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ベイルート大爆発はなぜ起きたのか? 日本人が知らない“真相”【死傷者5000人以上】 - 飯山陽

 レバノンの首都ベイルートで8月4日、巨大なキノコ雲を伴う凄まじい威力の爆発が発生した。

【画像】ゴーン氏の自宅も爆発の被害に

 レバノン当局は、爆発が発生したのはベイルート港で、爆発の原因はそこに6年間保管されていた2750トンの硝酸アンモニウムだと発表した。


黒煙が立ち上るベイルート港 ©AFLO

 6日時点での死者数は135人、負傷者数は5000人以上とされている。ハマド保健大臣はインタビューで、「行方不明者が多数おり、その人数はこれまでに判明している死者数を上回っている」と述べた。ベイルートのアッバード知事によれば、爆発でベイルートの建物の半分は全壊あるいは半壊し、家を失った人は30万人にのぼり、被害総額は30億ドルから50億ドルにのぼる見込みであるという。

 中東のメディアは、発生直後からこの爆発についてノンストップで報道し続けている。

 中東には様々な言語のニュース・メディアが数多く存在する。しかしそれぞれが、強力な政治的バイアスに基づいて報道しており、意識しないと容易に印象操作されてしまう危険性もある。

 レバノンの支配勢力ヒズボラに融和的なメディアと、敵視するメディアとでは、報道の仕方が全く異なるからだ。有り体に言えば、前者が反米メディア、後者は親米メディアだ。

議員が声を合わせて「アメリカに死を!」と叫ぶヒズボラ

 今回の爆発について語る前に、まず、ヒズボラの思想について説明しておく必要がある。

 ヒズボラは日本やアメリカやヨーロッパ、湾岸諸国などでテロ組織指定され、制裁の対象になっているイスラム過激派武装組織であると同時に、レバノン与党の一翼を担う政党でもある。現在のレバノン政府を実質的に支配しているのもヒズボラだ。

 ヒズボラは代表的なイランの代理組織である。イランはヒズボラに多額の資金援助、武器援助をし、ヒズボラはそれを受け「革命の前衛」としてイスラエルを攻撃している。イランはアメリカを「大悪魔」と呼び、国会内ですら議員が声を合わせて「アメリカに死を!」と叫ぶ、自他共に認める反米国家だ。

 これまで、ヒズボラが単なる武装組織ではなく政治部門も併せ持っていることが、ヒズボラの扱いを「ややこしい」ものにしてきた。なぜならたとえばEUは、ヒズボラの軍事部門だけをテロ組織指定し、政治部門はテロ組織ではないとみなしてきたからだ。

 ヒズボラの政治部門は、世界中で軍事部門の「フロント」や「抜け道」の役割を果たしてきた。「我々は政治部門だ」と主張すれば、世界各国に拠点をおき、情報網を張り巡らせ、資金をプールし、仲間を募り、ロビー活動をすることができる。

 最近になり、ヒズボラをふたつに分けてとらえるこのやり方を改めたのがドイツだ。

 2020年4月、ドイツ内務省はヒズボラの政治部門と軍事部門をあわせて全体をテロ組織指定したと発表した。当局はヒズボラのモスクなどに捜査に入り関係者を拘束、ドイツ国内にあるヒズボラの資金も凍結するとした。しかし現在でもドイツ国内ではヒズボラのメンバーが1000人以上活動していると見られている。

 ドイツのこの決定を非難したのが、ヒズボラのパトロンであり盟友でもあるイランだ。イランはドイツについて、「アメリカとイスラエルの圧力に屈した。相当の代償を支払うことになるだろう」と警告した。

「アルジャジーラ」の報道は

 ベイルートの爆発について、日本で最もよく名が知られている中東のニュース・メディア「アルジャジーラ」は、ヒズボラに対して融和的な報道をしている。

 アルジャジーラはかつて、アルカイダの「創設者」で2001年のアメリカ同時多発テロ首謀者でもあるオサマ・ビンラディン氏の独占インタビューを放送したことでも知られる、カタール資本の反米メディアだ。

 2017年、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、エジプト、バーレーンなどのアラブ諸国が、カタールとの国交断絶を宣言した。理由のひとつとしてあげられたのが、カタールによるテロ組織支援である。カタールはヒズボラにも資金と武器を提供しているとされ、様々な証拠が挙げられている。

 今回、アルジャジーラは、爆発とヒズボラを関係づける報道はしていない。

 今回の爆発に関しては、

《当初から爆発の原因はベイルート港の倉庫にあった花火だ》
と爆発規模を過小評価するかのような報道をした。その後も、
《トランプ大統領が「爆弾のようなものによる攻撃」である可能性について述べたもののペンタゴンの見解は異なる》
といった米政権の揚げ足をとるかのような、実に反米メディアらしい報道をしている。

《爆発自体は事故かもしれないがその責任はヒズボラにある》

 これに対し反ヒズボラであるサウジアラビア資本の「アルアラビーヤ」は、当初から爆発とヒズボラとの関係について憶測を含め報道した。

アルアラビーヤは

《爆発現場となったベイルート港は実質的にヒズボラの管理下にあり、そこではヒズボラが組織的に「犯罪行為」を行ってきた》
と報道。
《大量の爆発物を保管していたのもその一環であり、爆発自体は事故かもしれないがその責任はヒズボラにある》
と非難した。

 さらにアルアラビーヤは、ヒズボラの指導者ナスラッラーが2016年に行った演説を引き合いに出して、こう皮肉を込めて報じている。

《ナスラッラーは演説でこう語っていた。「イスラエルのハイファにはアンモニアを貯蔵している巨大な倉庫がある。我々は2006年の戦争ではそれを攻撃するのは避けた。彼らはそのガスを1万5000トンも所有しており、これは数万人を死にいたらしめることができる」

「専門家は、それはまさに核爆弾のようなものだ、と言った。要するに、レバノンは核爆弾を所有していると言える。これは全く、誇張などではない。我々は確かに、本物の核爆弾は所有していない。しかしそれは、もしここから数発のミサイルが発射されれば、それがハイファにあるアンモニアと一緒になって、核爆弾に匹敵するインパクトを引き起こす、という意味での核爆弾なのだ。彼(専門家)は、もし数発のミサイルが80万人の住むその地域(ハイファ)に撃ち込まれれば、数万人が死亡することになると言った」

 ナスラッラーはこの演説中、上機嫌で笑顔も見せていたが、彼の描いたシナリオは彼の祖国レバノンで現実化した》

《港の倉庫に荷揚げされたものが、なぜかそこに放置され続けてきたようだ》

 同じく反ヒズボラであるアラブ首長国連邦資本の「スカイニュース・アラビーヤ」は、

《爆発した硝酸アンモニウムはロシア人の所有する船に積まれていたもので、本来モザンビークに運ばれる予定だったが技術的問題が発生してベイルート港に停泊。その時、港の倉庫に荷揚げされたものが、なぜかそこに放置され続けてきたようだ》
と報じた。
《税関や港の管理者の中には、この存在と危険性を認識していた人が複数いた》
とも伝えている。

 またイスラエルの「エルサレム・ポスト」は爆発の翌日、

《ヒズボラはロンドン北西部の4カ所に数千個の保冷剤にアンモニウムを入れたものを備蓄しており、2015年にMI5とロンドン警察がこれを発見、押収した過去がある》
と伝えた。

 さらに

《ドイツで、2020年4月のヒズボラのテロ組織指定後に行われた捜査でも、ヒズボラが備蓄していたアンモニウムが発見された》
とも報じている。

 ヒズボラから直接攻撃を受けているイスラエルのメディアが、ヒズボラに敵対的な報道をするのは言うまでもない。

 レバノン・メディアには当初、「自分はミサイルが撃ち込まれるのを見た」と証言する人も登場したが、レバノン当局も、また中東の他のニュース・メディアも、現在のところ、爆発は事故の可能性が高いとしており、攻撃やその他、意図的なものであったとは見ていない。

 中東メディアは、瓦礫の下から10時間ぶりに発見された人がいるといった救出の模様や、近隣諸国が続々と支援物資や医療団などを派遣する様子も報道している。

 被害の全容はまだ判明していない。

(飯山陽/Webオリジナル(特集班))

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