた違いだった。

まず、朝起きたらいきなり日本酒を1升呑んだ翌日の二日酔いのような状態に。万力で頭を締め付けられるような鈍痛と胃から大腸まで続く吐き気(二日酔いではないので当然吐けない)に苦しんでいるとどんどん熱が上がってくるが、苦しさのあまり眠ることさえできない。食欲はまったくわかず、水分を取るのがやっとのあり様で、ベッドの上でうなり続ける。これがまるまる4日間続いた。私は経験したことがないが、抗がん剤治療の苦しさってちょうどこんな感じじゃないだろうか。

5日目にやっと熱が引いたが、今度は全身に湿疹ができて麻疹の子供のような身体に。これは3日ほどで消えたが、その後も血小板の数値が下がったままで体力が回復せず、結局まるまる10日以上寝込んでしまった。これほど長引く病気をしたのは、20年ほど前に帯状疱疹で入院して以来である。

しかも、これはたまたま私の運が悪かったとか、体力が落ちていたからではない。同様のデング熱病人が至るところで発生しているのだ。

まず、同じマンションの隣人たち。うちのマンションは30戸しかない小規模集合住宅なのだが、今年は私が知る限り私を含め3件のデング熱患者を出している。さらに娘の学校の担任教師、私のかかりつけの歯科医、そして今回診療してもらった近所のクリニックの医師もちょっと前に罹患したと言っていた。右も左も患者だらけ。みんな一様に口にするのは、「とにかくつらかった」。つらいのだ。

もちろんシンガポール政府もただ手をこまねいているわけではない。

まだデング熱にかかる前、環境局のお役人が何度もベランダ鉢植えの水受け皿に水が溜まってないか調べにやってきたし、検査でボウフラが発見された場合の罰則も強化された。各集合住宅で毎週行われている蚊の殺虫作業も、政府のアドバイスで最近は週2日しているところも増えている。そのかいあってか先週からは若干下がり気味ではあるものの、まだまだ落ち着いたとはとても言えない状況だ。

それもそのはず。そもそもデング熱を媒介する蚊が大量発生している場所が放置されているのだ。

最たるものは建築現場。政府の初動ミスで外国人建設ワーカーにコロナ感染が広がってしまって以降、建設現場は開店休業状態になり放置されている。入ってみたわけではないが草は伸び放題、汚水は溜まり放題だろう。お役人がいくら立ち入り検査しても改善するワーカーがいないのだから、検査するだけムダである。

もう一つの元凶は、「ガーデンシティ」の名の下に国中にあふれる緑地帯。熱帯だけにこまめに草を刈りこまなければアッという間にジャングル状態になるのは必然であるが、普段この作業をしているのも外国人ワーカーたち。彼らが隔離されて仕事ができていないのであるから当然草は伸び放題。やぶ蚊の孵化場になっている。

政府は外国人建設ワーカー全員に実施していたコロナ検査がほぼ終了したと発表し、今月後半からは建設現場も通常の工事が再開する様子なので若干マシにはなるだろうが、ここまで拡大してしまったデング熱が一気に収束するとは思えないのが現状である。

そもそもコロナと同じく、デング熱もワクチンや効果的な治療薬がないウィルス性感染症だ。数は少ないとはいえ、シンガポールはじめ東南アジアや南米など熱帯でウィルスを媒介する蚊が発生する地域では毎年犠牲者が出ている。コロナと違うのは、抵抗力のない高齢者の他、10歳以下の子供も生命の危険に晒されることがままあるということだ。私も自分がかかってみて「これは弱ってたら死ぬかもしれないな」と実感した。

いっぽうで、唯一効果があったのは昔からの民間療法であるパパイヤの葉の青汁。恐ろしくまずいが、確かに飲むだけでだいぶ吐き気や熱が収まった。世界最先端の医薬品業界を擁するシンガポールにしてこれである。21世紀の最先端技術をもってしても感染症対策は、人海戦術で鉢植えの水受け皿にボウフラがいないか確かめたり、パパイヤの青汁くらいしかないのである。

本日、8月7日時点でコロナ・ウィルス感染者は全世界で1,926万人、死者数は71万7千人。ワクチン開発のめどは今のところたっておらず、数か月後に北半球がまた冬に向かう頃までにワクチンが供給されていなければ、再び欧米を中心に大流行が起こる可能性も捨てきれない。その頃には、デング熱と同じく誰がかかっても不思議でない感染症になっているのかもしれない。

逆に、コロナ・ウィルスのワクチンが開発されたりウィルスの遺伝子変異によって突然消えたりしたとしても、また似たようなウィルス性感染症は発生するだろう。なにせこれだけ歴史のあるデング熱のワクチンでさえ発見できていないのだ。

抗生物質とワクチンによってほとんどの感染症を制圧したかにみえた人類は、コロナやデング熱のような抗生物質もワクチンも効果がない感染症によって、再び結核やコレラなどの感染症が猛威をふるい、多くの命を奪ってきた暗黒時代に逆戻りしつつあるような気がしてならない。  

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