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ユニクロ現場の「レジ誘導で平均7秒をムダにしている」という非情さ 48年前、トヨタに“潜入”したルポライターが『ユニクロ潜入一年』を読む - 鎌田 慧

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 Amazon、ヤマト、佐川急便……数々の過酷な潜入取材をしてきたジャーナリスト・横田増生氏が次に選んだのは、自分の本を名誉毀損で訴えたユニクロだった。

「(批判をする人には)うちの会社で働いてもらってどういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」というファーストリテイリング・柳井正社長の言葉は“招待状”だった。『ユニクロ潜入一年』(文春文庫)は、合法的に名前を変えた筆者が、潜入した現場で見た実態をレポートしている。

 かつて『自動車絶望工場』で人間を疎外するトヨタ自動車の経営のあり方を体験ルポとして描いた、ルポライターの鎌田慧氏が解説する。

(全2回の1回目。#2を読む)

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言論にたいする恫喝訴訟における完璧な「勝訴」の記録

 ユニクロ社長・柳井正氏は、自社がブラック企業と批判されていることにたいして、「限りなくホワイトに近いグレー企業」と余裕をみせて答えている。完全なホワイトではない、とは謙遜かそれともホンネなのか。

「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」

 挑発的である。この作品『ユニクロ潜入一年』がユニークなのは、前著『ユニクロ帝国の光と影』を出版して名誉毀損で訴えられ、損害賠償(2億2千万円!)、さらに出版差し止め処分を請求された文藝春秋と、訴えられなかった著者とが手を携え、地裁、高裁、最高裁と争ってユニクロの訴えを退けたあと、追撃の一冊として出版されたことにある。

 これは、著者が柳井社長の挑発に乗ったかたちで、ユニクロのいくつかの販売店にアルバイトとして入職、さらにかつて働いていた労働者に取材して書いた、冷静沈着な一書である。サービス残業の恒常化などを自己体験で確認、柳井氏に叩き返した証拠であり、完璧な「勝訴」の記録である。

 売り上げ額を誇るような大企業が、言論にたいして「フェイク」と声高に主張して、「スラップ」(恫喝訴訟)を構える典型的な事例である。しかし、企業は社会的存在であって、「コンプライアンス」(法令遵守)ばかりか、内外の批判を謙虚に受け止めて改革し、時代にあわせていかないかぎり生き残れない。いまの時代は内部の批判者としての労働組合が無力化し、経営者が社内民主主義を自己点検する志向が弱まっている。

 企業経営は内外の批判に対応し、時代のニーズに合わせるのが賢明なはずだ。社内では箝口令を敷き、外部の批判にたいしては威丈高に高額な賠償請求を振りかざす。批判者を恫喝するのは、経営者の狭量を示して美しくない。世界から注目されているユニクロが、「巨大な柳井商店」の流儀のままでいるのか、企業内言論の自由を確立し、働くものを大事にする大らかな社風で、世界に迎え入れられるのか、その問いかけとしてこの本は貴重である。

「完全なブラック企業です」販売員は調達自在な資材扱い

 本書を読んで意表を衝かれる想いがしたのは、年間売り上げ8729億円、純利益528億円、従業員5万2839人。世界に冠たる大企業が、つねにアルバイターを募集し続けるほど、人手不足が常態化している現状である。販売をささえているのは、主婦と学生、短時間勤務のアルバイターたち。50過ぎの著者でも即決採用、翌日出勤で迎え入れられるほどに、労働者が払底している。

 ユニクロは世界にむけて店舗を展開しているのだが、あたかも広大無辺の戦場をとりとめもない傭兵でカバーしていて、さほどの不安感をもっていない。それが流通業界に不案内なわたしをまず驚嘆させた。

 著者の最初の就職先は、千葉県の幕張新都心店だった。その店は60人の従業員がおり、その構成は、2ヶ月間だけの短期アルバイト、半年ごとに契約を更新する長期アルバイト(月間100時間未満の労働)、それに準社員(月間100時間以上の労働)の三階層。「猫の手も借りたい」ほどの暮れなどの繁忙期には、販売員になりそうな客を物色し、勧誘する、というのも驚きだ。将来、社員化する、という約束で採用する「地域正社員」というものもあるが、採用基準はきびしいようだ。

「先日UNIQLOの記事が、ニュースになっていましたが、私の娘は息子と2人の母子家庭です。UNIQLOは子育て応援と言う事で、地域正社員希望で●●市の●●店に入社しましたが、1年以上が過ぎてもパートで、閑散期は週1~2日しかシフトをいれてくれませんし、当日ラインが来て出勤してと、日雇い労働者と同じです。完全なブラック企業です」

 とのメールが編集部宛に送られてきたという。客が減れば出勤日を減らし、客がふえれば出勤を強制する。販売員は調達自在な資材扱いでしかない。

人件費は削れるだけ削り、人手が足りなくなると残業を強制

 いま、非正規労働者は総労働人口の38パーセント強に達する。が、非正規率はユニクロの方が、はるかに高水準である。日本有数の巨大アパレル企業が、非正規の殿堂であることが、日本人の生活不安定化を象徴している。

 東京・新宿東口。2012年9月に開店した、1階から3階までがユニクロ、地下3階から6階までがビックカメラ。開店日の朝、入り口に4000人が詰めかけたというこの「ビックロ」館のユニクロは、外国人労働者が「5割」を占める。外国人のアルバイトが多いのは、時給1000円では、日本人のアルバイトがあつまらないからだ。

 編集部にメールを送ってきた女性の娘は、結局「地域正社員」に到達する前に、中途退社した。人件費は削れるだけ削り、人手が足りなくなると、片っ端から動員をかけて残業を強制する。もっとも原始的な人件費削減法である。

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